第二十三話 神無月家の双子という呪い
志野は、置かれたままの古い衣装箱を見つめ、静かに語りだした。
「……浜崎はん、神無月の家門にはな、古くから忌み嫌われとる『習性』があるんや。神仏を奉るこの家に置いて、双子の誕生は『魂が分かたれた不吉』とされてきたんや」
志野の言葉は、冷たい夜風のように広間に染み渡る。
「双子が生まれたら、一人は『本物』として残し、もう一人は『予備』として影に隠すか、さもなくば存在ごと消し去る……それが神無月の血を穢さぬための残酷な不分律やった。うちの親……先代当主も、その習わしに忠実やったわ。うちに双子の姉がおったことは、一門の系譜からは完全に消されとる」
志野は震える指先で、自身の黒紋付きの袖を握りしめた。
「うちの姉さんは産まれてすぐ遠い親戚に養女に出され、うちは『本物』として、個性を殺して育てられた……でもな、本当は分かっとったんや。姉さんが病弱で、私が残されただけやったという事を。……うちらは人間やのうて、『予備がある道具』としてしか扱われてこんかったんや」
志野は続ける。
「菊人と綾の母親……うちの娘も、その呪いに取り憑かれよった。病弱な綾を諦めきれんと菊人を綾に仕立てた……愛することもせんとな。……結局、誰もこの家門の因習から逃れられなんだんやなぁ……」
志野はそれからゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと待っとり。……契約書持って来るわ」
「……は?」
「あんたの覚悟、見せてもろうたからな」
そういって、志野が持ってきたのは二通の書類だった。
一通は「マンションの賃貸契約書」。神無月が借り上げているマンションだ。
そしてもう一通は「神無月 綾の後見人及び管理責任者の契約書」だった。
そしてマンションの鍵を机に並べた。
「これ……」
剛が低く問いかけると、志野は扇子を閉じ、その先端で書類を指し示した。
「あんたが覚悟を決めた……その契約書や。今日から、あんたが菊人の管理人になる」
「……でも、マンション……って……」
「あんた……あの神無月 綾をあの『犬小屋』から仕事に出すんか?それはあかんで」
「……犬小屋……」
剛の借りていた安アパートを「犬小屋」とバッサリやられたのだ。
「……なあ、婆さん、いや……志野さん、正気か?……得体の知れないこの俺に大事な孫を預けるってのか?こいつは神無月の至宝……なんだろ?あんたたちにとっちゃ、代わりのきかないお人だろ?」




