【第7話】
七魔法王とは、最も優秀な魔法使いや魔女に与えられる称号である。
その椅子の数は7つ。現在、第四席と呼ばれる椅子が空白の状態であり、その座席を巡って魔法使いや魔女があれこれと策を巡らせているらしい。
そして、何故かそこの椅子に座るように命じられたのが、魔法も全然使えないキクガだった。どうしてだろう。
「なるほど、それは妥当だね」
第七席の結論に同意を示したのは、傍聴席で大人しくしていたグローリアだった。
「七魔法王の第四席は第三席【世界法律】と関連した存在なんだよね。つまり第三席が法律で秩序をもたらしたことに対して、第四席は秩序を乱した罪人に罰を与える存在ってこと。犯罪を発生させない抑止力になることから【世界抑止】って言われてるんだよ」
「私は魔法使いでも魔女でもない訳だが」
キクガは困惑し、
「それなのに『最も優秀な魔法使いや魔女に与えられる称号』をもらうのは、その、格好がつかないのではないのかね」
「え? でも君以上に獄卒らしい獄卒はいないと思うけどなぁ」
朗らかに笑うグローリアは「例えばだよ?」と前置きし、
「僕が冥府総督府を消し飛ばそうかなって言ったら」
軽い調子で言うグローリアだったが、途端に言葉を引っ込めた。その朗らかな笑顔は引き攣り、どこか冷や汗も滲む。というより、冥王の法廷の雰囲気そのものが絶対零度の空気に塗り変わった。
その原因となったのがキクガである。グローリアが「冥府総督府を消し飛ばそうかな」と発言した瞬間に魔法使いや魔女にとっては鬼門となる冥府天縛を引っ張り出して右手に巻き、そのお綺麗な顔面をぶん殴れるように拳を握りしめた。
味方につければこれ以上ないほど有能だが、敵に回るならば最古の魔法使いは厄介である。建物を好き勝手に作ったり壊したり出来るのだから面倒だ。ならば魔法の腕前を封じてしまえばいい。
キクガが殴りかかるより先に、グローリアは「冗談じゃないか」と言い訳するような口振りで主張した。
「本当にやったら現世に帰れなくなりそうだし」
「それだけではないが」
キクガは冥府天縛を見下ろして、
「冥府天縛が教えてくれた。現世を冥界に塗り変えろ、と。可能ならばこの世の魔法使いや魔女から魔法の技術を奪うことが出来る。血と暴力の跋扈する世界に塗り替えて見せよう」
「…………」
グローリアは今度こそ黙った。その紫色の瞳はキクガの拳に巻きつけた純白の鎖に注がれている。
「なるほどね、完全に使いこなしているって訳か」
「?」
小声で脈絡のないことを呟いたグローリアに、キクガは首を傾げた。本当に冥府総督府を崩壊させようものなら冥府パンチが飛ぶだけなのだが、早いところ結論を出してほしい。「敵対する」の一言があればいいのだが。
しかし、グローリアは特に敵対の意思を示しては来なかった。どこか納得したように何度も頷き、「じゃあいっかぁ」なんて言っている。どうしてその反応を見せるのだろう。
全ての成り行きを見守り、そして結論を下した第七席は、
「試験は終わった。冥王、そこの罪人に改めて刑罰を言い渡せ」
傍聴席に座っていた冥王ザァトは、第七席に厳しい口調で命じられてのっそりと立ち上がる。靄を噴出させ、色とりどりの眼球が浮かぶ怪物が立ち上がると何とも迫力がある。
「納得がいかない!!」
正式な裁判が始まろうとしている最中、叫んだのは被告人として冥王の法廷に立たされているトリサダ・キサラギだった。
彼からすれば、喉から手が出るほどほしがっていた地位をぽっと出の男に掻っ攫われた訳である。しかも相手は魔法が使えない人間だ。魔法使いとしての矜持を持つトリサダ・キサラギからすれば叫びたくなる気持ちも分かる。
だが、グローリアは取り乱すことはなかった。むしろ彼は朗らかな笑顔をトリサダ・キサラギに向けると、
「彼の方が段違いで優秀だと思うけれど、そんなに自分の優秀さに自信があるのかな?」
「魔法も使えないような人間が、何故……!!」
「七魔法王の称号はね、何も魔法使いや魔女だけに与えられるようなものじゃないんだよ」
グローリアは落ち着いた声で、
「七魔法王は世界に強い影響をもたらした者にこそ与えられる称号だ。彼は――冥王第一補佐官であるアズマ・キクガ君はその勤勉さでもって混沌に陥った冥界を正しく機能させ、獄卒たちの業務を改善した。確実に冥界にいい影響を与えた功績がある」
グローリアの言葉に同調するかの如く、傍聴席からオルトレイとアッシュが「そうだそうだ!!」「もっと褒めてやれ!!」と野次を飛ばした。他の獄卒たちも納得するように頷く。
日々の仕事の頑張りが、このような結果として出てくるとは想定外だ。頑張って仕事に臨んでよかったと思う。キクガの仕事量は決して無駄ではなかったのだ。
トリサダ・キサラギが何かを言おうと口を開くが、その前にグローリアは「ああ」とポンと手を叩いた。
「君のご子息も影響を与えたね。冥界の崩壊寸前まで追い込んだ、いわば悪影響とも言えるけど」
「ッ!!」
トリサダ・キサラギは顔を真っ赤にして、息子である元冥王第一補佐官のハスミ・キサラギを睨みつけた。そんなことをしても未来は変えられない。
「恨むなら自分の教育の不出来さを恨むんだね。傲慢な親を持つと子供は大変だ」
グローリアは呆れたような口調で告げ、冥王の法廷から颯爽と立ち去った。試験が終わったからもう用事はない、ということだろう。
「キクガよ」
名前を呼ばれ、キクガは背後を振り返った。
執務机には、冥王ザァトが座っていた。見上げるほど巨大な靄の怪物が、色とりどりの眼球でキクガを睥睨する。その視線だけでやるべきことを判断した。
キクガは改めてトリサダ・キサラギと向き直る。今度こそ正式に裁かれることを悟ったのか、哀れな罪人は可哀想なほどに震えていた。第6刑場行きは免れないからだ。
「被告人、前へ」
キクガは厳かに宣言する。
「これより裁判を執り行う」




