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捨てられた転生者、規格外スキルで孤児院を救う〜時空間チートで始める、家族と食卓の再建記〜  作者: mizu


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28/33

七年後、俺たちは大きくなった

朝、目を覚ましたら、見慣れた天井だった。


 張り替えられて、染みひとつなくなった、それでも同じ部屋の天井。隙間風はもう入らない。窓から差し込む光は、ガラス越しだ。


 俺は十一歳になった。


 あれから、七年が経っていた。


*


 アシェン孤児院は、変わった。


 建物は二度の増築で一回り大きくなって、裏手には薬草工房が建った。森で採った薬草を、洗って、乾かして、刻んで、薬屋や施療院に卸す。働くのは、大きくなった孤児院の子供たちと、町の通いの職人。院長先生が「子供が道で寝ている町に、未来はない」というエイベル様の言葉の続きを、自分で書き足した形だった。——子供が手に職を持てる家に、未来は来る。


 台所を仕切るのは、今もアリア姉だ。


 二十一歳になったアリア姉は、院長先生の右腕というより、もうほとんど共同経営者だった。帳簿と、工房の差配と、新しく来た小さい子たちの世話。夜中に帳簿とにらめっこする癖は変わらないけれど、その顔はもう、疲れてはいない。


「レイ、今日も森?」


「うん。月白の様子を見てくる。そろそろ植え替えの時期だから」


「気をつけてね。昼前には——」


「帰ること。わかってる」


 七年言われ続けた約束は、もう体の一部だった。


*


 玄関で、出荷台帳を抱えたセルとすれ違った。


 十歳になったセルは、森の採取チームのエースだ。猫族の耳と鼻は、群生地の当たり年を外さない。「レイにいの教え方が良かったから」と本人は言うが、半分は生まれつきの才能だと思う。騒がしさは、変わらない。


「レイにい、東の斜面のハクハ草、今年すごいよ! 耳がぴりぴりする!」


「わかった、見とく」


 工房の前では、トーマが新しい乾燥棚を組んでいた。十一歳のドワーフの手は、もう町の家具職人から弟子に欲しいと言われる腕前だ。喋らないのは相変わらずで、でも、図面を引くようになった。言葉の代わりに、線で喋る。


 カインは、朝から町だ。十二歳で自警団の見習いに入って、今は商業地区の見回りをしている。「孤児院の犬って呼ばれてる」と本人は嫌そうに言うけれど、その呼び名を町の誰も悪口で使っていないことは、知っているはずだ。


 リーナは、オスカルさんの店にいる。


 十一歳の薬師見習い。古い言葉の文献をすらすら読むものだから、オスカルさんが「俺より物知りになってきやがった」とぼやいている。月白アズリルの特効薬の改良処方は、半分はリーナの仕事だ。


 ニナは九歳になって、もう熱なんて滅多に出さない。あの冬のことは覚えていないと言う。それでいいと思う。


*


 森のいつもの川辺に、俺は籠を置いた。


 籠だけは、七年前と同じものを使っている。トーマが何度も底を張り替えてくれた、最初の籠だ。


「ルーチェ、着いたよ」


 木陰から、金色の髪の少女が出てきた。


 ルーチェは、もうほとんど一日中、人の姿でいられる。背は俺より少し低いまま、七年前の「同じ年頃」の見た目から、少しだけゆっくり育っている。竜の時間は、人の時間より、のんびり流れるらしい。


「レイ。月白、つぼみ、ついてたよ。ことしも、いっぱい」


「そうか。……天気は」


「ゆうがたまで、もつ」


 竜の天気予報は、外れたことがない。


 俺たちは並んで、川上へ歩き出した。あの夜、雨の空を駆けた道のりは、今はもう、慣れた仕事道だ。森の主とは、あれから何度か顔を合わせた。向こうは道を空け、こちらは縄張りの実りを採りすぎない。それだけの、静かな付き合いが続いている。


*


 仕事を終えた帰り、岩場で休んでいると、ルーチェがふいに言った。


「ねえ、レイ」


「ん」


「わたしの卵が、なんで、あのもりにあったのか。……かんがえたこと、ある?」


 手の中の水筒が、止まった。


 考えたことは、ある。何度も。エンシェントドラゴンは、リーナの文献では「数百年、目撃の記録なし」の存在だ。その卵が、町外れの森の、落ち葉の下に、ぽつんとひとつ。親竜の影も、巣の跡もなしに。


「……ルーチェは、何か覚えてるのか?」


 ルーチェは、膝を抱えて、川面を見ていた。


「ゆめみたいに、おぼえてる。卵のなかで、ながいながいあいだ、ながされてたの。くらくて、しずかで、どこでもない場所。……ときの、すきまみたいなところ」


「時の、すきま」


「うん。それで、あるとき、きゅうに『ここ』にいた。あのもりに。——そしてすぐ、あったかいまりょくが、きた」


 ルーチェが、こちらを向いた。


「レイの、まりょくだった」


 時空間。


 俺のステータスに、ずっと書かれている言葉。極希少、とだけ注釈のついた、誰にも聞けず、何の文献にもない、俺の素質。


 時のすきまを流されてきた卵が、よりにもよって、時空間の素質を持つ転生者の住む町の、森に落ちた。


 偶然という言葉で、しまっておくには、座りが悪すぎた。


「……なあ、ルーチェ」


「ん?」


「答えって、どこにあると思う」


 ルーチェは少し考えて、それから、空を指した。


「ここじゃない、どこか」


 夕方の空は高くて、秋の雲が、北へ流れていた。


※2026/9/22 台詞を少し修正しました(内容の変更はありません)。

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