第6話 首脳会議
◆◆◆第6話 首脳会議◆◆◆
あの流れ矢を受けてから、俺はこの事件を調べていたエーリヒと手紙を交わし続けた。
今まで調べた者が主犯人か、その者が誰か主犯人へと報告をしたのだろう。
だがこの魔導士であるエーリヒを簡単に殺せるものか。
しかし、相手はどこの誰かも分からない。そして敵対する人数も。
この圧倒的不利に俺は少し頭を悩ませた。
そうしている間にもアルブレヒト兄の葬儀が始まった。
葬儀は教会が工事を行っているため、教会の外にテントを張って行う事になった。
教会出入口にも1張りのテントを設置し、仮の祭壇を作る。
どうせ葬儀は1時間程度だ。その間は工事をストップさせればいいと思うのだが、あの第二宰相のシュトラウスが『いくらお金と時間が掛かると思ってるんですか!』と青筋を立てて怒るのが目に見えている。
その思いが通じたのか、反対側で俺やエーリヒをチラチラ見ている。
……まさか、こいつが黒幕じゃねえだろうな。
金銭の流れや、人員の配置は専門中の専門だぞ。外部誘致じゃないが、敵を潜入させるなんてこいつが主犯、もしくは仲間の一味か?
今回は外だから落ちる物はないかな?
始まる前なので、テントを出て身体を動かし柔軟体操をするかのように、教会の上を見た。
高い円錐状の屋根の上には、雷避けを兼ねた聖光教会のシンボルである、十字の中心に大地を意味する円形が重なった鉄製の避雷針が太陽の光を受けて鈍く光っていた。
魔法の素である魔素は動いて……あっちで動いている?!
ああ、あれはレオがまた練習をしているのか。ちょっと早すぎないか?
ああ、こっちの警戒だった。
屋根の上には誰も登れない。登るのは屋根の修理の時だけ。そして今日も誰もいない。周りに高い建物はない。
って事は周りから攻撃か?
今度は王族、重要職が外にいると言う事からか、第二宰相のシュトラウスが正騎士を配備させていた。
祭壇の横にはゴツイハルバートを持った二人の騎士が。墓地へと向かう道の案内を務める騎士もゴツイハルバートを持っていた。俺らの後ろにもそれぞれ正騎士が配置されており、皆が槍を持っていた。しかも変な奴らが混ざらないようにか、みなヘルムを後ろに倒して顔が見えるようにしている。
やるな第二宰相。まずは疑われないように人員の配置、装備を行い、犯人像から自分を除外してくる。
だが、俺は騙されないぞ。
だが、犯人が入り込む好きは無いか。
まあ遠距離で矢を打ち込んでくるか、魔法の炎を打ち込むか。
警戒するに間違いはないな。うん。
神経を尖らせながら葬儀が始まった。
神官が長い祝詞を読み、献花を行っていく。
「何一人でピリピリしてんだよ」
すれ違いざまに長兄のジークフリード兄が声を掛けて来た。
「いや、何かあるんじゃないかなと警戒してるんだ」
「ないない。アレは事故だったんだぞ。二度目はないって、考えすぎだよ」
熊の手のようなデカい手をヒラヒラ振って俺の考えを一掃する。
いやいや、あるんだもん!
10歳も違うと俺もまだ子供扱いだ。
青年の儀も終えて結婚も出来る歳なのに。
ジークフリート兄も結婚してないけど、結婚出来ない理由があるのかな?
最後に5歳のマリアが熱心に棺の前でお祈りをして、後は参列者に場を明け渡す。
葬儀は滞りなく通り過ぎてゆく。
もうすぐ棺が運ばれていく。この前は歩き出した途端だった。
周りを見渡すが、誰も変な動きをしておらず、魔素も動いて……動いてる!?
父である王が、棺の前で挨拶の言葉を喋っている中、俺はテントを飛びだした!
どこだ!
周りを見るが遠距離からの魔法なのか、教会の真後ろで魔素が動いている!
「ハインリヒどうした?」
王が突然の俺の行動を不思議に思い、声を掛けて来た。
「魔素が、魔法が飛んでる……どこだ!」
力強い魔素が動き、それを探知した身体が、背中がゾワッとする。
熟練者の魔法は、途中で動きを変える事が出来る。教会の裏から来ていると言っても教会の中を通過する訳じゃないんだ。
「みんな伏せろ!……風?風の魔法か?……え?上?」
魔素を探知していたが、魔力は上へと上がり、教会の屋根まで上昇した風の魔法は、見えないまま教会のシンボルに当たった!
バギッ メキメキッ
空気を圧縮させた玉が、鉄製のシンボルを根本から破壊する。
屋根を破壊しながらデカい鉄の塊が一気に落下してくる。
「エアーボール!」
方向を変えようと同じ空気の圧縮した玉を放った!
だが、重量級のシンボルは方向を僅かしか変えず、俺達の、いや、王を目掛けて落下する!
万事休す!
その時だった。
「みんな伏せとけ!」
その声は、俺をからかったジークフリート兄だった。
端に立っていた騎士のハルバートを電光石火の勢いで奪い、急反転すると落ちて来るシンボルを真横に薙いだ!
ズババババ!
一気に切り裂くと同時に剣風でシンボルを弾き飛ばす。
ガランゴロンと10m以上も離れたところに落ちるシンボル。
「王よ大丈夫ですか」
「ああ、問題ない」
少しも慌てる事無く答える王。
イヤイヤ、父さん今腰の剣で斬ろうとしてたろ!
全く慌ててなかったし、仮にも武王と言う異名があるんだろ?
俺達には見せないが、ジークフリート兄が出なくても、余裕で斬り捨てたろ!
「ジークフリート、ハインリヒ、お前たちの気持ちは分かった。最近散発している不幸な出来事だが、もはやこれで確実となったな。葬儀の後でこれからの事を協議する」
そう言った王の顔は、俺には楽しそうな顔に見えてしまった。
葬儀の後で父であるコンラートは、執務室に宰相の三人と何故か俺、そして宰相見習いのエーリヒも呼んでいた。
だが、その謎も直ぐに解けた。
「まずこれからの話は、ここにいる以外に他言無用だ」
皆は、王を見て頷いた。
「もちろん、ここに裏切者がいるとは思っていないが、万が一情報が漏れた場合、徹底的に調べ上げる。もちろん息子や宰相、どれだけ訳があっても許す事はないと心しておけ」
この王の発言により、執務室の中は緊張感に包まれていた。
「さて、今までの事を調べていたハインリヒ。調べた事を全て言え」
成る程。
俺はこの情報を言う為に呼ばれたのか。
まあいい。どうせ、エーリヒと情報は似たり寄ったりのはずだ。
「では、俺が調べた結果を言います。まずは魔眼の文献から……」
俺は調べていた事を全て話した。
魔眼の伝承。持っている者の未来。そして没後一定期間を経て災害が起こる事。そして今回は魔眼の影響ではない可能性が高いと言う推測。そして調べていたアルブレヒトが死に、次に俺が狙われた。
運よく躱す事が出来たと皆には伝えた。
ここに巡視な魔法使いはいない。そして魔法使いが空気中を動く魔素を感じ取って魔法の発動を知る事は俺の口からはエーリヒにしか伝えていない。
すでに知っている可能性もあるが、今信じられるのは自分自身だけなので、言わなくてもいい情報は与えない事にした。
あの時、魔法を探知して皆に伏せろと言ったので、もう無駄だとは思うが……
それと末弟のレオに魔法が使える事も……
エーリヒは微かに眉を動かしたが、いたってポーカーフェイスだった。
「分かった。ではエーリヒも調べていた結果を全て言え」
「はい、では先ほどのハインリヒ殿下と重複するところばかりですが……」
エーリヒは殆ど俺と同じ調査だった。まあ、教会の彫刻のある橋に足跡があったなどとは言わなかったが。
エーリヒはそれこそ子供の頃からずっと一緒だった。
父親が第一宰相と言う事もあり、城内に家族の一室が設けられ、それこそ兄弟のように育って来た。王都内にある学校へも行ったし、頭が切れる事も分かっていた。
兄弟同様、犯人からは除外してもいいんじゃないかと思っていた。
「さてフリードリヒ、どう思う」
王の腹心と言われるエーリヒの父である第一宰相へ話しを振った。
「魔眼の存在から疑うとは盲点でしたな。ですが、まだ推測の域を脱してはいませんな。申し訳ないですが、隔離は以前必要かと。そして肝心の第三者からの攻撃ですか……その目的はなんだと思われますか?」
「儂の命、及び子供達の抹殺じゃないのか?この国を乗っ取る為に」
まあ、それも理解できる。
だが、俺ら子供から殺していくと、王はより警戒を強めるぞ。普通やるんだったら警戒されていない内にトップからやるだろ。
アル兄や俺を先にやろうとしたのは、この魔眼と言う存在を、魔眼が不吉な者ではないと言う事をバラされたくないんじゃないのか?
ハインリヒは考えた。
幾つものシミュレーションをし、敵になったつもりでなぜ殺さないといけなかったのか。その先に何が来るのかを。
王はその間にも三人の宰相と話を進めた。
「まずは完全に動きを止めてみては?相手から出てくるのを待つのです」
「いや、ジリジリ財源を使うのなら一気に財源を使って終わらせましょう」
「陛下には悪いですが、王妃と殿下を離し、安らかに眠ってもらうしかないと思います。過去の例がそれを物語っています」
正に三者三様であった。
客観的に考えてもどれも間違いではない。それだけに俺の掴んだ情報はないも同然。何かを訴えるには弱すぎるのだ。
激しい言い合いこそなかったが、白熱した話し合いの末、王は妥協案と言うべき発言をする。
「決めたぞ。一旦、この騒ぎは落ち着くまで保留だ。騒ぎを大きくすると向こうの活躍の場を与えるだけだ。静かにやり過ごすんだ。しかし、エーリヒには魔眼の事を継続して調べる許可を与える。期間は無期限だ」
「無期限っ!王よ。俺はなんで外されたのですか?」
俺は外され、エーリヒには続行させる。少し納得がいかなかった。
「慌てるなハインツ。お前は危険な場所に顔を突っ込みすぎだ。その魔法で儂を守れるくらい、そして自分を守れるようになるまで精進しろ」
「くっ……はい、分かりました。精進します」
確かにあの時の警戒は早かったが、重量級のシンボルはビクともせず、ジークフリート兄の一撃で危機を脱した。
下手すると王どころか俺も死んでた?そう言いたいんだろう。
分かったよ。来るべき厄災が来るまで、精進しよう。その時は俺も中年だろう。希代の魔導士にでもなってやるぜ。
それから俺は少しでも空いている時間を見つけ、北にある魔の森へと修行を兼ねて入るようになった。
密かに弟と会える日はまだ数年も掛かったが、王の判断が正解だったのか、それとも敵が警戒をしたのかは分からないが、それから約1年間もの間、王宮内に誰も死傷者は出なかった……
次は15時投稿です。




