11.雨の日の図書室
新学期が始まって1ヶ月が経った。今年もすいくんと同じクラスで2人で喜んだ。
クラスにもすいくんがいる安心感もあり去年よりも貝殻のキーホルダーを触る機会は少し減った。
またすいくんはクラス委員になり、ぼくは図書委員になった。
図書室で去年と同じく雑誌を読んだり作業をしたりする。
先輩が来ない日はしーんとして静か。
(今日はあゆみさんくるのかな?)
あの日から……心の中でだけ呼び方を変えてみた。
先輩の前では絶対できない。
でも。
クレープを一緒に食べたあの日は、ぼくの中で少しだけ特別な日になった。
そんな気がした。
新学期になるのも、図書室に行くのも楽しみで早く春休みが終わって欲しいと思った。
(こんな気持ち初めて。これまでずっと休みが好きだったのに)
ガチャ。パタン。
図書室の扉が開いた。
去年までだったら、カウンターで作業してたけど今年からは違う。
顔をあげて先輩に挨拶をしてる。
「凛月。こんにちは」
「あゆみ先輩こんにちは」
それだけのやりとり。
それでも……楽しかった。
先輩はいつも通り1番奥にいく。そして少しだけ休憩して帰っていく。
その繰り返し。
(2人だけの秘密がなんだか嬉しい)
そんな新学期の始まり。
梅雨に入って雨が続いてる。
窓に雨が当たって普段静かな図書室に雨の音が響く。
壁にかかった時計を見る。
(今日雨だけど……あゆみさん来ない?)
先輩は、3年生になってサッカー部の部長になり、この前の選挙で生徒会長になった。
(去年よりも忙しいのかも)
ぼくがいる日でも来ない日も少しだけ増えた。
ガチャ。バンッ。
いつもより強い扉の閉め方にぼくはビクッとなる。
(あゆみさん以外の人?)
顔が怖くて上げられない。
キュッ、キュッと歩いてくる足音が激しい。
(誰?怖い。なんで図書室くるの)
顔をあげずに下を向いて作業してるフリをする。
どんどん近づいてくる足音。
カウンターの前で止まった。
(なんでぇ。りつがいる日に来ないでよぉ)
「凛月?何してるの?」
頭の上から聞こえたのは先輩の声。
「えっ?あゆみ先輩?」
おずおずと顔をあげたら目の前にはあゆみ先輩がいた。
「うん。そんなに怯えてどうしたの?」
不思議そうな顔をしてる先輩。
「あのっ……」
(どうしよう。あゆみさんに本当のことを言う?)
口を開きかけては閉じる。
さっきの激しい足音とは違い、優しい顔の先輩。
ん?と首を傾げる先輩。
(あっ、サラサラの髪の毛。いつも綺麗)
「ドアの閉め方が激しくて怖くて」
髪の毛に気を取られてたら、口から言葉がこぼれ落ちてた。
(りつ!何言って)
慌てて口を手で押さえる。
ぼくをみて目をまんまるにする先輩。
そしてそのままカウンターの中を指差した。
「中、入ってもいい?」
(本当はダメだけど……でも)
黙って頷いてた。
「ありがとう」
先輩はそのままカウンターの中に入って、ぼくの椅子の隣に座った。
「先輩!地べた!床!りつの隣の椅子」
床に座った先輩の姿に慌てて、隣にある椅子を差し出す。
先輩は手をひらひら振る。
「いらない。これだとカウンターからオレの姿見えないだろ」
(あっ……あゆみさんまたオレって)
クレープ屋さんの時から2回目だ。
「でも……」
先輩を床に座らせていいの?と少しだけ戸惑うぼく。
先輩はそんなぼくをみて、椅子に座るようにジェスチャーをしてくれたので椅子におずおずと座った。
「オレずーっと図書館で椅子に座ったことないから。凛月は気にしなくていいよ」
そう言って今度は床にそのままごろんと寝転がった。
「オレのこの姿びっくりした?」
イタズラっぽい瞳で聞いてくる先輩。
(なにかあったのかな……)
「少しだけ。でも先輩らしいかも」
素直な気持ちで伝えてみる。
「オレらしい?そんなの初めて言われたかも」
意外そうな顔でぼくをみる先輩。
「先輩……オレって言うし、この姿もしっくりくるかなって」
ぼくがおずおずと伝えたら先輩は起き上がってそのままあぐらをかいた。
「えっ?凛月の前でオレって言った?あっ。今言ってるか」
額に手を当ててる先輩。
「うわぁ……完全に無意識でしてたわ」
少しだけ動揺してるような先輩。
(りつ、ここでなにか言った方がいいの?)
どうしよう。黙って先輩を見つめる。
「まぁ。いっか。凛月は秘密を分け合う仲だしな」
そう言って先輩がニカッと笑った。
(あっ、先輩のこんな顔初めてみた)
胸がドキッとして、変な気持ちになる。
「凛月にはもう隠しても仕方ないしな。普段はぼくって言ってるけど不意にオレと言っちゃうんだよ。今日はちょっと生徒会の方でイラつくことあって。ごめんな驚いたよな」
顔の前で両手で手を合わせて謝る先輩。
先輩に首を振るぼく。
「凛月の顔見たら気持ち落ち着くかなって。ここにきたんだ」
ぽつんと呟く先輩。
(えっ?あゆみさん、りつの顔を見にきたの?)
突然な言葉にドキドキする。
そのままガッと、また床に寝転ぶ。
「オレさ、めんどくさがりなんだ。細かいことどうでもいいしめんどくせぇ。と思うんだ。でもそれは言えないからさ」
そこで一度言葉を区切る先輩。
「全部投げ出したくなるんだけど、羽柴家の名前を汚せないからさ。休憩場所ないと息詰まるんだ」
ポツリとポツリと先輩の言葉が図書室に響く。
でも……。
今日は。
雨でその言葉がかき消される。
「りつ……いつでもここにいます」
立ち上がって、先輩の隣にぼくも座った。
ぼくの方をみる先輩。
「りつがいる日はここにきて、寝っ転がってください」
そこで一度口を閉じる。
そして……先輩の目をまっすぐ見つめる。
「それに……寝転がってる人はカウントできないので」
そう言って先輩に笑いかけた。
ぼくの言葉を聞いて先輩は笑ってくれた。
「寝転がって本読むのは?」
先輩はいたずらぽい顔をしてぼくに聞く。
「寝転がってる時はカウントできません」
そう言ってお互い顔を見合わせて笑った。
(少しでも先輩が楽になる場所になればいいな)




