表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第1章:こんにちは、冥界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/22

【第1話】

 光が満たす中をひたすら歩く。


 あてもなく、ただ真っ直ぐに。

 そうしているうちに、やがて足裏で土を踏む感覚を拾った。どうやら異世界とやらに到着したようだ。


 気がつけば、



「――――おお」



 気がつけば、世紀末が広がっていた。


 キクガは目の前に広がる光景に、感嘆の声を上げた。まごうことなく自分の常識が通用しない世界に興味が尽きなかった。

 頭上を覆い尽くすのは毒々しい鮮血を想起させる赤い空。夕焼け空とはまた違った色合いの空はこの世のものとは思えないほど禍々しく、世界の終わりを想起させた。逆に大地は果てが見えないほど漆黒であり、黒く塗り潰されていながらもゴツゴツとした土の感触は伝わってくるのだから変な気分になってくる。


 赤い空と漆黒の大地という地獄のような光景に、キクガは興味津々といったような雰囲気で視線を巡らせる。



「これはなかなか、私の思っていた世界と違うような訳だが」



 ここがどの世界なのか不明だが、始まりの神セイレムが「救ってほしい」とキクガに託した世界なのだろう。確かにこの様相だと救いようがありそうだ。


 試しに歩けるものかと足を踏み出してみる。真っ黒な大地は影のように揺蕩たゆたう存在ではなく、きちんと地面として横たわっている。ざりざり、という感覚が革靴を通じて足裏を刺激した。時折、大きめの石を踏むといい刺激にもなる。

 ただ、地面に転がる石やボコボコとした表面との境目が分かりにくい。どこまでも真っ黒に染められているので、どこまでが地面として構成されているのか判別が難しいのだ。どうしてこんな大地になってしまったのか。


 とりあえず大きな石などにつまずかないように注意しながら進むと、



「ぎゃあああ!!」



 不意に悲鳴が聞こえてきた。


 顔を上げると、遠くから真っ白な服の男が足をもつれさせながらこちらに向かって駆けてくる。鬼気きき迫る形相を顔に張り付け、何度も背後を振り返りながら何かから懸命に逃げている様子だった。中肉中背で栗色の髪をした、どこにでもいる外国人といった見た目の男である。

 真っ黒な大地の中にあり、彼の格好は非常に浮いていた。なるほど、白い服を目立たせる為に地面が闇のように真っ黒くなっているのか。漆黒の大地の有用性に、キクガは納得した。


 その真っ白い服を着た男はぼんやりと佇んでいるキクガの存在に気づくと、



「お、おらああああ!!」


「おや」



 男が真正面から抱きついてきたかと思うと、素早く背後に回ってキクガの首に腕を絡めてくる。流れるような拘束だったが、あまりにも体勢が雑すぎるのですぐに振り解けそうだ。


 目を見開いて男の行動に驚くキクガの耳に、野太い声で「この野郎!!」という汚い言葉が届いた。声の方向に視線をやれば、白黒の縞模様しまもようが特徴的な衣服――いわゆる囚人服を身につけた屈強な巨漢がこちらを睨んでいた。

 どこからどう見てもいじめの様相であった。囚人服姿の巨漢は棘のついた金棒を担いでいるし、暴行の空気が嫌というほど漂っている。相手の見た目も犯罪者然としており、明らかにこの真っ白な服を着た男の方を助けるべきだとは思うのだが。



「動くんじゃねえ!! こいつがどうなってもいいのか!?」


「私が人質ひとじちかね?」



 真っ白な服を着た男が犯罪者みたいなことを叫び始めたので、キクガは思わず驚きの声を上げてしまった。



「人質だ!! 何言ってやがる、余計な口を挟むんじゃねえ!!」


「私を人質に取っても意味などないと思うのだが」


「うるせえ!!」



 口から泡を飛ばしながら叫ぶ真っ白な服の男は、



「お前を人質に取って、俺は天界に行く!! もう地獄での呵責かしゃくはうんざりだ!!」


「ふざけるな!! テメェはまだ刑期が残ってんだよ!!」



 そしてあの囚人服の男はいじめっ子などではなく、真っ白な服の男に刑罰を与えていた刑務官のような存在だったらしい。


 人質に取られた状態で、キクガは「ふむ」と考える。

 これから真っ白な服の男から暴行を受ける羽目になるのは嫌だし、かと言って大人しく人質として捕まえられているのもしゃくである。先程から真っ白な服の男と囚人服の男がぎゃーぎゃーと叫びあっているので、そろそろ耳が痛くなってきた。


 少し考えてから、キクガは足元を見下ろす。そこにあったのは、真っ白い服を着た男の剥き出しの足だった。つまり裸足はだしである。



「えいや」


「ぎゃあ!?」



 問答無用でキクガは男の足の甲を踏み抜いた。痛みのあまり男はひっくり返り、虫の如くジタバタと暴れる。

 そんな男の背後を取り、キクガは彼の細い首に両腕を回す。簡単に動かないように固定した上で両足を使ってさらに相手の両足も固めた。そのままギチギチ、ギリギリと両腕に力を込めて首を締め上げる。


 名付けてチョーク・スリーパーである。亡き妻が総合格闘技の観戦も趣味だったので、ちょっと学んでみた次第だ。



「ががッ、ぎぃッ」


「くたばれ」



 よだれを口の端から垂らしながら苦しむ男をよそに、キクガはさらに相手の呼吸を阻害して意識を刈り取ってやった。


 くたりと腕の中で全身を弛緩しかんさせる男。白目をいて絶賛気絶中であることをしっかり確かめてから「よし」と頷く。人質に取ってくれた意趣返いしゅがえしは出来たと思う。

 真っ白な服の襟首を引っ掴むと、キクガは囚人服の男の前まで彼を引きずってきた。それから荷物でも渡すかのようにその気絶中の男を突き出す。



「こちらがご所望かね?」


「あ、ああ、助かる……」



 囚人服の男はキクガを見据えると、



「見かけない顔と格好をしているが、何者だ? 亡者じゃねえな?」


「確かに死んだ身ではあるが、訳あってこの世界にやってきた。説明が難しいので詳細は省くが、始まりの神セイレムより『とある世界を救ってほしい』と仰せつかった訳だが」



 キクガは話が読めずに唖然あぜんとする男に、淡々(たんたん)と要求する。



「申し訳ないが、君の上司のところまで連れて行ってくれないかね。交渉ごとはそこでする訳だが」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ