8:長い夜は思い出させる
「で?で?ぶっちゃけ本当はレオノール様の事、好きなんでしょ!」
「好きならこんなに婚約を嫌がってないよ」
ワクワク顔のリズちゃんの期待には応えられなくて申し訳ないけど、嘘はつけない
「えー…そっかぁ、お似合いなのに。じゃあさ、今まで1回も好きだった時がないの?」
好きだった時…そう言われて思い出すのは
私達が婚約を結んだ7歳の頃のこと。
父親同士が学生時代の友達で、物心ついた時には家族ぐるみの付き合いをしていた。
幼い頃は仲が良く、いつも一緒だった。
あの頃の私は、レオとの婚約も自分が特別な存在になれたようで嬉しかった。
私は、多分…レオの事が好きだった。
全てがおかしくなったのは婚約から5年後、私たちが12歳の頃だった。
ある侯爵令嬢に招かれたガーデンパーティーには同じ年頃の令息令嬢達が沢山いて、その中にはレオもいた
令嬢たちがみんなレオに夢中で、面白くなかったんだろう一人の令息がレオに言った。
「お可哀想なレオノール様。そんなに選び放題なのに未来がもう決まっているなんて!リリス様はとても美しい方ですが、せっかくこの国に生まれたのに自分で選ぶ自由がないなんて、僕には耐えられないですよ」
レオは何も答えなかった。
レオの周りを囲む令嬢達がクスクスと笑い私を見る
私を囲む令息達が私を励ましている。
そんな事は全部どうでもよかった。
私の目に映るレオの横顔。私の頭に浮かんだ言葉。
"レオは私を選んだわけじゃない"
そうだ、何を勘違いしてたんだろう。
婚約なんて悪しき慣習、ここは自由恋愛の国だ
決められた相手なんてロマンチックじゃない
レオは私を選んでない。
私だって、レオを選んだわけじゃない。
多分私は傷付いたのだろう、もう顔も覚えていないあの令息の言葉に。何も言い返さなかったレオの態度に
私が特別だと思っていた婚約という重い約束は、彼から自由を奪う鎖。
———そして私は、彼への気持ちに蓋をした
「…好きだった、時なんてないよ。」
「そっかぁ、まぁ家同士の事だもんね!恋をしたいリリーちゃんの気持ち分かるよ!私、応援する!」
「ありがと、ねぇさすがにもう寝よ!疲れちゃった」
「まだ全然話してないけど——まぁ、明日もあるもんね。明日はリリーちゃんの小悪魔テクニック教えてよね!じゃあおやすみ!」
おやすみリズちゃん。と答えて目を瞑る
瞼の裏に浮かぶのはあの時のレオの顔
どうでもいい、過去の事だ。いまさら気にするなんてバカみたい。
私は、婚約者なんていらない。自由に恋をする。
私を選んでくれた人と幸せになりたい。そう自分に言い聞かせる。
何度も浮かんでくるレオの顔を、頭の中で黒く塗りつぶす。
疲れてるはずなのになかなか眠れなかった。
長い夜は、嫌な記憶を思い出す。




