表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第14章:最後の判決

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/125

【第2話】

 昼休みの際、オルトレイとアッシュに相談してみた。



「何、もうそんな時期になったのか。早いな」


「何か不都合なことがあんのか?」


「特にはない。いつも通りに仕事をこなせばいいだけな訳だが」



 昼食をる為の順番待ちをしている最中、そんな会話を交わす。今日に限って午後に予定されていた裁判が後ろ倒しになったことを現場の獄卒から連絡を受け、その調整を行っていたところ昼食の時間に出遅れてしまった訳である。

 まだ裁判開始まで余裕があるので、こうして悠々自適に行列の時間も待てる。ここで裁判開始時間が迫っていたら、仕方がないので裁判が終わってから昼食を取ることにしていたかもしれない。オルトレイからは説教を受ける羽目になるだろうが、やむなしである。


 アッシュは「凄えなァ」と呟き、



「もう補佐官としての貫禄かんろくが出てやがる」


「むしろ天職ではないか。現場に出ていた時よりもイキイキとしていないか?」


「この世界の常識にも慣れた、ということだろう。まだ学ぶことは多い訳だが」



 思えば、この地位まで上り詰めるのに相当な時間がかかった気がする。暴力と謀略ぼうりゃくで他者を蹴落けおとし、ついに上層部まで食い込んだ。今や味方も多いと自負している。

 だが、油断してはならない。こういう世界は隙を見せるとすぐに蹴落とされるのが常である。地位を盤石なものにする為には日々の勉強と迅速じんそくな仕事への対応力は必須だ。現場の獄卒たちを味方につける為にも、きちんと実績を残す必要がある。


 そんなことを考えていると、行列の前方から何やら揉めるようなやり取りが聞こえてきた。



「こっちは裁判の予定があるんだ」


「ふざけんな、こっちは最初から並んでるんだよ!! 横入りするな!!」


「生意気だぞ、汗臭い現場組のくせに!!」



 何やら覚えのあるやり取りだった。


 ひょこりと行列から顔を出して前方に視線をやると、横入りを企む茶髪で細身の補佐官らしき男が現場で汗水垂らして働いていた獄卒と口論をしている様子だった。当然ながら悪いのは横入りをたくらむ茶髪の男で、ちゃんと並んでいた現場の獄卒は悪くない。

 食堂前で騒いでいるものだから、空気の悪さが加速していく。空腹で苛立いらだっているというのに、厄介な揉め事を起こすのが嫌われ者の冥王裁判課である。相対的にキクガの評価も下がる真似は止めてほしいところだ。


 同じくひょこりと行列から顔をのぞかせて騒ぎを野次馬するオルトレイとアッシュは、呆れた口調で言う。



「あれは冥王第二補佐官だか冥王第三補佐官だか冥王第四補佐官だろうな。全く、いまだにずるいことを考えるのは直っておらんとは呆れたものだ」


「キサラギ補佐官以外でしかねえって情報以外に何も分からねえよ。でもまだ立場を利用すれば横入りできると思ってんのかね、キクガはちゃんと並んでいるのに」


「そうだとも。我らが補佐官を見習ってほしいものだな」



 相手に嫌味として聞こえるようにやたら大きな声で言うオルトレイとアッシュだが、相手には届いていない様子である。聞こえていないフリが何とも上手なようだ。


 キクガは少し考え、すっとぼける作戦を決行することにした。

 自分でも性格が悪い作戦だと思っていたのでひかえていたが、こうも他人に迷惑をかけるようでは手段など選んでいられない。他人からの評価など仕事で挽回ばんかいすればいいだけの話である。



「ジェイク・パシパラーバ第二補佐官。君が担当する裁判はないはずだが、そんなに急いでいるのは何故かね?」


「ッ!! お、お前……」



 自分の名前を呼ばれた男は、キクガをにらみつけてくる。親のかたきの如く睨みつけてくるのだが、キクガは無視して言葉を続けた。



「ああ、それとも伝達されていなかったのかね。これは失礼した、改めて伝達させてもらう訳だが」


「いや、その必要は」


「君が担当するはずだった裁判は、冥王様の意向で私が担当することになった訳だが。君が担当する裁判はない。時間に余裕があるはずなのに何故横入りしてまで急ごうと言うのかね?」


「――――――――!!」



 顔を真っ赤にし、口をはくはくと開閉かいへいさせるだけだった男は、足早にその場から立ち去った。横入りをすることを諦めた様子である。

 冥王裁判課の仕事は、ほとんどキクガが請け負っていた。つまりキクガ以外の補佐官は仕事がない、いわゆる社内ニートの状態である。たまにちらほらと取るに足らない裁判は他の補佐官に任せているが、大半はキクガが裁判の補佐に入っていた。


 そのことをちゃんと丁寧に伝えてあげることは相手にとって屈辱くつじょくなのだろうが、横入りなどという恥ずかしい真似をしているのだから仕方がない。それ相応の罰は受けてもらおう。



「あ、アズマ補佐官。すんません、何か……」


「こちらこそ、同僚が恥ずかしい真似をして申し訳ない。君はちゃんと並んでいたのだから譲る必要はない訳だが。次からあのようなことが起きたら、私に確認すると脅しなさい」



 恐縮した様子の獄卒に同僚の不手際を謝罪するキクガ。周囲の視線が感心したようなものに変わったのを肌で感じた。



「ほう、キクガよ。お前、なかなか性格の悪いことをするな」


「性格の悪い私はお嫌いかね? 聖人君子でも演じようか」


「いいや、実に好ましい。性格の悪さが上昇志向の鍵だからな」



 オルトレイが声を押し殺してクツクツと笑うと、



「ならばそんな性格の悪い冥王第五補佐官殿に朗報ろうほうだ。今日から食堂のメニューに新しいものが追加されたぞ。俺がメニュー開発に携わったのだからありがたく食せ」


「ほう、それはどんな――」



 会話を交わしているうちにキクガたちの順番が回ってきて、昼食を受け取る為のお盆を手にする。

 さて今日の昼食は、と食堂に並ぶ料理の数々に視線を走らせると、見覚えのある黄色い塊が置いてあった。オムレツかと思ったが、違う。直方体のそれは、キクガが何度も見た卵料理である。


 どこからどう見てもだし巻き卵だった。



「いやぁ、以前より話は聞いていたがどうにも上手くいかんでな。納得の出来る味も出せんし困ったと思っていたが、冥界にある海藻やら何やらでブイヨンを抽出してからそれを混ぜ込んでみたらあら不思議と美味うまくなって痛い痛い痛いキクガよお盆で殴るな何がお前をそうさせる!?」



 感動のあまり、キクガはバシバシとオルトレイの背中をお盆で叩きまくったのだった。



 ちなみにだし巻き卵はちゃんと美味しかった。

 理想通りである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ