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異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第6章:現世へ

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【第9話】

 冥界めいかいに戻ったキクガを出迎えたのは、オルトレイとアッシュの2人だった。



「よく戻ったな、キクガよ。結果はどうだった?」


「おう、お疲れ。現世げんせに行ったって聞いたから、元上司として様子を見にきたぞ」



 そんなことを言いながら、2人は笑った。


 アッシュとオルトレイの態度に、キクガは懐かしさを覚えた。ようやく自分の家に帰ってこられたような気分になる。現世では冥府総督府めいふそうとくふの関係者と知られてはいけないので、気を張っていなければいけなかったのだ。

 とはいえ、現世も決して悪いとは言いがたい。紹介してもらった喫茶店はケーキも紅茶も美味しかったし、店内の静かで落ち着いた雰囲気もよかった。そして何より、ユフィーリアとエドワードの話は聞いているだけでも有益な情報ばかりだった。やはりオルトレイとアッシュによく似て話し上手である。


 現世で別れた銀髪碧眼の魔女と筋骨隆々とした巨漢の2人組のことを頭の片隅で思い出しつつ、キクガは今日もらったばかりの合格証をオルトレイの目の前に提示した。



「ご覧の通りの結果な訳だが」


「満点合格ではないか!!」



 合格証に記載された『満点合格』の文言を目の当たりにして、オルトレイが楽しそうに笑った。



「これは記録課の連中も相当悔しがるだろうな。満点合格ということは聞いた文章全部を入力できたのだろう、それも一言一句()らすことなく!!」


「そのおかげで他の受験者は全滅してしまったようだが」


「何してくれてんだお前」


「化け物だと言われてしまった……」



 エドワードから化け物扱いを受けたことを思い出し、キクガはしょんぼりと肩を落とす。こちらは人間である。決して意図せず冥府書記官めいふしょきかんの試験会場を荒らすような化け物になった覚えはない。

 割と本気で化け物扱いにしょんぼりしているキクガをはげまそうとしたか、オルトレイとアッシュがそろって背中を叩いてきた。ちょっと痛かったが、彼らなりの気遣いを感じる力強さだった。


 おかげで少しばかり立ち直れたキクガは、本題をオルトレイとアッシュに向けて相談する。



「オルト、それからアッシュも」


「何だ、キクガよ。慰謝料いしゃりょうなら払えんぞ」


「そうだそうだ、そこまで強く叩いた訳じゃねえだろ」



 軽口を叩くオルトレイとアッシュに、キクガは言う。



「新しい法律を制定せいていするならどうしたらいいかね?」


「一体どうした」


「何かあったか」



 思いもよらない角度かくどからの質問に、オルトレイとアッシュは揃って戸惑いの表情を見せた。少し前に冥界へやってきた異世界出身の新人獄卒が、いきなり「法律を制定したい」とか言い出したらそんな反応にもなろう。



「現世に行き、思い知った訳だが。人は魔法を自由に使いすぎている。倫理的りんりてきに見て悪いことに使おうとも、誰にも咎められないのは問題な訳だが」


「……何か見たのか?」



 オルトレイが静かな口調で問いかけ、キクガはそれに首肯しゅこうで返す。



「子供が、父親に怒られていた訳だが。『これでは冥王様の元に行けないだろう』と怒られていた。共に冥府書記官めいふしょきかんの資格を受験した魔女が言うには、いずれ冥界に送られる生贄いけにえとなるだろうと」


「ああ、縁故採用えんこさいようのことか」



 キクガの説明を受け、オルトレイが合点がいったとばかりに頷く。

 そして妙にあっさりとした口調だった。まるで初めから知っていたと言うような態度だったのだ。


 キクガはオルトレイを真っ直ぐに見据え、



「知っているのかね」


「知っているも何も、冥王裁判課めいおうさいばんかの連中は縁故採用えんこさいようによるものだ。生贄いけにえにされた連中をあわれんだ冥王めいおうが、冥府総督府めいふそうとくふに置いてやっている。ろくすっぽ学ぶことなく、冥界の私物化を目論もくろむ一族の欲望の果てに殺された哀れな子供よな」


「……それは、キサラギ補佐官もか」


「そうだ。あいつも親の欲望を満たす為に生贄いけにえにされた哀れな犠牲者ぎせいしゃだ」



 滔々《とうとう》と語ったことにキクガが非難の視線を寄せ、オルトレイが「勘違いするな」と返す。



「俺はそんな阿呆アホどもと違い、他者を犠牲ぎせいにしてまで権力を維持いじしようだとか魔法を使おうだなんて考える訳がない」


「ならば異議いぎを唱えることは出来たはずだが」


「キクガよ、あえて厳しいことを言うが俺のような考えを持つ魔法使いや魔女は実に少数だ。どれほど俺だけが声を上げようと、どれほど俺が他の意見をつのろうと、魔法使いや魔女にとっては風のように通り過ぎていくだけにすぎん。誰が何を言っても変わらんのだ」



 同じことを、ユフィーリアの口から聞いた気がする。彼女と同意見をオルトレイも口にした。やはり親子ということもあり、考え方も似るのだろう。

 やはりオルトレイほど優秀な魔法使いでも、声を上げただけでは世界は変わらない。世界を変えるのは如何に厳しいことか、ありありと見せつけられたようだ。


 オルトレイは「だがな」と大胆不敵な笑みを見せ、



「法律を作って縛るのは妙案みょうあんだ。進化とは制限された中でこそやられるべきだろうからな。無秩序むちつじょに魔法を使い、他者を犠牲にするやり方に終止符を打ついい機会だ」


「オルト……」


「俺はお前の考えを支持しよう、キクガ。法律が作られたあかつきには見せてみろ、添削てんさくぐらいはしてやろうではないか」



 心強い言葉をもらえ、キクガは安堵する。実のところ、法律関係はうといのでオルトレイに協力してもらえないかと思っていたところだった。



「ええと、読めないけど何すりゃいいんだ?」


「お前は応援でもしてろ、たわけが」


「アッシュ、君が応援してくれるだけでも力になる訳だが」


「何か馬鹿にされてねえかオレ!?」



 あまりにも高度すぎる会話についていけなかったらしいアッシュに、オルトレイとキクガはとりあえず応援を頼むだけに留めておいた。

 法律の制定の時に改めて説明をするのがよさそうである。出来れば、子供にも分かりやすいぐらいには。

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