【Side:アルフレート】:血塗られた契約と、執着愛の代償
暗闇の中にいた。
温もりも、光も、彼女の声すらもしない、虚無の淵。
(ああ、またこれだ)
一周目の最期。彼女を銀の剣で貫いた瞬間の、あの「静寂」が脳を支配している。
あの日、彼女の愛という名の「絶叫」から逃れるために、俺は彼女を殺した。
けれど、彼女の声が止んだ瞬間、俺の世界からは色彩も意味も消えた。
『……愚かな男よ。救うために殺し、殺したことで絶望するのか』
虚無の中から、形のない「声」が響く。
それはこの世界の理を司る神か、あるいは俺の罪悪感が見せた幻影か。
「……彼女を、戻してくれ」
俺は血の海に沈みながら、見えない何かに縋り付いた。
「彼女の魂を救いたかった」というのは独りよがりだ。俺はただ、彼女のいない世界に耐えられなかった。
『ならば、契約を。お前の命を薪とし、時間を巻き戻そう。だが、二度目の人生は一度目よりも残酷だぞ』
「……構わない」
『お前が過去を語れば、彼女は即座に死に、世界は二度と戻らぬ「無」へと帰す。そして、お前が彼女に愛されぬまま運命の日を迎えれば、お前は死に、彼女もまた同じ死を辿る』
それは、究極の沈黙を強いる呪いだった。
彼女に謝ることも、愛を乞うことも、真実を明かすことも許されない。
ただ、彼女をこの手の中に守り続け、彼女が自ら俺を愛してくれる奇跡を待つだけの、終わりのない監禁。
「いい。……それでもいい。彼女が、息をしている世界なら」
目を覚ませば、そこは五年前の朝だった。
隣にはいない。けれど、この世界のどこかで彼女が生きているという確信。
俺は震える手で、まだ彼女に触れていない自分の掌を見つめた。
(今度こそ。……今度こそ、お前を壊さず、俺の手の中に繋ぎ止めてみせる)
俺の愛は、一周目よりもずっと歪み、重く、沈黙に染まっていた。




