9:恋のサバイバル
オリエンテーション合宿2日目
今日はキャンプ訓練をするらしい。
貴族令嬢には必要ない事だとは思うけど、学生の間に人生経験を増やしておくのは大切だ。
同じグループの男の子達3人が先生からの説明を聞きに行ってくれている間、私とセシルは大きな木の影で休んでいた。
「自分達でテントたてたり、食料調達したりするんだってー」
大変そうだよね、とセシルの方を向くと
まだ始まってもいないのにすでに疲れた顔をしていた
「私達のグループにケインが居てよかったわ。1人で全部やってくれそうじゃない?」
またそんな事言って…と思ったけどケインなら本当にやりそうな気がして曖昧に頷く
そこに先生から渡されたプリントやテントなどを持ったウィル達がやってくる。
「お待たせー、とりあえずテント立てようか」
影になった所がいいよね?もうここでいっか、と私達がいた木の影にテントを立てることにした。
キャンプ訓練とは言っても、ここで実際に寝泊まりする訳ではないので5人で入るには少し手狭なテントだ
「昼食までの3時間でやる事は、テントの組み立てと火おこしと食料調達なんだけど、食料はちゃんと別に用意されてるらしい。この本を頼りに山菜とかきのこを見つけて来いっていうサバイバルもどきだね」
そう言ったウィルが持っていた本の表紙には
【山で取れる食材のすべて】と書かれていた。
「川の浅瀬なら魚とってもいいらしいけど、1人では行くなって言ってたぜ」
「じゃあ3人がこのままテントを立てて、そのあと山で山菜採り。2人が川で魚捕りして、戻ったら火おこしっていうのはどうかな?」
「いいじゃん!俺ぜったい川行きたい!」
手をあげて全身でアピールするケインに
「ほっとくと何も考えずに手掴みしに行きそうだから僕がついて行くよ」と、クロードが言う。
クロードが手綱を握ってくれるなら安心だ、うん。
「じゃあ僕たち3人でまずテントを立てようか」
絶対に動きたくないと言うセシルが説明書を読み
私とウィルで組み立てていくと10分ほどで完成した
「あぁ〜意外と快適〜」
さっそくテントの中に入っていったセシルはゴロンと寝転ぶと、ウィルに手招きをする
僕?と困惑した顔でセシルに近付いたウィルは耳元でセシルに何かを言われた後、顔を真っ赤にしていた
どうしたの?と聞くとウィルは首を横に振り
「い、いや何も!セシルはちょっと休んでから来るみたいだから先に2人で山菜採りに行こうか」
何なの?とセシルを見ると、にこりと微笑みヒラヒラと手を振っている。…動く気はないらしい。
ウィルと2人で山に入ると、本を片手に山菜やきのこを探している生徒達がたくさんいた。
"これは食べれる!""これは毒きのこ!"と本を頼りに
食べられる山菜やきのこを選別し山道を歩くのは
まるで探検家のようで楽しい。
つい夢中になって、本を見ながら歩いていると一部ぬかるんでいた土に足を取られる
転ぶ——と、ギュッと目を瞑り覚悟を決めたけど、地面の感触は無く、その代わりに暖かい腕に抱きとめられた。
「あっ、ぶなかったー」
「ウィルー!ありがとー!助かったー!」
本が汚れちゃうとこだったよ、と顔をあげるとウィルは微笑み、私の目をじっと見つめて動かない
それに少し居心地の悪さを感じ一歩離れようとすると
ウィルはそっと優しく私を抱き寄せた。
「ウィル…?どうしたの?」と声をかけた瞬間
この静かな場所にそぐわないキンキンとした声が響く
「きゃあ!やだぁーこんな所で逢引きですかぁ??
…って、あれぇ!?リリス様じゃないですかぁ!」
その声にハッとなったウィルが私を離したので、声の主を振り返ると、そこにはレオのグループの女生徒が1人と…無表情のレオが立っていた。
「リリス様ってば、レオノール様に隠れていつもこんな事してるんですかぁ??すっごーい!さすが小悪魔ですねぇ!!私には真似できなぁーい!」
妙に大きな声で嬉しそうに言う彼女に圧倒され何も言い返せないでいると、ウィルが一歩前に出る
「やめてくれ。リリーは何もしてない。転びそうになったのを僕が……いや、僕が勝手に抱きしめたんだ」
ウィル…と袖を掴むと、こちらを振り返り"ごめんね"と困ったような笑みを浮かべる
「えー?でもリリーとウィルなんて呼び合って、リリス様も満更じゃなさそうだしぃ、お二人とっってもお似合いだと思いますぅ!」
ね?レオノール様??と彼女は隣にいるレオに微笑みかける
またいつものように「お仕置きだね、リリー」と低く甘い声が聞こえると思い身構えていたけど
レオは私の顔を見ることも声をかけることもなく
無言で私の横を通りすぎ山道を登って行く
「あぁん!待って下さぁい!」と彼を追いかけて行った彼女のきついローズの香りが、しばらく鼻から離れなかった
「リリー、ごめ「ウィル!」
もういっぱい集まったし戻りましょ?と、ウィルの言葉を遮りレオ達とは反対へ足を進める
ウィルが何かを言いたげにしているのを気付かないふりして、どうでもいい事を話し続けた。




