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シャルローネ、注目される

「ぴぇ……人がいっぱい……」

「やっぱり、緊張する?」

「うん。お姉ちゃん、その……」

「フィービーは甘えん坊なんだから。はい」


 緊張に震えるフィービーの手を取って、馬車から降りた私は、およそ数ヶ月ぶりとなるステラティア学園の敷地に降り立っていた。

 栄えある「七星学徒(セブンステラ)」に選ばれても、どこか縮こまってしまうのが、人見知りのフィービーらしい。

 まあ、そういうところも可愛いんだけどね。


「おい、見ろよ……」

「あの女、剣なんて野蛮なものを学園に……」

「水色の髪の子って、『七星学徒(セブンステラ)』? 嘘……!」

「それにしては、社交界では存じ上げない顔ですわね」


 そんなこんなで手を繋いだまま歩いていると、案の定とでもいうべきか、私たちは生徒たちから良くも悪くも……というか、悪いのが大半の意味で注目されていた。


「ぴぇ、お、お姉ちゃ」

「大丈夫。フィービーはちゃんと『七星学徒(セブンステラ)』に認められたんだから。堂々と胸を張って歩こう。ね?」

「ぴぇ……うん……」


 フィービーに向けられる視線は少なからず憧憬が混じっているけど、私に対するそれはほとんどが侮蔑や敵意なのは感じ取れる。

 ストレスの臭いが鼻をつくからだ。

 わかっている。私だって、なんで合格できたのかよくわかっていないんだから。


 まさか、魔力測定試験の成績がよかったなんてことはないだろうし。

 でも、フィービーの前ではせめて「立派なお姉ちゃん」でありたいから、取り繕っているだけだ。

 はぁ、胃が痛いなぁ。


 ──なんて、一人で苦笑していると。


「久しぶりね、シャルローネ・アクシア! フィービー・アクシア!」

「リーヴェ! 元気だった?」

「ぴぇ、り、リーヴェさん……」

「ええ! あなたたちとこうして学園で会えることを楽しみにしていたわ!」


 銀髪を靡かせながら、爛々と「虹の瞳」に溢れんばかりの輝きを灯したリーヴェが、私たちのところに駆け寄ってきた。

 リーヴェは、記憶の中にある姿よりも背が伸びていて、顔立ちも美人と呼ぶのが似つかわしくなっている。

 十三歳になって、私も結構大人びてきたかな、なんて、ぼんやり浮かれていたけど、すっかり垢抜けちゃって。敵わないなあ。


「ふふん、まずは一勝ってところかしら?」

「なんのこと?」

「誤魔化しても無駄よ、シャルローネ。あなたがあたしの美貌に見惚れているのは、お見通しなんだから!」


 びしっ、と人差し指を立てて、リーヴェは得意げな顔で宣言する。

 やっぱりというかなんというか、顔がいいこと、自覚しているんだ。

 私もお父さんやお母さん、村の皆からは可愛いって言われてきたけど、リーヴェの顔立ちはもはやそういう次元じゃなく、美術品だ。


「そうだね、リーヴェは元から可愛かったけど、ぐっと美人になったね。正直、私の負けかも」

「ふぃ、フィービーは子供っぽいってよく言われるから、憧れちゃいます」


 フィービーも思うところは同じなようで、リーヴェにキラキラと輝く無垢な憧憬を向けていた。


「……ふ、ふふん! 当然ね! 学園に入って最初の勝負があたしの勝ちだなんて、縁起がいいわ!」


 リーヴェは少しだけ視線を逸らして、得意げに大きく膨らんだ胸を逸らした。

 ……次の勝負も、私の負けかも。

 フィービーだったら、引き分けぐらいには持ち込めたかもしれないけどね──と、苦笑していたときだった。


「……あなた」


 人混みをかき分けて、フィービーやリーヴェと同じエポレットと飾緒が縫い付けられた制服に袖を通した、小柄な女の子が、とことこと踵を鳴らす。

 背丈は私よりも小さいフィービーとそう変わらない子だった。

 セミロングに青と赤のメッシュが入った金髪に、不思議な──黄色の右目と翠色の左目を持つ女の子は、そのまま私の近くまでくると、じっとこちらを見つめてくる。


「えっと……どちら様ですか?」


 リーヴェとは知り合いだけど、この子については私は全くもってなにも知らない。

 着ている制服から、「七星学徒(セブンステラ)」の一人なのはわかるけど、それだけだ。

 もしかしたら入試のときに会ってたかもしれないけど、それだったら、こんなに特徴的な外見の子は覚えているはずだろうし。


「ラクィラ」


 歌うように、オッドアイの女の子は名乗る。

 不思議な響きの名前だった。

 でも、残念ながら聞いたことはない──と、記憶の中にラクィラの名前がないことを確かめていると。


「すんすん……生まれたての香り」

「え゛っ」


 思わず可愛くない声が出てしまった。

 私、そんなににおうの!?

 お風呂は毎日入ってるのに、フィービーと一緒に!


「濃厚な……白。じゃあね、シャルローネ。また」

「ちょ、ちょっと待って、ラクィラ! 私そんなにひどいにおいなの!?」

「? シャルローネは、石鹸の匂い」


 なにを言われているのかわからない、といった風情でラクィラは小首を傾げる。


「よ、よかった……じゃなくて! 初対面の女の子の、その……においを嗅ぐなんて!」

「?」

「とぼけた顔しないの!」

「……シャルローネは、まだ生まれたてだったから。珍しかった。気に障ったら、ごめん」


 ラクィラはよくわからないことを言って、ぺこりと頭を下げてくる。

 謝ってくれたらいいんだけど。

 おかげで入学初日からひどい勘違いを周りにばら撒いてしまうところだった。


「……じゃあ、またね。すぐ、会える」

「次からは絶対にそういうことしちゃダメだからね!」

「……ん。善処する」


 ダメそう。

 前向きに検討します、と同義の言葉を述べると、ラクィラは踵を返し、去っていった。

 なんなんだろう、あの子は。不思議ちゃんなのはわかったけど、それにしたって乙女に対して失礼がすぎる。


「あはは! 災難だったわね、シャルローネ」

「笑い事じゃないわよ、リーヴェ」

「そうね、もしも寮の部屋が同室だったら、あたしの石鹸を貸してあげてもいいわ! 薔薇の香りよ!」

「だから、お風呂には毎日入ってるって!」

「ぴ、ぴぇ……お姉ちゃんは、いい匂いですぅ!」

「冗談よ。でも、あのラクィラって子も『七星学徒(セブンステラ)』なら……負けられないわね!」


 それはそうだ。

 リーヴェの言う通り、入学はまだ通過点でしかない。

 このステラティア学園で頑張って、私は魔女になる。今はまだ、魔法が使えなくても。


「それじゃ、行きましょ。このあたしがエスコートしてあげるんだから、光栄に思うといいわ」

「はいはい。お願いね」

「お、お願いしますっ!」


 私とフィービーは、リーヴェについていく形で、入学式の会場である大講堂へと歩き出した。

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