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10/18

10.ちょっとだけ


 先輩と並んで一緒にお店に入る。


 (なんだか、変な感じ)


 普段はママと座る席に先輩と座る。


 (目の前に座ってるのママじゃない)


 椅子に座ってもなんだか居心地が悪くてソワソワしてしまう。


 ぼくの様子を見て先輩がふっと笑う。


「そんなに緊張しなくていいから」


 見られてたことが恥ずかしくなって下を向くぼく。


 その目の前に見慣れたメニューがさっと出てきた。


「ぼくここ初めてだからきみのおすすめ教えて」


 顔をあげたら先輩がメニューを差し出してくれてた。


 にっこり笑ってる先輩。


 (ぼくのおすすめを食べて欲しい)


 不意にそう思った。



「ここのガトーショコラを入れたクレープがぼく好きなんです。生地をプレーンから抹茶に変えて、アイスをチョコにせずにバニラにして、生クリームを追加するんです。あっ、先輩バナナ好きですか?りつは、バナナも好きなので絶対入れます!この組み合わせがおすすめです」



 (あっ、やっちゃった)



 両手で口を押さえる。


 ぼく一気に話しちゃった。変なやつって思われるよね。

 おずおずと先輩の方を見る。


 先輩は目を丸くしてぼくを見て、笑ってくれた。


「うん。じゃあぼくもそれにしてみる。きみがそこまで語ってくれるクレープ楽しみだ」


 (ぼくのこと全くバカにしてない)


「はいっ!じゃあ注文しますね」


 嬉しくなって、店員さんにいつものクレープを2個頼んだ。


 注文が終わってクレープが来る間、先輩と2人。


 静かな沈黙に緊張してきた。


「きみはりつって言うんだよね?漢字は?」

 先輩がじっとみてぼくに聞いてきた。


「凛に月で凛月です」

「凛か。もしかしたらご両親は凛に静かな強さとかしなやかさを願ったのかな」


 先輩のぽつんとつぶやいた言葉に今度はぼくが目を見張る。


「パパとママは、芯があるけど人に寄り添えるように。強さはあるけど優しさもあるよう。月の光のような明るさで周りを照らして欲しい。の意味を込めたと言ってました」


 こんな風にぼくの名前のことを聞いてくれることが嬉しい。


 胸がとくっ。と鳴る。


「そっか。ご両親の願い通りになってるね。きみは好きなものをきちんと持ててるね」

 先輩がぼくの服装を指さしてそう言ってくれた。


 ぼくは自分の服を一度見る。


「でも……りつ、学校では隠してるから。周りにバカにされるのが怖いから……」


 先輩が褒めてくれたけど、そうできてない自分が少し恥ずかしくなって下を向く。


「そんなことないよ。ちゃんとここで表現できてるきみはすごいよ」


 そう言った先輩の声がなんだか……少し寂しそうに感じて顔をあげた。



 先輩の目がなんだか潤んでる気がした。


「オレはね、いい子ちゃんするのが苦しくなるんだ。いつも周りからどう見られてるか考えて羽柴家の名に恥じないようにと言われてきてるから。そこから逃げ出したくなるんだ」



 (先輩……オレって)



「だから、オレはきみはすごいと思うよ。好きなことから逃げてないから」


 (先輩の声が寂しそう)


 耳にその声が残る。


「そんなことないです!先輩すごいです」


 (あっ)


 思わず出た大きい声に自分でびっくりして手を押さえる。



「ごめんなさい。大きな声出しちゃった」


 恥ずかしくなってまた下を向くぼく。


「ううん。そんなことない。聞かせて」

 先輩の声が上から優しく降りてくる。



「先輩は、入学式の時も図書館でもいつもきちんとぼくのこと見てくれました。演技じゃないのぼく分かります。それに……」


 一旦言葉に詰まって口をつぐむ。


「先輩はいつも周りの人に囲まれてるから……だから疲れちゃうことあると思う。だから……」

 上手く言葉にできなくて、なんといってもいいのか迷う。


「うん。ありがとう。きみの気持ちは伝わったよ」


 顔をあげたら、優しく微笑んでくれてる先輩。



(あっ、先輩の本当の笑顔これなんだ)


 普段の笑顔よりも少し幼い無防備な感じがした。


「不思議だね。きみにはなんでか本音で話しちゃうな」


 少しだけ照れくさそうに頬をかく先輩。

 その言葉にぼくの胸は、カッとなって胸を押さえた。


「りつも……先輩の前だと話せます」



 そう伝えた。


「そっか。ぼくたち図書室の秘密を分け合う中間だもんね」

 そう言って先輩がイタズラっぽい笑顔を見せてくれて笑った。


「そうですね」


 ぼくも先輩の顔を見て笑った。

 そのままぼくの顔をじっと見つめる先輩。


「きみのこと、凛月と呼んでいい?」


 (りつ……胸が)


 先輩にそう言われたら胸にドキドキと痛みが同時にやってきた。


 (こんなの初めて)


 ぼくの答えをじっと待ってる先輩。

 口を開きたいのに、開けなくて頷く。


「うん。ありがとう。凛月」


 (名前呼ばれただけなのに)


 胸がドキ、ドキ、キューとなって変な感じ。


 (ぼくの名前じゃないみたい)


「ぼくの名前、凛月は知ってる?」

「羽柴先輩」


 ようやくそれだけが口から溢れる。

 先輩は、「うん」そう小さく頷いた、


「秘密を分け合う中だから、そうだな。歩実と呼んで欲しいな」


 先輩が首をかしげた。


 その時。


 先輩の髪の毛がサラッと流れて肩にかかった。


 (あの髪触りたい……)


 突然頭の中に浮かんだ言葉にびっくりする。


 (りつ!何考えてるの!)



 変な考えを必死に消す。


 ぼくのことをじっとみてる先輩。

 早く答えなきゃと焦る。

 

「あゆみ先輩」


 そう小さく口の中でつぶやいてみた。


「うん。凛月から名前呼ばれるのいいね」


 そう言って先輩は嬉しそうに笑ってくれた。


 (ぼく、名前呼んだだけなのに)


 ドギまぎしていたら、クレープが届いた。


「すごいね」

 先輩が目を見張る。


「はいっ!これ美味しいですよ」

 クレープを受け取って、目をキラキラさせるぼく。


「ボリュームあって美味しそうだね」


 先輩もクレープを受け取った。

 先輩の声が少し弾んでる。


「食べようか」


 先輩がぼくに声をかけてくれて、2人で一口目にかぶりついた。



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