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異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第4章:冥府天縛

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【第2話】

 ガラクタの山がきずかれていた。



「これは凄い」


「…………」



 感心したような口振くちぶりのキクガの隣では、オルトレイが口をあんぐりと開けて呆然ぼうぜんたたずんでいた。


 そこは、職場というより『作業場』と呼んだ方がいい見た目をした部屋だった。天井は高く無骨な照明器具が等間隔に配置され、広大な部屋の隅々までまぶしく照らしている。床に敷かれているのは絨毯じゅうたんでもなく凹凸模様が特徴的な鉄板で、隙間に機械油の汚れなどが見受けられた。工具やら設計書やらが散らかったその部屋は、整理整頓がされておらず全体的に汚い。

 それ以上に、部屋の奥にうず高く積まれたガラクタの山が部屋を圧迫あっぱくしている様子だった。折れた巨大な金槌かなづちに刃の欠けたのこぎり、底の抜けたジョウロ、壊れた十字架、ボロボロになった手袋や防護服、千切れた鉄製のむちなど、ことごとく壊れて使えなくなってしまっている。見た目から判断して罪人の呵責かしゃくに使われている拷問器具だろう。


 それらの前でガックリとひざをついて項垂うなだれ、嘆きの悲鳴を上げているのは呵責開発課に所属する獄卒たちだろう。正確には、オルトレイと一緒に職場復帰を果たした獄卒か。



「オルト、あれはどうするのかね? 全て直すのか?」


「…………」


「あの、オルト?」


「…………」



 キクガは隣に立つ魔法使いの青年に話しかけるも、彼は動かない。ガラクタの山に視線を固定したままぷるぷると小刻みに震えていた。

 目の前で手を振ってみたり、肩を叩いてみたり、揺すってみたりと正気に戻す方法をいくらか試したが、やはりオルトレイは小刻みに震えるばかりだ。体調不良だろうか。


 阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄と化している呵責開発課の部屋でただ1人正気を保っているキクガは、どうすることも出来ずに右往左往するしかなかった。さすがに壊れたものを直すような異世界知識はないのだ。



「…………ュ」


「オルト、正気に戻ったのかね。よかった訳だが」



 唐突に声を発したオルトレイに、キクガは安堵あんどの息を吐く。ようやく会話が成立するようになったか。


 ところが、正気に戻ったオルトレイは言葉にもならない何かを小声でつぶやくなり大股で鉄製の作業机に向かう。獄卒たちが使用するものだろうそれに積まれた書類や工具を容赦なく落として、彼が手にしたものは真っ白な髑髏しゃれこうべだった。

 人骨にしてはつるりとした見た目をしているので、おそらく材質は骨ではないだろう。石か何かを頭蓋骨ずがいこつの形に削り出して研磨をかけたような感じだろうか。詳細について聞けるような雰囲気ではないので、キクガは黙っておくしか出来なかった。


 書類の山から発掘した頭蓋骨の脳天を拳でぶっ叩くと、綺麗に並んだ歯列がカタカタと音を立てた。そして『はい、こちら総務課です』という女性の声をつむぐ。総務課とかあるのか。



「呵責開発課のエイクトベルだ、悪いが獄卒課の課長に取り次いでくれ」


『少々お待ちください』



 女性の声が聞こえなくなってから数十秒後、聞き覚えのある男性の声が入れ替わるように頭蓋骨から流れ出る。



『おう、オルト。どうし』


「このたわけがあああああああああああああああああああああ!!!!」



 オルトは頭蓋骨に向かって絶叫していた。

 その絶叫のおかげで天井の照明器具はちょっと揺れたような気がしたし、キクガの鼓膜もあわや破れるかと思った。無事だったのでよかった。


 大音声を真っ正面から受け止めたアッシュは、悲鳴を上げてひっくり返ったようである。頭蓋骨から『どたんばたん』という何かが倒れる音が聞こえてきた。



「このッ、阿呆の阿呆の大戯けが!! どこをどういう風に使えばこんなガラクタの山を築き上げることが出来るぐらいに呵責道具をぶっ壊すことが出来るんだ!?!!」


『あ、あー……』



 ようやくアッシュもどうして怒られているのか理解に至ったらしい。頭蓋骨の向こうで苦い表情を浮かべているのが想像できる。



『わ、悪かったよ。その、ちょっと振っただけで壊れてよ……』


「誰がお前の為に作ったと言った!! これは全てお前の部下が使う為のものだ戯けが、脳筋狼は素手で十分だと何度も言っただろう俺の忠告や嫌味は右から左に受け流しておるのかどうなのだアッシュ!!」


『半分も入ってねえ』


「しまいにゃ殺すぞ駄犬が!!」



 オルトレイは「よぅし、分かった!!」と言うなり、



「獄卒課、お前たちは俺たち呵責開発課を怒らせた。よってここに戦争を宣言する。一方的に罪人もろともお前たちを蹂躙じゅうりんしてやる覚悟しろこの脳筋集団どもが。首を洗って待っていろ」


『え、ちょ、おいオルト』


「ちなみに言っておく。捕まえた奴らから生肝いきぎもを引きり出して全自動獄卒に改造してやる。喜べ、1週間働いても疲れない身体をゲットできるぞ。ありがたく思えよ駄犬」


『待てオルト、おい!!』


「ではな」



 頭蓋骨の脳天を再び拳で叩いて黙らせるオルトレイ。それからゆっくりと、呵責開発課の部屋を見渡した。

 ガラクタの山の前で膝をつき、嘆き悲しんでいた獄卒たちはもういない。誰も彼もが立ち上がり、その手には鈍色にびいろに輝く縄と工具やら金槌やら巨大鋸やら様々な武器を握っていた。殺る気に満ち満ちている。


 部下たちの気力に満足げな頷きを返したオルトレイは、



「野郎ども、獄卒課の連中を片っ端から捕らえて改造してやるぞ!!」


「「「「「応ッ!!!!」」」」」


「出撃だあーッ!!」



 オルトレイの号令で、呵責開発課の部屋から獄卒たちが飛び出していく。あっという間に広々とした部屋には静寂が戻った。


 1人残されたキクガは、ポカンとした表情で立ち去っていく呵責開発課の獄卒たちと彼らを先導するオルトレイの背中を見送るしか出来なかった。あの中に混ざればよかったのだろうか。

 だが何の業務をやればいいのか分からない以上、下手に動いて迷惑をかけても怒られるだけである。余計なことはしない方がいいだろう、特に今は。


 キクガは荒れ果てた呵責開発課の作業場に視線をやると、



「……とりあえず、まずは掃除からかね」



 部屋の掃除をすべく、キクガは掃除道具を探し始めた。

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