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捨てられた転生者、規格外スキルで孤児院を救う〜時空間チートで始める、家族と食卓の再建記〜  作者: mizu


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20/33

悪徳領主、失脚す

決着は、思っていたより呆気なく来た。


 ヴェルナーが奥の帳簿を押さえてから十日後、王都から正式な召喚状が届いた。ガルド子爵——この町の領主は、横領と公文書偽造の疑いで、王都へ出頭を命じられた。


 逃げるとか、開き直るとか、そういう劇的なことは何も起きなかった。子爵は王都へ発ち、戻ってこなかった。後から聞いた話では、王都の屋敷も財産も差し押さえられて、爵位は返上。着服した補助金は、三年分、利子をつけて町へ返還されることが決まったらしい。


 布告一枚で始まったことが、書類の束で終わった。


 院長先生の言っていた通りだった。正しさは、声の大きさじゃない。帳面の正確さだ。


*


 町が変わっていくのを、俺は数日かけて、子供の目の高さから見た。


 まず、買付所が閉じた。扉に板が打ち付けられて、領主の紋が外された。外す作業をしていた職人が、紋を地面に置くとき、ほんの少しだけ手荒だったのを、通りがかりの大人たちが見て見ぬふりで笑っていた。


 次に、市場の値段が戻った。


 オスカルさんの店には「薬草買います」の札が戻り、初日の朝から行列ができた。皆、買付所を通せなくて家で腐らせかけていた薬草を、抱えて持ってきたのだ。オスカルさんは全部に値をつけた。相場より、少しだけ高く。


「爺さん、いいのか、そんな値で」


「うるせえ。開店祝いだ」


 ベックさんの店には、衛兵の詰所から改めて注文が来た。前の倍の量を、ちゃんとした値段で。ベックさんは「現金なもんだ」と鼻を鳴らして、それでも断らなかった。納める肉に、いつもより良い部位を混ぜているのを、俺は見た。


 夕方の大通りには、誰かが酒樽を出して、なし崩しの宴が始まっていた。笛の音がして、手拍子が重なって、知らない大人同士が肩を組んでいた。


 俺はその輪の、少し外にいた。


 肩の上で、ルーチェが祭りの灯りを目で追っていた。それから俺の頬に頭をすり寄せて、きゅう、と鳴いた。頭に流れてきた感情は、はっきりと、やったね、だった。


「……俺は何もしてない」


 声に出して言ってみた。


「ということに、なってる」


 ルーチェが、きゅるる、と喉を鳴らした。竜の笑い方だと、最近わかってきた音だった。


 手柄は、ヴェルナーのものだ。あるいは、勇気を出して証拠を集めた、名もない町の人たちのもの。それでいい。それがいい。俺の取り分は、最初から決まっている。家族の食卓と、薄くない粥。それだけだ。


*


 孤児院に、一通の通知が届いたのは、その週の終わりだった。


 王国の正規の印が押された、本物の通知。院長先生は封を切って、読んで、しばらく動かなかった。アリア姉が横から覗き込んで、口元を手で覆った。


「『福祉交付金の支給再開について』——」


 院長先生が、声に出して読み上げた。


「『調査の結果、貴施設への交付が不当に停止されていた事実が確認された。次月より支給を再開し、未払い分については順次返還する』……」


 食堂が、しん、とした。


 子供たちは意味がわかっていなかった。でも、院長先生の手が震えているのと、アリア姉が泣きそうなのと、それがたぶん良いことなのだとは、全員がわかった。


 最初に動いたのはセルで、「ばんざい?」と聞いた。


 アリア姉が笑って、「ばんざい」と答えた。


 食堂が、ばんざいの声で埋まった。ニナが意味もわからず一番大きな声を出して、ルーチェが釣られて天井近くまで飛び上がって、トーマが珍しく声を出して笑っていた。


 院長先生は通知を胸に当てて、目を閉じていた。


 唇だけが、小さく動いていた。声にはならなかったけれど、誰に宛てた言葉なのかは、俺にはわかる気がした。


*


 夜、布団の中で、俺はステータスを開いた。


【レイ 4歳 人族】

 HP:16/16 MP:11/31 Lv:3

 素質:時空間(極希少)

 蓄積:時空間・小

 スキル:鑑定Lv2 アイテムボックスLv1 ディメンションルームLv1

 固有称号:転生者

 従魔:エンシェントドラゴン(幼体)


 鑑定が、Lv2になっていた。


 いつ上がったのかは、わからない。偽造文書を見抜いた夜か、買付所を調べ続けた夜か。スキルは、使い込んだ分だけ育つらしい。


 レベルの上がった鑑定で、何が変わるのかは、まだ試していない。


 でも、ひとつだけ、すぐに確かめたいことがあった。


 俺は腹の上のルーチェに、そっと鑑定をかけた。


【エンシェントドラゴン(幼体)】

 状態:健康・成長期

 従魔契約:レイ

 人化:条件未達

 ※鑑定Lv不足のため詳細不明


 ——人化。


 見たことのない一行が、そこにあった。

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