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鏡の中の令嬢は溺愛希望王子と、すれ違って魅せられる。  作者: 待鳥園子


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11 お互いの事情

「……けれど、塔のどこかには、何か鏡があるのではないかしら? そうすれば、塔へと侵入することが出来るわ」


 鏡の精霊フェイは私を連れて、鏡……ううん。もっと言えばどんなに小さくても、姿を映すものがあれば、それを鏡として辿ることが出来る。


 だから、フェイの力を借りれば、私は正々堂々と塔の入り口から入る必要はなかった。


「ジゼル。それは、駄目だ。危険過ぎる」


 フェイは珍しく渋い顔をして首を振り、私がこれからやろうとしていることをすげなく却下した。


「アレク様が今居る場所に……ある程度の場所が絞れているのなら、これが一番良いと思うわ。アレク様さえ、北の塔に居ることが確定出来れば、踏み込めるんでしょう?」


 彼には思いも寄らなかった私の考えに驚いて居た様子のロディは、問い掛けに慌てて何度か頷いた。


「えっ……ええ! あの場所にアレクセイ殿下が居ると断定出来るのであれば、それは願ってもありません。ですが……精霊様の言うように、危険が多いというのも確か。か弱いジゼル様ではなく、私が塔の中に行くことは可能でしょうか? 危険な場所に行く覚悟は、もう既に出来ています」


「それは、無理だ。僕は君に、自分の加護を授ける気はない」


 フェイは笑顔で、可愛らしい口調でキッパリと断った。ロディは彼の言葉を聞いて目に見えて、ガッカリしたようだ。そうよね。ロディが行けるなら、それが一番話が早い。けど、でも……。


「もう! ここで三人で、出来る出来ないと言い合っていても仕方ないわ。とにかく……私が北の塔へ行って探ってみましょう。三週間も経っているのよ……何かされたらと思うと、とても眠れないもの」


「わかったよ。ジゼルは言い出したら、聞かないからね……それでは、数時間だけ。ロディの部屋で、待ってくれないか。塔の内部を、どうにかして調べて来るとするよ」


 隣に居た呆れ顔のフェイがそう言い手を振ったと同時に、私は鏡の外へと押し出されて、背の高い黒髪の騎士ロディのすぐ隣に立っていた。


「……どうも。貴方はこうして見ると、とても背が高いのね。ロディ」


 そばに居た彼を見上げて微笑んだ私に、呆然とした様子だった彼は、はっと気がついたようで、慌てて床へと跪いた。


「ジゼル様……こちらから名乗るのも遅くなり、大変失礼致しました。私はロディ・ジクセン。アレクセイ殿下に、幼い頃よりお仕えしております。こうして見ますと、あの旅装は貴女には大きかったようですね」


 私が恥ずかしさの余り逃げ出してしまったあの日、そういえば彼が私の服を用意してくれたんだった!


「まあっ……背が小さいってこと?」


「いいえ。アレクセイ殿下のお求めのサイズが、曖昧な説明で私にはわからなかったので……大は小を兼ねると言いますから」


 私が立ち上がるように手を使って指示したので、ロディはそう言って苦笑し立ち上がった。


 アレク様は共に旅に出る予定だった私のことを説明する訳にもいかないし、用意する旅装もぼんやりとした指定になってしまったようだ。


 どんな気まぐれにだって対応しないといけないから。高貴な人に仕えるということは、私が思っているより大変なことなのかもしれない。


「早く、アレク様を助けたいわ。私……さっきも言ったけどアレクセイ様と、オペルで落ち合う予定だったの。そろそろ来るかしらと思っていたら、こんなことになっていたなんて、全く思わなくて……もっと、早くに動いていたら良かったわ」


「……左様ですか。アレクセイ様も、確かにあの時庶民用の旅装でいらっしゃいましたね」


「ええ。本当は鏡を出たばかりの私と、すぐに旅に出る予定だったんだけど……これに関しては何も言い訳が出来ないけど、彼と仲良くなるための記憶を取り戻した私は、色々と恥ずかし過ぎて逃げ出したかったの。あの時、ロディに呼ばれてアレク様は、寝室を出て行ってしまったんだけど……そんな状態で彼に会うなんて、とてもじゃないけど、考えられなくて……すぐに置き手紙を書いて、フェイに頼んで帰国してしまったのよ」


 自分のせいで物凄く悔いが残る結果になったと言葉を重ねた私を見て、ロディは不思議そうな表情になった。


「ジゼル様……失礼ですが、あの日。確かに私はアレクセイ殿下にお声掛けをした記憶はあります。しかし、そのまま姿を消したので、彼はあの寝室には戻っておりません」


 ロディが言い出したことに、私は眉を寄せた。そっか……私の手紙は、アレク様には見られていないんだ……。


「え。待って……でも、ロディも私の手紙に書かれていたことを、知らないんでしょ? じゃあ、私の書いた手紙はどこに行ってしまったの……?」



◇◆◇



 鏡を出た私の肌に触れたのは、締め切られた地下で空気があまり入れ換わっていないのか、じめじめとした湿気が多くて重い空気。身体中纏わりつくようで、不快だった。


 暗くて狭くて……こんなところに、三週間も? もしかしたら、彼が王族であることを、忘れているのではないかしら。


 彼は、何の罪も犯していないのに。


 直系の王族だから、早い段階で下手なことはされないだろうとはフェイもロディも口を揃えて言ってはいたけど……何かされていないか、本当に心配。


「ジゼル。気をつけてよ。看守の見回りは定期的とは言え、同じ間隔ではない」


「うん。ありがとう……行って来るね」


 心配そうなフェイに手を振って、私は抱きしめていた大きな剣を抱え直した。


 これは、ロディが出してくれた案で、アレク様自身がそもそも強いので、彼さえ囚われている場所を見つけて剣を渡すことが出来れば、そうそう危険なこともないだろうと言っていた。


 第二王子アレク様が世界を救った一行の一人剣聖であることは、緘口令が敷かれているとは言え、シャンパニエン城内では周知の事実ではあるらしい。


 アレク様とその兄王太子オーギュストとの不仲も、同じようなものだと思う。いわゆる、公然の秘密というもの。表向きは何の問題もないとされているけど、内情がドロドロしているなんて何処でも良くあることなんだから。


「……ここ……よね?」


 情報を集めてくれたフェイが多分ここだろうと言っていた部屋は高貴な身分の人間が、大罪を犯し裁判を待つ時などに使われる小部屋らしい。罪人が収監される部屋らしく、扉の部分は鉄格子で部屋の中は丸見えだった。


 壁を睨み付けるようにしてじっと見つめている、金髪の男性……アレク様だ! 私は彼の姿を見つけて、声を我慢出来ずに叫んだ。


「アレクセイ様!」


「……エインセル!? 無事だったのか? ……良かった!」


 部屋の奥に居た彼は慌てて駆け寄って来てくれて、鉄格子から手を伸ばして私の手を取った。温かい……良かった。見たところ彼は元気そうだし、特に怪我などもしていないようだ。


「良かった……アレク様。あのっ! アレク様がここに居るって、確定出来ればロディたちも救出に入れます……だから……」


 色々と一足飛びにそれを提案した私を見て、彼は眉を顰めた。


「少し……待ってくれ。僕は君が、捕らえられて人質になったと聞いた。だから、大人しくここに居たんだ。もし、何の問題もないなら。その必要はない。ここから、もう出て行くよ」


 何か誤解していたアレク様は、私が元気で彼を助けに来ている状況が良くわからないと言いたげだった……多分、私が彼にした置き手紙が、兄の王太子の手に渡りそれを利用されてしまったのかもしれない。


 何もかも、私が悪いんだ……。


「……え? あっ……あのっ! 本当にごめんなさいっ! 私、記憶を取り戻して、恥ずかしくて……置き手紙をして、すぐに自分の国に帰ってしまったんです! だから、多分アレク様を捕らえた人たちに、それを利用されたんだと思います」


 アレク様は自分が思っても見なかった展開に混乱した様子ではあったものの、頭の回転の速く聡明な彼のこと。すぐに状況を掴んでくれたようだった。


「そうか……それならば、何も問題ない。エインセルが、こうして無事で良かった」


 元気過ぎるほど元気な私に、ホッとした安心した様子で微笑むアレク様。


 こんなところに私のせいで三週間も閉じ込められることになったのに……いっそ、怒鳴って罵ってくれた方が、気が楽だったのかもしれない。


 アレク様は嘘偽りなくとても優しいから、私が彼を待てずに逃げ出してしまったことでこんな目に遭っても優しいままだ。


「ほんっとうに、ごめんなさい。アレク様は私が捕まったと思って、逆に心配してくれていたんですね。もうっ……私。ごめんなさい。あの時、どうしても恥ずかしくて……」


「……なぜ記憶を取り戻しただけで、そんなに恥ずかしかったのかという理由は、この塔を出てから聞こう。エインセル。その剣を貸してくれないか……誰か、こちらへ近づいて来ている」


 私は思わず抱きしめてしまっていた大きな剣を、慌ててアレク様へと渡した。


 彼の言った通り、地下牢の石畳にカツンカツンという、高い足音が私の耳にも聞こえて来ていた。

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