表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】「君の静寂が愛おしい」殺された記憶を持つ令嬢が沈黙を選んだら、ヤンデレ騎士の最愛になった件  作者: ましろゆきな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/24

第十六話:狂った歯車と、後悔の残滓

 【Side:アルフレート】


 重い瞼を押し上げると、視界は白く霞んでいた。

 鼻を突くのは、自身の口内から溢れた鉄の匂い。そして、その奥に微かに混じる、愛しいひとの甘い香りだった。


「…………っ」


 肺が焼けるような熱さを堪え、視線を巡らせる。

 すぐ傍らには、エルシアがいた。

 泣き腫らした琥珀色の瞳。その瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いている。


 だが、何かが違う。

 これまで俺を「殺人鬼」として見ていたはずの、あの冷たい拒絶の光がない。

 そこにあるのは、痛々しいほどの憐憫と、触れれば壊れてしまいそうなほどに柔らかな光。


(……よせ。そんな目で、俺を見るな)


 拒絶されている方が、どれほど救いだったか。

 彼女が俺を憎んでいれば、真実に近づくことはない。真実に近づかなければ、彼女が死ぬこともないのだ。


 不吉な予感に急かされるように、俺は力の入らない腕を動かし、傍らの机に目をやった。

 そこには、見覚えのある革製の手帳が、無造作に置かれていた。


(……日記を、読んだのか……!)


 心臓が、呪いの鎖とは別の衝撃で跳ねた。

 鍵のかかる引き出しに仕舞い込んだはずだった。だが、父上たちが乗り込んできたあの修羅場の中、衰弱しきった俺の意識はそこまで回っていなかった。出しっぱなしにしていたのか、あるいは意識を失った拍子に零れ落ちたのか。


 そこには、呪いの詳細こそ記していない。

 だが、一周目の惨劇に対する血を吐くような後悔と、今世で彼女を「沈黙」の中に閉じ込めてでも守り抜くという、歪んだ誓いが綴られていた。


(迂闊だった……。これでは、俺が彼女を愛していると、教えているようなものではないか)


 俺が彼女を愛している。

 その事実を彼女が「確信」した瞬間、この呪いは次の段階へと移行する。

「なぜ、愛しているのにあんなことをしたのか」という問い。その答えを俺が口にすれば、彼女の心臓は止まる。


「……アル、フレート、様……」


 彼女の唇が、音もなく動いた。

 まだ声は出ていない。だが、その瞳に宿った熱は、明らかに俺という「殺人鬼」の正体を暴こうとしていた。


 俺は震える手で、彼女の視線を遮るように日記を掴み取った。

 そのままベッドに背を向け、激しく込み上げる咳を血と一緒に飲み込む。


「……下がれ。エルシア……」


 突き放すような声を出したつもりだったが、掠れた喉からは情けない音しか出なかった。

 俺を嫌え。俺を恐れろ。

 お前を救うために俺が選んだ「沈黙の鳥籠」が、お前の優しさによって、今まさに内側から壊されようとしていた。


 俺に残された時間は、一周目の命日まであと僅か。

 砂時計の砂が落ち切る前に、彼女の「愛情」という名の猛毒が、俺たち二人を死の淵へと引きずり込もうとしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ