【第6話】
「え、えー、当該罪人は極めて邪悪である。よって第8刑場行きが妥当かと!!」
「次」
「当該罪人の罪状と照らし合わせると、第1刑場行きが妥当だと思われます」
「次」
「当該罪人は実の息子を殺害したとのことですが、被害は息子1人のみ。煉獄での反省を促した方がよろしいかと判断します」
「次」
第二補佐官は冥府総督府が言い渡せる最も深い第8刑場行き、第三補佐官は殺人罪のみに焦点を絞った第1刑場行き、第四補佐官は情状酌量を見込んで最も軽い地獄である『煉獄』での反省を判決として導いた。
試験監督である第七席の声が、冷たく次を促してくる。最後の手番として回ってきたのが第五補佐官のキクガだった。
キクガの一挙手一投足に、冥王の法廷にいる獄卒たちの視線が集中する。神の如く見下ろしてくる第七席も、静かにキクガの行動を見守っていた。
「冥王第五補佐官、アズマ・キクガです。本日はよろしくお願いいたします」
「――始めろ」
「承知いたしました」
まずは試験監督の第七席に挨拶をしたのち、キクガは罪人のトリサダ・キサラギへと振り返る。
「――被告人、前へ。これより裁判を執り行う」
冥王の法廷に重苦しい空気が落ちる。それまで進行していた冥王の補佐官とは比べものにならないほど冷たく、張り詰めた空気だった。
傍聴席に座っていた獄卒たちの騒めきは静まり返り、今までヘラヘラしていたトリサダ・キサラギの表情も引き攣る。誰もが本能で悟っていた――「こいつの前でふざけてはならぬ」と。
キクガは裁判資料を広げ、
「被告人、トリサダ・キサラギ。裁判での証言の一切合切は記録され、永劫、冥府総督府に残されることを心得なさい。嘘偽りなく質問に回答し、誤魔化しや虚偽発言をしたその時は君の罪状は極めて重いものになる訳だが」
「…………」
「返事をしなさい」
「わ、分かった」
トリサダ・キサラギは緊張した面持ちで応じるも、キクガは許さなかった。
大股でトリサダ・キサラギに歩み寄り、その顔面を鷲掴みにする。指先にギチギチと力を込めて締め上げると、トリサダ・キサラギの口からくぐもった悲鳴が漏れた。
キクガは絶対零度の眼差しでトリサダ・キサラギを睨みつけ、
「立場はこちらが上だ。その態度で裁判に臨むなら、指先から1本ずつ骨を折る」
「す、すみまぜんでじだ……!!」
「よろしい」
相手の立場を分からせてやり、キクガはトリサダ・キサラギを解放する。それから改めて裁判資料と向き直った。
「トリサダ・キサラギ。君は実の息子である冥王第一補佐官、ハスミ・キサラギを殺害した罪がある。何故殺したのかね?」
「……冥王の贄として送り込み、我がキサラギ家の地位を向上させようと企んだ」
低く地を這うような声で、トリサダ・キサラギはキクガの質問に回答する。
「何故、地位の向上を企んだのかね」
「『七魔法王』の称号があれば、我が家は世の中でも絶対的な地位を得られる。家を安泰させるには地位が必要だからだ」
トリサダ・キサラギは顔を上げ、血走った目でキクガを睨みつけた。
「貴様は知らんだろうがな、七魔法王の称号は世界で最も優秀な魔女や魔法使いに与えられるものだ。最も強く、最も賢く、世界に影響を与えた魔女や魔法使いが得られる称号は、我々魔法使いの一族からすれば喉から手が出るほどほしい。有象無象から羨望の眼差しを受け、世の中に名を残す偉大な魔法使いになるのだ!!」
「ほう」
「だが現在、第四席の椅子が空いている。七魔法王を引き摺り下ろすには決闘が必要だが、椅子が空いているならば命を削らずに済む」
「なるほど」
「第四席は冥界の関係者に与えられる称号だとされている。ならば我が息子を生贄として冥界に送り込んで冥界を掌握すれば、我が家に第四席の栄誉が得られよう!! まあ、我が家と同じことを目論んで真似した馬鹿どもはいたがな!!」
「そうかね」
聞いてもいないことをベラベラと喋り始めたので、キクガはそれらを全て記憶に留めておくことにした。
七魔法王という新しい単語が出てきたが、聞いた話を頭の中で整理すると、魔法使いや魔女の中でも特に優秀な者に与えられる称号らしい。その称号があればどんな影響が出るか不明だが、少なくとも有名にはなれるだろう。魔法使いや魔女の指標ともなるかもしれない。
そして現在、冥界の関係者が座るだろう第四席の椅子が空白となっている状態だった。最も優秀な魔法使いや魔女を相手に決闘をすれば負けるのは必定なので、空席となっている第四席を狙って冥界に生贄を送り込んだというのが真相のようだ。
それら全てを鑑みて、キクガは結論を下す。
「当該罪人は第6刑場行きに相当すると思われます」
キクガがそう言うと、傍聴席から騒めきが上がった。オルトレイもアッシュも難しげな表情を見せている。
第6刑場は異教信仰の罪を負った罪人が落ちる地獄だ。たった1人、しかも実の息子を殺しただけでは相当に重すぎる罰である。
第七席は「何故だ」と言い、
「第6刑場を選んだ理由は?」
「第6刑場は異教信仰の罪で落ちる地獄な訳だが。広義的に見れば『信じること』が罪となる。より拡大解釈をするならば、自分自身の力を過信した傲慢な罪人が落ちるべきと推測する訳だが」
トリサダ・キサラギは自分の策が通用するものだと『信じて』いた。己が力を過信し、その結果で冥界は混乱することになった。
信じることは、何も神々に限った話ではない。己の信じる情報によって罪を犯すこともある。ならば宗教だけではなく、第6刑場は『信じたが故に罪を犯した咎人』が落ちるべきではないか。
第七席は少し考えるような素振りを見せ、
「結論は出た」
短く告げるや否や、見上げるほど巨大な冥王の執務机から飛び降りる。コツコツと淀みなく足音を響かせ、第七席はキクガの前に立った。
「やはり冥府天縛の目に狂いはなかった。選ばれるだけの素質があるらしい」
「……何の話かね?」
怪訝な表情を浮かべるキクガに、第七席は言葉を続けた。
「アズマ・キクガ。お前を冥王第一補佐官に任命すると共に、七魔法王が第四席【世界抑止】の称号を与えるものとする」




