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異世界出身の獄卒、アズマ・キクガは上昇《のぼ》りたい  作者: 山下愁
第2章:世界で2番目に優しい魔法使い

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【第3話】

 午後も仕事を頑張れそうだ。



「お腹いっぱいだ」


「吐くんじゃねえぞ」


「吐かない訳だが。ご飯がもったいないだろう」



 アッシュの隣に並ぶキクガは、自分の腹をさすった。


 冥府総督府めいふそうとくふの食堂は実に充実していた。揚げ料理に肉料理に魚の煮込み料理など、多岐たきに渡る料理がずらりと勢揃せいぞろいしていたのだ。動き回る仕事なのであまり満腹になると吐き気を覚える可能性すらあるので、食べた量はセーブしたのだが、許されるならば色々な種類の料理を食べてみたい。

 しむらくは、和食が存在していないことだ。キクガの故郷の味が存在しないのは寂しい限りだが、ここは異世界なので我慢する他はないだろう。


 さて、午後も拷問ごうもんの仕事を頑張ろうと気合を入れ直したところで、大量の罪人を縄でつないでる獄卒に遭遇した。



「課長、お疲れ様です」


「……おい、その罪人たちは何の冗談だ?」



 アッシュの表情が明らかに引きっていた。銀灰色ぎんかいしょくの眼球は、獄卒の連れている大量の罪人に注がれている。



「冗談でも幻覚でもないですよ、課長。現実を見ましょう」


「はあー……」



 獄卒にさとされ、アッシュは深々とため息を吐いて空を振りあおいだ。


 確かにため息を吐きたい気持ちも分かる。アッシュは獄卒課の課長と呼ばれる立場であり、現場で1番偉い存在だ。当然ながら現場監督として何やら色々な仕事があることだろう。

 ならば、彼の業務が増加する光景が目に見えていた。可哀想に、顔をしかめたくなる気持ちは理解できた。



「元気を出しなさい、アッシュ」


「テメェ、他人事のように言ってるけどな」



 アッシュは獄卒の連れている罪人を顎でしゃくると、



「あれ、全部第1刑場に振り当てられた罪人だぞ」


「…………何だと?」



 キクガの口から低い声が出た。


 獄卒が引きずる罪人の数を確認すると、目視だけでおおよそ50人近くはいそうである。そんな大量の罪人がキクガの配属された第1刑場に放り込まれると、獄卒たちがパンクしてしまわないだろうか。

 ただでさえ獄卒たちは罪人たちを呵責するのに忙しい。2人も3人も同時に相手をすれば頭が混乱することは請け合いなしだ。



「これは本当に全員、第1刑場に振り当てられた罪人なのかね。間違いは?」


「冥王様の裁判に間違いなんてある訳ないだろ」



 獄卒は怪訝けげんな表情でキクガに向かって言う。


 確かに冥王ザァトの裁判は間違いない、とはキクガも信じたい。信じたいのは山々だが、これだけの罪人が第1刑場に集中するとなったら「誤審ではないか」と疑ってしまう。

 第1刑場は殺人の罪を犯した罪人が落ちる地獄だ。およそ50人強の殺人鬼が一斉にやってくるものだろうか。中には窃盗や詐欺などの罪を犯した犯罪者はいないのかと考えざるを得ない。


 キクガはアッシュへと振り返り、



「アッシュ、この罪人たちを振り当てられるにあたり、何か情報となるものはないのかね。彼らの罪状が知りたい訳だが」


「ねえよ、そんなの」


「ない?」



 アッシュから突き放すような回答を受け、キクガは眉根を寄せた。



「罪状を知らなければ、正しい刑場で反省を促すことが出来ないだろう。地獄は、罪人の罪が重ければ重いほどより深い刑場に落ちるのではないのかね?」


「そうなんだけどなァ」



 アッシュは後頭部をバリバリ掻くと、



「まずもって、冥王裁判課めいおうさいばんかの連中が罪人の情報を管理してるものだから絶対に手放す訳がねえだろ」


「冥王裁判課」


「キサラギ補佐官が率いる、罪人どもの生前の罪を裁定する仕事を請け負った課だ。冥王の裁判の補佐をする連中だから『冥王裁判課』ってな」



 アッシュが説明してくれたことを、キクガは脳内で反芻する。


 冥王の裁判を補佐する『冥王裁判課』の連中が罪人の情報を握ったまま渡さないとなれば、彼らの発言を信じる他はない。どこにこの罪人たちの罪が本当に正しいものかと判断材料があるのだろうか。

 果たして彼らは第1刑場に割り当てられるべき罪を犯したのだろうか。冥王の裁判が間違えているという可能性はないのか。――様々な憶測が頭の中を飛び交うが、どうしてもキクガは反論する為の知識を持ち合わせていないのが残念でならない。


 だが、このまま唯々諾々(いいだくだく)と従うのはしゃくに触る。仕事を極限まで増やされるのは御免だ。



「アッシュ、せめてどのような罪を犯したらどの刑場に放り込まれるのかだけは教えてほしい訳だが」


「悪いな、キクガ。種類が多すぎて覚えられてねえんだわ」


「使えないな、この課長。何の為の課長かね。少しは自分の勤務する職場の規則などは頭に叩き込んでおきなさい、課長のくせに」


「くぅん……」



 罪人に対する呵責かしゃく並みの罵倒ばとうが、容赦なくアッシュに突き刺さる。罪人を連れていた獄卒は眉根を寄せて「失礼すぎるだろ」とか文句が飛んでくるが、働く側としては一大事である。

 何せ上司が職場について何も知らないのだ。文句の1つや2つぐらいは出てもいいだろう。むしろ出なければおかしいぐらいだ。この上司が今まで働けていたことが不思議に思えて仕方がない。


 深々とため息を吐いたキクガは、



「では質問を変えよう。アッシュ、他にこの冥府総督府に詳しい人物に心当たりはあるかね?」


「1人だけ」



 アッシュは難しげな表情で、



「キサラギ補佐官とめて辞めた奴が頭の切れる魔法使いでな。ソイツならおそらく教えてくれるだろ」

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