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異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第10章:法律

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【第9話】

 冥府総督府めいふそうとくふに帰ると、ちょうど一服をしていたオルトレイに出迎えられた。



「お、お帰りだな。法律はどうだった?」


「制定された訳だが」


「何と!!」



 無事に制定されたことを報告すると、オルトレイは青い瞳を見開いておどろきをあらわにした。

 彼の反応は予想できていた。何せキクガもすんなりと制定されるとは思っていなかったし、実際にルージュからは却下されたばかりである。これから啓蒙活動けいもうかつどうを始めようとした矢先にグローリアと出会い、彼のおかげで制定に繋げられたのだ。


 戸惑うような感情が彼の魔眼まがんにも反映されたのか、キクガの肩を叩いて「何かあったか?」と心配そうに問いかけてくる。



「いや、本当にこれでいいものかと」


「制定されればこちらのものだろう。何を躊躇ためらう必要が?」


「なかなか無理やり通したものだから、少しばかり戸惑っている訳だが」


「ほーん」



 オルトレイは首を傾げ、



「それはあれか。お前は権力者たちを暴力でねじ伏せて法律を通したと言うのか?」


「いや……」



 キクガはゆるやかに首を横に振り、現世で起きた事件の顛末てんまつを語ることにした。



「最初は法律を却下されたのだが、啓蒙活動けいもうかつどうをしようとした矢先にグローリア・イーストエンドという魔法使いと出会った訳だが。彼が協力してくれた」


「げ」



 オルトレイはあからさまに顔をしかめた。

 彼の態度は、例えるなら『苦手な人物と関わりを持った』と言わんばかりのものだった。どんな人物が相手でも大抵は「ほーん」とか「そうか」などのごく普遍的ふへんてきな態度を貫くのに、グローリアの名前を出した途端にこれである。


 キクガは「苦手なのかね」と聞き、



「実のところ、あの容赦のなさは私もどうしていいのか分からず……」


「グローリア・イーストエンドは『最古の魔法使い』と呼ばれているぐらいだからな。誰よりも魔法使いらしく在り、誰よりも長く世界を見てきたとんでもない化け物だ」


「最古の魔法使い」


「ああ。簡単に言うとだな」



 オルトレイは親指で自分自身を指すと、



「グローリア・イーストエンドは俺よりも遥かに年上だ」


「……君、何歳だったか」


「知らん」


「ではグローリア・イーストエンドは」


「分からん。少なくとも、俺がまだおしめを変えてもらうような年齢だった頃からずっとあのままのあの姿だ。黒髪に紫色の瞳の、いつもニコニコと笑っている優男だ」



 魔法使いや魔女は『魔力』というものを身体に有しているので、魔法を使うごとに徐々に人間から逸脱いつだつしていくという話は聞いたことがある。だから魔法を使えば使うほど、魔法の研究に没頭ぼっとうすればするほど寿命が伸びていき、若々しい姿が保たれていくらしい。

 だが外傷からの干渉かんしょうには人並みなので爆発や事故などではあっさり死んでしまうのが真実であった。多少の怪我ならば魔法で治すことも可能だが、ぐちゃぐちゃの挽肉ひきにくになってしまうともうお手上げらしい。それはそうである。


 そんな理屈から見た目がとても若々しく思えても実年齢は不明なまま冥界にやってきたオルトレイよりも、グローリアは年上なのだとか。一体魔法使いとか魔女はどうなっているのか。



「まあ、魔法使用倫理協定の法律が制定されたのならば平和に1歩近づけたな」


「ああ」



 キクガはむんと両手に拳を握り、



「次は権力者や邪悪な魔法使いを冥界に引きり込む法律を考える訳だが。処罰は厳しく」


「おい、お前は一体何を目指している?」


「上昇志向は大事」


「確かに上昇志向は大事だが、魔法使用倫理協定を考えた時もかなり苦労していたと言うのにまた働くのかお前は!!」


「24時間働けます」


「働くな、戯けが!!」



 やる気がありすぎておかしな方向に突き進みつつあるキクガの後頭部を、オルトレイが「休め!!!!」と叫んでぶん殴ってきた。

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