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ジョーカー・ガン  作者: 唄海
1章 撃鉄を起こせ
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愛しき我が指よ

 冷たい鉛の塊を、一つ一つおぼつかない様子で込めていく。震える手で、丁寧に。こうなる事は予想していたが、実際に触れてみると更に無機質さが実感できる。これが人を殺す道具だと、手にかかる重さがハッキリと囁く。


「顔色が悪いわ。少し休む?」

「大丈夫、平気だ。大丈夫⋯⋯」


 今、俺はミーヤと共に銃を撃つ練習をしていた。いつまでも逃げる訳にもいかない、いつかは通る道だ。

 額に浮かぶ汗をぬぐい、必死に鉄の塊を握りしめる。手に持つだけで、心臓が潰れそうな恐怖が襲いかかってくるのがわかった。あとはこの引き金を引けば、止めることの出来ない死が相手に真っ直ぐに飛んでいくのだ。


「クソ、なんでこんな⋯⋯」


 人に向けるわけではない。狙うのは、少し離れた板切れだ。撃ったところで、誰も死にやしない。

 必死に狙いをつける。震える照準を板切れに合わせ、引き金に指をかける。あとはこれを引けば全てが終わる。これさえ引ければ⋯⋯!


「ハァ、ハァ⋯⋯ッ」


 強ばった指が、動く事を拒否する。荒い呼吸と歪んだ視界、脳が裂けそうな程の耳鳴り。


「少し、休みなさい」

「⋯⋯あぁ」


 堪らず銃が手からこぼれ落ちる。それを拾うことも無く、よろよろとした足取りでミーヤの元へ歩く。


「ほら、おいで」

「⋯⋯惚れそ」

 

 すぐ側の石段に座り、そのまま糸が切れたように倒れ込む。柔らかな感触が、優しく受け止めてくれた。


「なんでダメなんだろうな⋯⋯俺がダメだからだろうな」

「否定はしないわ。慰めたところでどうにもならないもの」

「はは、だよなぁ」


 情けない。超えなければならない線を、俺は未だに超えられないでいる。道徳心なんて高貴なものじゃない。俺はただ怖がって、その場で座り込んでいるんだ。


「でもそれなら、あの時あのまま戻ってこなかったはず。何が沙雅の背中を押したの?」

「⋯⋯守りたいって、思ったんだ」

「なら、それを守れるように戦わなくちゃ」


 そっと頭を撫でられる。もう二度と感じられないと思っていた温もりが、胸をそっと叩いてきた。


「どうしてミーヤは、そんなに俺に優しいんだよ。足を引っ張るだけの俺に構ったって、いい事なんて一つもねーぞ」

「そうやってすぐ卑屈になるからよ。全く、クローズと合わせたら丁度良さそうなのに」

「わかんねーよ⋯⋯」


 必要の無い奴は放っておくのが一番だろうに。分からない、俺にはミーヤの気持ちが理解できない。


「俺は本当に、お前らと一緒に戦えるのかよ。戦って良いのかよ」

「当たり前じゃない。仲間だもの」


 言うまでもないと、ミーヤは毅然と答える。その一言だけで、ミーヤがどれほど他のメンバーを信頼しているかが見て取れる。

 だからこそ、俺はその信頼に値するのかが疑問になってしまう。どれだけの時間を重ねれば、それ程までの信頼を築けるのだろう。時間と信頼は比例する。その時間を、俺はまだ持っていない。


「信じるのか、俺を。まだ会って1日の俺を?」

「えぇ、信じるわよ。沙雅が信じてくれるように、私は沙雅を信じる」

「⋯⋯なんで、みんな優しいんだろうな」


 そんなに優しくしたって、何も無いというのに。

 それとも何だ、俺が間違ってるって言うのか。もっと人に優しくしてみろって事なのか?


「仕方ない、今日はここまでにしましょう。ほら、立って」

「今立つ⋯⋯あ、れ?」


 立ち上がろうと膝に力を入れるが、すぐに足が崩れ落ちてしまう。何度立とうとしても、膝は俺を嘲笑いながら砕けたままだ。


「ちょっと、大丈夫?!」

「大丈夫。大丈夫だ⋯⋯」


 強烈な脱力感に襲われる。情けない、一度緊張から解き放たれたらこれだ。ふらふらと壁を支えに、何とか立ち上がる。


「クソ、情けなさ過ぎて泣けて来る⋯⋯」

「顔色が悪いわ、もう今日は休みましょう。歩ける?」

「歩ける。少しふらっと来ただけだ」


 すぐに体の端から力が戻る。心配そうな目をしたミーヤをよそに、俺はその場から逃げるように足早に店へと帰る。


「あ、これ⋯⋯」


 後を追いかけようとしたミーヤの足元に、1丁の銃が転がっていた。それをそっと拾い上げ、コートのポケットにしまう。

 大丈夫、彼はきっと覚悟を決められる。いつかは分からないけど、必ずいつかは決断できる。あの目は、そういう目だ。


「仲間だもの、支えるわ」


 理由なんてない。理由なんて要らない。ただ、彼を救いたいと思った。

 この気持ちが何かは分からないけれど、確かにそう思ったのだ。

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