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異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第3章:叛逆の狼煙

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【第1話】

 キクガが冥府総督府めいふそうとくふで勤務を始めて、1ヶ月が経過した。



こうべれ、自らが犯した罪を反省しなさい」



 からからから、という何かを引きずる音が第1刑場に落ちる。


 音の発生源は、キクガの握りしめる真っ赤に熱された鉄製の棒切れだった。真っ黒な冥界の大地を舐めるように燃え盛る紅蓮の炎に突っ込み、十分に熱した鉄製の棒切れで目の前に正座をしていた罪人の横っ面をぶん殴る。

 痛みと熱さの両方が罪人をおそいかかり、真っ黒な大地に倒れ込んだ罪人の口から甲高い悲鳴がほとばしる。その頬は見事に焼けただれていた。


 倒れ込んだ罪人が起き上がるより前に、キクガは罪人の手の甲を踏みつける。全体重をかけて手の甲を踏んでやると、足裏からメキメキという枝でも折るような感触が伝わってきた。



「頭を垂れろと言ったが、聞こえなかったのかね。いつまで頭を上げている」



 手の甲を踏まれて悲鳴を上げる罪人に、まるで虫でも見るかのような視線を寄越すキクガ。



「他人の命を奪った君が反省もせずにのうのうと天国行きになるとでも? そんな阿呆なことが罷り通るとでも思うのかね」


「ちが、あれは……!!」


「言い訳無用。君が他人の命を奪った事実は消えない訳だが」



 罪人の手の甲を踏みつけていた足を持ち上げたキクガは、容赦なく振り下ろす。メキメキと嫌な音を立てていた手の甲だったが、力強く踏みつけられたことで今度こそ骨が折れた。

 断末魔にも似た絶叫が鼓膜こまくを揺らす。痛みのあまり暴れ回る罪人の顔面を狙って、熱した鉄製の棒切れを振り下ろした。一度だけではなく、二度、三度と数え切れないほど棒切れで殴って罪人を痛めつける。


 ピクリとも動かなくなった罪人の腹を蹴飛ばしてから、キクガは自分の背中を振り返る。そこには真っ黒な地面に並んで正座をする、4人ほどの罪人がまだいた。反省するように頭を垂れたまま、カタカタと小刻みに震えている。



「次は誰を」


「――おーい、キクガ!!」


「む」



 拷問ごうもんの空気感が台無しである。


 振りかぶった棒切れを下ろして視線を巡らせると、遠くの方でアッシュが大きく手を振ってこちらに駆け寄ってくるところが確認できた。一体何の用事だろうか。まだ鐘は鳴っていないので昼休憩ではないと思うのだが。

 昼休憩以外の話題ではないとすれば、新たな罪人が第1刑場に収容されたのだろうか。キクガは現在、5人の罪人の呵責かしゃくを任されているのだが、これ以上増えるとなるとさすがに身が持たない。



「何かね」


「いンや、仕事の様子を見に来ただけ」



 アッシュは「悪いな」とキクガに謝罪し、



「現場はどこもかしこも人手不足だからよ、同じ獄卒が何人も罪人を抱えなきゃならなくなる。せっかく確保した期待の大型新人に辞められちゃ困るからな、様子は見ておかねえと」


「気遣い感謝する訳だが」



 キクガは鉄製の棒切れで「ご覧の通りだ」と正座させた罪人たちを示す。



順繰じゅんぐりに呵責かしゃくをしているので時間はかかるが、やはり拷問をされている様を間近で見ることになると恐怖心も倍増する訳だが。『次は自分の番かもしれない』と思わせることが肝要な訳だが」


「うん、考えたくねえわンなこと」



 朗らかな笑顔で呵責の方法を説明するキクガに、アッシュは引きった笑みで返した。どこかドン引きされているような気配があるのだが、気のせいだろうか。獄卒ごくそつなのだからこれぐらいは当然だろうに。



「まあでも、程々にな。もうすぐ昼休憩だから、あまり無茶はするんじゃねえぞ」


「分かっている」


「じゃあ、オレは他のところの様子を見に行ってくる。引き続き頑張ってくれ」


「ああ」



 アッシュは忙しそうにきびすを返すと、足早にどこかへ立ち去ってしまった。

 獄卒課の課長であるアッシュは、大勢の部下がどれほど仕事を抱えているのかと把握はあくすることに忙しい。慢性的まんせいてきな人手不足なので課長自らも現場に出てきて呵責を行うが、普段は大勢いる部下の仕事状況の把握で手一杯なのだろう。1ヶ月前まではつきっきりで仕事を教えてくれていたことには感謝しかない。


 さて、仕事に戻るかと鉄製の棒切れを構え直したキクガの耳に、今度は別の声が飛び込んできた。



「おい、新人。追加の罪人だ」


「む」



 顔を上げると、裁判を終えて罪人判定を受けた死者たちを連れた獄卒が、3人の罪人をこちらに向かって蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたことで怒りを露わにする男女の罪人、そして何故だか手を組んで「おお、神よ」などと冥界の底まで目を向けることはない神様に祈りを捧げる青年の3人である。5人の罪人の呵責を任されているというのに、追加で3人は少しばかり厳しい。


 キクガは新たに追加された罪人を一瞥し、



「さすがに8人の罪人を1人で監督するのは厳しい訳だが。他に人材はいないのかね?」


「こっちだって手一杯なんだよ」



 罪人を連行してきた獄卒はキクガを馬鹿にするような目線を向け、



「期待の大型新人なんだろ、課長にも随分と目をかけられてよ」


「だからと言って新人に任せる量の人数かね。他の獄卒は何人の罪人を呵責している? 私にだけ任せられても困る訳だが」


「ごちゃごちゃうるせえな!!」



 キクガが抗議すると、獄卒は何と逆ギレをし始めた。これがキレる若者だろうか、随分とうつわの小さい野郎である。



「新人なんだから文句言ってんじゃねえよ!!」


「…………了解した」



 相手が獄卒たちから圧倒的に嫌われているキサラギならば容赦なく暴力を振るえたが、同じ職場の先輩ともなれば下手に敵を作るべきではないだろう。言い返して喧嘩をすることも可能だが、我慢するしかない。

 渋々と言った風に応じるキクガに「ちゃんとやっとけよ!!」と怒鳴りつけ、獄卒はまた大勢の罪人を鎖で引っ張りながら立ち去った。目視で40人から50人ぐらいだろうか、あれを全て押し付けられないでよかったと思えばマシか。


 ため息を吐いたキクガは、



「職場環境の改善がご所望かね、始まりの神よ」



 ポツリと呟いた言葉は、罪人たちの悲鳴に掻き消された。

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