15話「"無能"はクエストを探す」
「ん…………」
朝日が上り、チュンチュンと小鳥の鳴き声を聞きながら、ウルフはうっすらとベッドの上で目を覚ました。
"無"の加護の能力で、睡眠は取らなくても良いウルフではあるが、彼の師であるリーゼに森に出た際は基本的には食事と睡眠はするようにと修行時代に言われていたため、しっかりと実行していた。
ウルフ的にも、やはり睡眠を取った方が気分は気持ちが良い。それは食事をした時も同じだと思われるので、これからも続けていこうと決意する。
ベッドから降りたウルフは1晩、泊まった宿に一旦出て、すぐ傍に設置されている井戸へと足を運ぶ。来る途中にヒナがいる龍の小屋を通るため、どんなもんかと少し伺うと、ヒナはまだ夢の世界へといた。それを見て、ウルフは微笑みながら再び井戸の方へと向かう
井戸にたどり着いたウルフはそこから綺麗な水を汲んで、その水で顔を洗っていく。それによって、睡魔は無くなり、完全に目が覚めた。
ギルドカードからタオルを取り出して顔を拭きながら、再び宿へど戻る。
「リーちゃん、おはよう。朝ごはん出来てるけど………?」
「おはようございます、アラタさん。いただきます」
宿の中に入ると、両手に料理が乗ったトレンチを持った身長が200はあるであろう大型の女性に話しかけられる。彼女の名前はアラタ。ウルフが一晩泊まった宿の店主である。アラタの身体が大きい理由は彼女の加護が『巨大』のためである。
ウルフが席に座ると、彼の目の前にアラタは朝食を置いていく。本日のメニューは3色のサンドイッチだそうで、名前通りに2つのパンの間には3色の具材が大量に挟まれていた。
ウルフはそのサンドイッチを手に取って豪快に頬張る。すると、野菜のシャキシャキ感や、肉の旨み、卵のまろやかなどが口いっぱいに広がる。言わずもがな、最高の美味さである。
「美味しいです!!」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。」
「1晩泊まれて、更に朝食ついて銀貨2枚って安いですね!!」
「それがウチの売りだもの。」
ウルフの言葉に、アラタはウィンクをして答える。その後、彼女は別の宿泊者を呼びに2階の方へと行ってしまった。
因みに、創造神『アルファー』が創り出したこの世界の通過は銅貨・銀貨・金貨・白金貨の4種類に分かれている。これはどの国でも共通している。
銅貨は分かるとは思うが、4種類の中では1番価値が低い。銀貨は1枚で銅貨10枚分の価値となっており、金貨は銀貨100枚分。そして、1番価値の高い白金貨は1枚で金貨1000枚分の価値となっており、ほとんどの人は基本手にすることはない。
つまり、ウルフが泊まったアラタが経営する宿は1晩ふかふかのベット付きの部屋が借りれて、さらにアラタの手作りの朝食が食べれて銀貨2枚ということは相当安値であることが分かる。
ウルフは『魔族の森』から出る前に、彼の師であるリーゼから少しばかりとお祝い金として金貨1枚と銀貨500枚をもらっていた。とは言っても、最初は彼女はウルフに金貨3枚渡そうとしていたが、相当な額なため、受け取るのは申し訳ないということで渋り、その半分となった。しかし、それでも一般的には多い方ではある。
しかし、今日からウルフは冒険者でクエストを受注することができるため、自分の手でお金を稼ぐことができるようになった。そのため、彼はリーゼから貰ったお金を出来るだけ使わないようにしようと考えていた。
「そのために、まずはクエストだ!」
ペチンと頬を叩いたウルフは残りの3色のサンドイッチをペロリと完食し、部屋へと戻る。そして、装備品を寝衣から『ブラッド・プリムラ』へと変え、クエストに必要なアイテムが揃っているかギルドカードを眺める。
確認が終えたら、部屋を出てアラタにもう1晩分の宿泊代を払ってから宿を出た。
「ヒナ〜」
宿から出たら、まずはヒナのいる龍小屋へと向かう。
「ピャアーーーー!」
今度はきちんと起きていたヒナはウルフを視界に捉えると嬉しそうに鳴いて近づく。
「おはよう、ヒナ。」
「ピャーーーー♪」
ウルフはヒナに挨拶をしながら、頭を撫でる。すると、気持ちよかったのか、さらにヒナは嬉しそうに鳴く。
「よし、ヒナ。今からクエストに行くよ。」
ヒナの身体に付けられていた金具をアラタから貰っていた鍵で外し、小屋へと出してあげる。その後はヒナに触れながら並んで冒険者ギルドの方へと足を運ぶ。
ウルフとヒナはすぐに冒険者ギルドへと辿り着いた。しかし、ウルフはすぐにギルドの中へと入ることは無かった。
「…………ふぅ」
入口前でウルフは気持ちを落ち着かれるために、大きく息を吸ってゆっくりと吐いていく。
この時、彼は少しばかり汗をかいて、過去のことを思い出していた。
かつては、周りから"無能"と呼ばれ、採取クエスト以外のクエストを1度たりともクリアすることが出来ていなかったあの時を。
当然、今のウルフならば楽々にクリアすることは容易いことだろう。なにせ、彼は最低でもDランクモンスターと3年もの間、交戦していたのだ。Fランクモンスターなんて楽勝に勝てるに決まっている。
それはウルフ自身、しっかりと理解している。理解しているのだが………………
しかし、それでも。
そうだとしても、その過去があるからこそ、ウルフは不安になってしまうのだ。
また……4年前と同じ結末へとなるのでは無いか、と。最終的にまたしても"無能"と周りから罵声を浴びることになるのでは無いかと。
身体を震わせながら立ち尽くしているとーーー
「ピャア!!」
「ーーーッッ!?わわっ!?」
ヒナがウルフの顔面に目掛けてべろりと舌で舐める。唐突のヒナの行動にウルフは身体をビクッとさせた。
「こら、ヒナ。やめなーーー」
ウルフはヒナに注意しようとしたところで言葉を詰まらせてしまう。
ヒナの顔がとても真剣な表情をしていたからである。いつもは人懐っこく、ニコニコとしているイメージがあるが、今はそれが全くない。口は閉じていて、少し大きめのビー玉ぐらいの瞳でジッとウルフのことを眺めていた。
「ヒナ………。」
それは、まるでウルフに『安心』だと、『貴方なら大丈夫』だと訴えているかのように。
「……………そうだね。まだ始まってないのに、弱気になるなんてダメだよね。」
ウルフは微笑みながら、「ありがとう」と感謝するようにヒナの頭を優しく撫でたあと、もう恐れはなく、覚悟を決めた表情で言葉をを呟いた。
「僕は………Sランク冒険者になるんだ!」
そして、ウルフはヒナを連れて冒険者ギルドの中へと入って行った。
♠️♠️♠️♠️♠️
中に入ると、既に何人かの冒険者がいて、まだ朝が早いというのにも関わらず賑わっていた。
ウルフはギルド内に入ってすぐに、とある場所へと向かう。
向かった先はかなりの大きさのある掲示板のようなものがある場所で、その掲示板には『F』という刻印と何枚かの紙が貼られていた。
これは『クエストボード』。依頼人がギルドに依頼することでギルドでクエストとして貼られるもので、冒険者はそれを受注することでクエストが開始となる。もちろん、その依頼人が依頼する内容でランクが決まり、依頼内容が難しければ難しいほどランクは高くなるが報酬は確かなもので、簡単であればランクは低いもので報酬は乏しいものとなる。
ウルフはFランク冒険者のため、『F』と刻印されているクエストボードへと向かう。一応、ギルドのルールとして自分の今のランクより上のクエストは受注してはいけないことになっている。しかし、例外はあるが………。
ウルフはクエストボードの目の前まで来て、現状、貼られているクエスト内容を目にする。
「お、リーフじゃん。おはよう!」
横から聞き覚えのある声で自分の名前が聞こえ、振り向くとそこには藍色の甚平を着た同期のレンがいた。恐らく、彼も初クエストを受けるために来たのだろう。
「おはよう。レンくんもクエストを受けに?」
「おう!てことは、リーフもか?」
「うん。」
「そうか。じゃあ、一緒に見ようぜ」
レンがリーフの隣へと来て、目の前のクエストボードに貼られている紙を1枚1枚確認していく。基本ならウルフの隣に『グランドドラゴン』のヒナがいて驚くのだが、レンはそこまで気にする様子は見せなかった。
「んー、やっぱりFランクであってパッとしない物が多いな」
レンは物足りなさそうに言葉を出していく。確かに、彼の言うとおり、Fランクのクエストは基本、簡単なものである。薬草や低ランクアイテムの採取依頼や、最低ランクモンスターの討伐、あとはお使いや見張りの依頼が多い。
そのため、案外、Fランク冒険者からEランク冒険者に直ぐに昇格する冒険者は多い。そんな中で何年もFランク冒険者だったウルフは周りから"無能"と呼ばれるのも無理はなかった。
「お、『スライム大量討伐』だって!リーフ、良かったら一緒にパーティー組んでやらねぇか?」
レンは1枚の紙に指をさしてウルフをパーティーに誘う。確かに、新米冒険者は同期達でパーティーを組んでクエストに挑むことは多いことだ。もちろん、ウルフはレン達と共にパーティーを組んでやりたいと思っている。思っているがーーー
「ごめん………。最初のクエストは1人でやりたいんだ。」
ウルフは申し訳なさそうにして彼の誘いを断った。そして、ウルフは数多くある紙の中から1枚手に取る。
内容は『草原にてコボルド3体討伐』。
コボルドとはEランクモンスターで顔が犬で身体が人間という獣人型モンスターである。人を襲ったり畑などを荒らしたりして、被害を及ぼしている。
過去にウルフはFランククエストでコボルドと交戦したことがあるが、1度もそのモンスターに勝つことは出来なかった。
だからこそ、ウルフはリベンジという形で1人でこのクエストをやってみたいと思った。
「………そっか。了解した。また今度、一緒にやろうな」
「うん!」
ウルフの気持ちを察したのか、レンは笑いながらウルフに対して言葉を出していく。その後、クエストの紙を適当に1枚手に取って「またな」と言って受付の方へと向かった。
ウルフもまた受付の方へと進み、女性にクエストの紙を渡す。
「お願いします」
「は〜い。押しますね〜」
受付の女性はウルフが渡した紙に判子を押す。これで、クエストが受注されたことになる。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、頑張って下さいね〜」
ぺこりと頭を下げてヒナと共にギルドを出ていくウルフを受付の女性は手を振って見送る。
ギルドから出たウルフはヒナに一言声をかけたあと、背中へと乗り、そしてーーー
「よし、初クエストをクリアしに行くぞ。ヒナ!」
「ピャアーーーー!!!」
こうして、"無能"であるFランク冒険者、ウルフの初クエストが始まろうとした。
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