少年は荒野を幻視する
「いやまぁ、確かに腹減ったけどよ⋯⋯」
目の前に盛られた大量のジャンクフードに溜息をつく。
あれからリーダーに連れられてきたのは、西部劇に出てきそうなレストランだった。別に外にダンブルウィードが転がってるわけでもないし、馬の嘶きが聞こえるわけでもない。けれど、形容する言葉が他に見当たらないのでそう表現するしかない店なのだ。
「んで、イメージ通り出てくるメシはハンバーガーやらチリコンカーンやらビーフシチューやらか。ここはアメリカか?」
「とにかく食ってみろ。美味いぞ」
「何から食ったらいい物かね⋯⋯」
少しだけ迷った挙句、ハンバーガーを持って齧り付く。
濃厚な肉の味が口の中に広がり、空っぽの胃がもっと寄越せと責め立ててくる。あっという間に食い終わってしまった。
「あ、美味ぇわ」
「だろ?」
俺の感想にリーダーは嬉しそう口角を釣り上げ、それから自分のハンバーガーをバクバクと一気に齧る。
「よぉリーダー、新入りかい?」
「そんなもんだ」
「いい食いっぷりだ、気に入ったぜ」
ふと、カウンター越しに悪そうな顔の爺さんが話しかけてきた。この店の店主らしいが、どう見ても西部劇の悪役にしか見えないような鋭い目つきをしている。
「ボウズ、コーヒーは飲めるか?」
「いや、砂糖とミルクだけでいい。コーヒー抜きで」
「ギャハハハ、面白いヤツだ!」
高らかに笑いながら、店主はデカいジョッキに並々と謎の液体を注ぐ。それを俺の前に置くと、
「奢りだ」
と言って、くわえたタバコに火をつけ始めた。
「⋯⋯どうも」
恐る恐る口をつけ、僅かな量を舌の上に乗せ味を確かめる。昨日の件でさんざん痛い目を見た、二日連続で酔いつぶれはゴメンだ。
ほのかに香る果実の匂い。これは葡萄だろうか。酒気が無い事を確認すると、一気にジョッキをあおって飲み干す。
「ただのぶどうジュースか」
「あぁ、ワインになる前のヤツだ。良かった、それが飲めねぇなら何を出したらいいもんか悩み過ぎてハゲちまうとこだったぜ」
「まだアンタの頭は死なせないさ」
喉が潤ったところで、本腰を入れて料理を食らい始める。どれも強烈な味だが、不思議と口飽きすることは無い。むしろ食べれば食べるほど、料理を運ぶ手は動きを加速させていく。
なるほど、リーダーが褒めるのもわかる気がする。
「美味かったぜ、マスター」
いつも食べているようなクソまずいジャンクフードとは大違いだ。マスターの腕なのか、素材の良さなのか、はたまたその両方か。
もう忘れていた、食事の楽しさを思い出した気がする。懐かしく暖かい感覚が、少しだけ寂しさを感じさせる。きっと、昔の俺は幸せだったのだろう。
「まいどあり、また来な」
「ごちそうさん、マスター」
これまた西部劇で見るスイングドアを通り、店を後にする。外はいつの間にか灰色の雲に覆われ、微かに雨の気配が忍び寄っている。
リーダーはもう少し見て回るかと提案してきたが、雨は嫌だからと帰る事にした。
「なぁリーダー、楽しいな」
「どうした急に?」
「なんとなくさ」
帰り道、リーダーの背中を見つめながらそんな事を呟く。本当になんとなくだが、言わなくてはならない気がした。
前を向いたままのリーダーの表情は読み取れない。だが、答えた声は心なしか嬉しそうだった。




