第二十二話 告白と託された看板
志野が人払いをさせた奥座敷。志野と剛。傍らには剛が着せたグレーのスウェットに包まれて、菊人が丸まって眠っている。
「……菊人を壊したのは、神無月じゃなくて……瀬戸だったのか……?」
剛が尋ねた。
「……直接の原因は……やね。瀬戸は、全て自分の思い通りになる「人形」が欲しかったんやろね。……ほんまに要らんことも全部教えよってからに。……絶対許されへんわ」
志野は憤りを隠そうともしない。
「……ほいでもなぁ、証拠があらへんかったんや。今回カメラ仕掛けて、録画させてもろうた。……浜崎はんが間におうて良かったわ」
「……で、俺に鍵を……ね。神無月の体裁を守りながら、瀬戸を排除する為に俺は使われたのか」
「……あんさんは迷わず、鍵を開けてくれはった。……それにしても、綾と菊人の母親……我が娘も、ほんに情けないのう。あんな瀬戸を重用して、病気の綾しか見てへんかったとはな」
「あいつは……菊人は、神無月の家……ましてや綾さんやあいつの両親に対しても、何にも期待はしてねえよ……もうとっくに諦めているぜ」
「……そうやね。もっと早うに、あの子の変化に気づいてやらな、あかんかったね。可哀そうな事をしてしもうたね」
剛は、志野に尋ねる。
「なあ婆さん……あんたの懺悔はどうでもいい……俺が知りたいのは、こいつの『男としての幸せ』はどうなるってことだ。こいつは自分が望んで女になりたかった訳じゃない。一生、こんな身体で、この化け物の看板を背負って生きていかなきゃなんねえんだぞ?」
剛は、眠る菊人を見つめた。
志野は冷たく、けれど確信に満ちた声で返す。
「それは、菊人自身の問題や。こん子がそれを幸せだと思うたら、それでええ話やろ?……浜崎はん、男や女やいう『型』に縛られてんのは、あんたの方やないやろか?」
「……」
志野は続ける。
「……そうは言うてもな、これは、うち自身への皮肉でもあるんや」
そうして目線を菊人に落とす。
女として育てられ、女として舞うために、成長を阻害するような教育を施された孫の姿。
「うちら神無月は、こん子を『女』として育てた。……ええ、そうや。こん子の性別を、本人の意思もなんも無視して、家門の都合で塗り潰した。……うちがそうさせたんや」
志野の瞳に、深い後悔の影が差す。
「でもな、浜崎はん。あんたまで『こいつは男やのに可哀そうや』と、別の型に嵌めてしもうたら、こん子はいつまで経っても『誰かが決めた性別』の中でしか生きられへん。……男として救う必要も、女として愛する必要もない。ただ、目の前のに居る『菊人』という魂を、そのまんま、あんたに見て貰いたいんや。……鍵を渡した時に聞いたな?後戻りは出来へん。覚悟しいや……と」




