閑話 シャルローネ・アクシアという少女
「今年の入学試験も、残念なことに死者が出てしまいましたな」
「致し方あるまい、心身ともに強きものでなければ、険しい魔導の道を進むことはできぬのだから」
「毎年実力を見誤ってラプテラス相手に命を落とすものはおりましたけれど……今年はまさか、フラウスパイダーとは。学長、この件については」
男は、俗に「賢人会議」と呼ばれている、ステラティア学園の重役たちが一堂に顔を合わせる円卓で、入試の結果報告を受けていた。
学長、と呼ばれた通り、今このステラティア学園を統べる魔導師である男、ジルヴェーネ・カルストレアは、鷹揚に頷く。
教頭を務めている険しい顔立ちの女性、ザハロワ・カルローネから渡された資料には、教師陣の想定していたエリアから外れ、フラウスパイダーの犠牲になったコーザとカルスの名前が記されている。
「どうもこうもあるまい。ケイン・マイセッカは代償としてドゥプテラスの首を持ち帰ったのだろう。あとは成績で判断するがいい。魔導の道に進むというのは、そういうことだ」
「仰る通りです、犠牲者の遺族には見舞金を出しておきます」
「迅速に、な。それよりも、気になることがある」
ザハロワに見舞金を出させる指示を下すと、ジルヴェーネは、犠牲者や怪我人の名前が記された紙の下に潜んでいた、もう一枚のそれを手に取った。
「どのようなことでしょうか?」
「このシャルローネ・アクシアという少女がフラウスパイダーを倒したというのは、まことか?」
「仔細は把握しておりませんが、彼女と、フィービー・アクシア、及び、リーヴェ・アルモントがフラウスパイダーの素材を持ち帰ってきたのは事実です」
「ふむ……」
シャルローネ・アクシア。
ジルヴェーネは、内心で呟き、机に置かれた、試験の結果が記されている紙束から一枚を引き抜く。
そして、机の上に広げてみせた。
「筆記の成績は悪くない。実技に関しても、まさか森の奥に分け入ってまで、フラウスパイダーを倒したという受験生は初耳だ。あれは大人の狩人が四人集まってようやく相手になる魔物ゆえにな」
「ですが、彼女の魔力測定試験における成績は」
「測定不能……採点不可、となっているな」
「はい。事実上の零点です」
ザハロワの言葉に、ジルヴェーネの口角が微かに吊り上がる。
シャルローネの筆記の点数は八十七点。
実技の点数は文句なしの百点だとしても、合計して百八十七点──学園の求める数字とは、程遠い。
「フラウスパイダーをどう倒したのはわかりませんが、彼女は落第でしょう。妹のフィービー・アクシアは総合点が二百八十六点──『七星学徒』へ、既に内定が決まっておりますが」
「く、くくくく……」
「学長?」
「『未知を恐れるのではなく、正しく理解することが文明の霊長たる人間の責務である』」
「……『始祖の魔女』サイェア様のお言葉ですね」
含み笑いをするジルヴェーネに対して、ザハロワは首を傾げる。
始祖の魔女、サイェアが遺した言葉はそのままステラティア学園の教訓でもある。
しかし、なぜ今それを──ザハロワが問うよりも早く、ジルヴェーネが口を開いた。
「素晴らしいではないか、合格だ。シャルローネ・アクシアをこのステラティア学園に迎え入れる」
「お言葉ですが学長、魔法も使えず、魔力測定では結果もわからぬ受験生を招き入れるのは──!」
「学長たる私の決定に異があると?」
「……」
「強き者は尊き者でもある。シャルローネ・アクシアという少女は……案外、この学園に新たな風を吹き込んでくれるかもしれん……実に喜ばしいことではないか。私からは以上だ」
ジルヴェーネは、ざわめき立つ教師たちからの反論を許さずに立ち上がった。
シャルローネ・アクシア。
外れ値がもたらす新たな風への期待を馳せながら、ジルヴェーネは、「賢人会議」を後にするのだった。




