幕間.使徒達は笑う
短いので、本日は二話投稿します。
一話目です。
人を呪わば穴二つ、それは人だけの事では無い。
【馬鹿な妹ねぇ。】
【本当にねぇ、あとほんの数秒待てば電源ケーブルのある場所に突き込まれた男だけじゃなくて、ジントも[連鎖感電]というものを起こして、倒れる事になったのに。】
倒れた末妹を取り囲んで、全く同じ姿をした四人の真白い少女達がさざめく。
【生者の魂を引き抜くなんて。】
末妹は神気の八割りを失って、身体がどんどん縮んでいく。
結晶化も始まりだして封印状態になりつつあるのだ。
【何故25年間もジントの魂を回収できなかったのか、自分が一番分かっているでしょうに。】
彼女達は冥府の神に仕える死の乙女、生者には手出しが出来ない。
彼女達はそんな加護は与えていないというのに、異世界に渡ったジントの危険回避能力は大きく成長していた。
5年や10年程度の僅かな間(神様基準)ならいざ知らず、転生でも転移でもない仮初に魂を入れ替えただけの不自然な状態で、天寿を全うするまで生きられては、さすがに世界に歪みが出る。
【タイミングを間違えたのかしら?】
一人が歌うように問う。
【いいえ、ワザとよ。】
【いいえ。あの男を懲らしめ足りなかったのよ。】
【世界の外側から、何度も何度もこの瞬間を見ていたのだもの。】
他の死の乙女達が答える。
【異世界に託した宿木は大きく育ったのに。】
【たくさんの花を咲かせて、たくさんの実も成ったのに。】
【あちらの方々にも喜んでいただけたのに。】
【これからの事も交渉し易くなったのに。】
乙女達は口々に嘆く。
【最後の最後に詰めを誤って、これでは私達、我が君だけでなく、創世女神様にも御叱りを受けてしまうわ。】
【【【【本当になんて馬鹿な妹】】】】
透き通るように結晶化が進む末妹の手から、ジントの魂を取り上げる。
【格が上がって、この素晴らしい状態になった魂が、危なく一緒に封印されてしまうところだった。】
球状に縮んでいく、神核まで結晶化した妹の姿も、姉の両手に収まるほどになった。
【まだまだ色々な後始末があるのに、それも果たさず。】
【こんなありさまになるなんて、なんて情けない。】
【本来のジントの身体は、魂と繋がる力が弱まっているのに。】
【修復しておかないと、ジントの魂がすぐに離れてしまうわ。】
浩輔に加護を乱用されても相手は生者、冥府の使徒である彼女達には、話しかける事も滅多に許されない。
ジントに付き添って異世界に渡った末妹から、後をまかされて彼女達も大いに焦った。
【あちらの世界にも出来るだけ、悪い影響が残らないように。】
【でも、導き手の老人はもう死者よ。】
【私、彼が"門”をくぐるときに見送ったわ。】
孫を『取り替え児』にされてしまったのも怒らず、逆に二十数年に及ぶ家族の平穏に感謝された。
彼が、孫の惨状を知らないままに天寿を全うしたのは、幸いだった。
見どころの有る人物だったので、こちらの世界に来てくれないかと、問いかけたのだが断られてしまった。
【事後を託す者が必要ね。】
【親族の中に適当な者がいるわ。】
【人生の大半の時間を、怒りを燻ぶらせていた者が。】
彼は導き手だった祖父に打ち明けられて、一度は押さえ込んだ怒りを再燃させている。
末妹はその怒りの炎に頃合いを見て油を注いで、ジントの魂を回収する予定だったのだが。
思いのほか学ぶことに貪欲だったジントが、導き手の老人の元から解き放たれて、世界の此方彼方を転々として、日本に戻る事が無かった。
【彼に神託を下しましょう。】
【裕福な者だから、妹が勝手に約束した『褒美?』も叶うわ】
末妹は確信犯的に、自分が倒れた後で他の姉達がそう動くと思っていたようだが、あの長兄もきっと延命治療の技術を尽くして、それを長引かせてくれるだろう。
【飼い殺しにするも良し、思い切った行動に出るも良し。】
今ならば冥府の神にその力添えも得ている。
【あの男は、魂と身体を結び付ける力をすっかりと失って、最早身動きも儘ならないわ】
あのまま加護の乱用を続けていれば、いずれ浩輔の魂は(仮初の)ジントの身体に戻る事が出来なくなっただろうが。
神力を奪い取られ続ける末妹も、今と同じく封印化されてしまっただろう。
あの男はやはり馬鹿だ、気軽に自死を繰り返していたが、ある日突然加護を失う可能性に考えが及んでいない。
もし、そうなったら"門”の前でどんな間抜け面を晒したのか、見られなくて残念だ。
【もう一人、医師の方にも神託を。】
ジントの魂を手の中に包み込んだ姉の一人が提案する。
【ジントが別れの挨拶をしたいそうよ、一人だけなら許しましょう。】
神力の余裕は無いが、ジントにはその功に報いてやらねばならない。
【では、それぞれが眠るのを待って。】
【思いのほか時間が掛かったわね。】
長兄の方が。
【私、あの長兄に礼を言われたわ、良い仕事をするって。】
実際にはそんな不遜な事は言っていない、彼女の方が心を読み取ったのだ。
【誤解よね?】
浩輔が、全身不随の寝たきり状態になったのは、末妹も彼女達も特別な小細工はしていない。
自業自得で結果的にそうなっただけだ、緩んだ繋がりを敢えて修復してやるつもりもないが。
【誤解だわ!でも、彼は生者だからもう訂正する事は出来ないわ。】
どのみち些細な事だ、彼女達はこの世界を後にするのだから。
【さあ、帰りましょう。】
障りの無いようにジントの魂を眠らせて、無事に世界を隔てる境を抜けた。
【【帰りましょう。】】
【・・・・・・】
姉妹の一人が応えない。
【どうしたの?】
【ねぇ、ジントの魂を宿らせていたあの仮初の身体にも、加護の力を注いであったわよね?】
【そう言えば、そうね。】
【ジントは一度も使わなかったから、『やり直しの加護』が、そっくりそのまま残っているわ・・・ね?】
四人は顔を見合わせた。
【大丈夫よ、魂の方が外れ癖がついているから、それ程長生き出来ないわよね? ね?】
【そう遠くないうち、数年後には衰弱死する、でしょう?】
相手が生きている以上は、加護の力を抜き取る事も出来ない。
【何回分くらい『やり直し』を繰り返すかしら?】
末妹から新たな神力の供給は無い。
【大丈夫よ、周囲の人間達には分からないわ。】
それはどうだろうか、発狂して『朝』を迎える度に、絶命するまで叫び続けるかも知れない。
【"門”にたどり着く頃には、彼の魂はどんな有様になっていることやら。】
【世界が異なるから、見られないのが残念ね。】
少しだけ溜飲が下がって、彼女達は嘲笑しながら戻って行った。
エンドレス『死に戻り』再び、かも?。




