第5話 転生者
本日も5話投稿致しますので、よろしくお願いします。
◆◆◆第5話 転生者◆◆◆
ああ、ビビった。誰かが入って来たと思ったら突然泣き出すんだから。
ついこの前生まれた俺は、何故か赤ん坊にしては前世の記憶があった。
それも日本人として、しがないリーマンをしていた記憶が。
俺は思ったね。あーこれは異世界転生だって。
石造りの、考えられない部屋で生まれ。何の恐怖か分からないが、俺と視線が合うと驚いた様子で後ずさっていく。
そして分からないはずの謎の言葉を喋っているはずなのだが、それもハッキリと分かってしまう。
でも俺は本を読んでいるから分かったね。これは異世界転生初心者パックだと。
趣味なんて特に無かった。
多分友達も居たような記憶がない。
そこそこ勉強をし、名も知れぬ大学を出て、変にブラックな会社へと入社した。
多分営業マンだったんだろう。特に成績も良くなく、毎日怒られてばかり。たまに良い成績を残しても、何か不正をしたんだろうと、怪しまれるだけ。
そりゃあ、仕事中に公園でネットサーフィンをしたり、図書館で時間をつぶしたりと、お金のかからないように上手にサボった記憶があった。
昔からモテない、キモイ、デブ、ハゲてはないけども、モブ中のモブやNPCなどと陰口を言われ、現実逃避するしかなかった俺は、ゲームと本に走った。
営業なのにコミュ障。まあどうにかなるものだ。
仕事終わりには帰り道のコンビニでホットスナックを買い、家へと帰る。
ああ、思い出した。帰り道の公園で生まれていた子犬に餌をやったっけな。
そしてその子犬が可愛くて……可愛くて、唯一の友達のように感じて、スーツが汚れるのも構わず遊んだっけな。
そして……そして……俺は……その子犬と……子犬が……道に走っていって……走って……明るい光、うるさいトラックの音、激しく鳴るクラクション、轢かれる。轢かれると思ったんだ。
危ない!
意味も分からなかったんだろう。道の真ん中でキョトンと俺の顔を見る子犬。
もうすぐ命が、命が無くなってしまう。
その時、思わず足が動いていたんだ。
死んだらダメだと思いながら。
ここでこいつの事を守れるのは俺しかいないと、運動もしない俺が必死で飛び込んだ。
贖罪でも何でもない。
単純に友達が居なくなることの悲しみ。そして恐怖。
一度出来た心を通わせられるソウルメイトを無くす事が、その時の俺には許せなかった。
どうせ、何もない人生だ。
親も兄弟も居たかどうかも覚えていないが、年齢=彼女いない歴だった俺。
会社の同僚に死んで引継ぎが無いと、文句を言われる事ぐらいしか思い浮かばなかった。
その時の俺には、俺よりも犬の方が価値が高いとしか思わなかった。
こんな俺なんて誰も必要としていない。
無になってしまっても良いと思ったのだ。
暖かく柔らかい感触が手に当たり、それを思いっきり投げ飛ばす。
同時に身体全体に当たるすさまじい衝撃!
転がり回転し、一瞬のうちに身が引き裂かれる感覚。
考えられないような痛みが襲ってくるが、すぐに感覚がなくなっていく。
ああ良かった。それ程痛くなくて。
次の瞬間、一気に身体が冷えてきた。
手足の感覚もなく、思考もまとまらない。
クーン、クーンと子犬が泣く音が聞こえた。
良かった。助かってたんだね。
生きてくれててよかった。
アレ?
なんで涙が
涙が流れるんだ?
頬を伝う涙の感触がやけにはっきり分かる。
アレ?
なんでだ?
俺
まだ生きたい
まだ生きていたい?
もうだめだ
もう
終わりか
ごめん
駄目だ
「ごめ……」
そこで記憶は途切れた。
多分、神様との密約があったのかどうかも知らない。
だけど、あの時の最後の心残りが、俺を異世界へと生まれ変わらせてくれたんだと思う。
何故異世界だと分かったかだって?
だって、この小さな身体の中に、不思議な循環する物がはっきりと分かったから。
熱いモヤモヤが身体を満たす感覚。そしてある程度の使い方が理解できていた。
神様ありがとう!
これで俺もNPCから脱却できる!
主人公じゃなくても良いんだ。
脇役でも。
今から鍛えれば、魔王でも何でもやっつけられるはず。
何でもできる気がしていた。
でも、この美人の母親が泣いているのを見ると、慰めたくなる。
俺の記憶上の初めてのおっぱいだったからな。
だから「出ろ、出ろ」と叫ぶが、出てくるのはそよ風だけ。
だけど、流石は美人の母親。
俺の出した風魔法を感じ取ってくれて、泣き止んでくれた。しかも、その胸元に俺を押し付けて喜んでいる。
良かった良かった。
ただ、「マガンが、マガンが!」と叫びやがった産婆たちは許さん。
こんな美人な母親から生まれたんだぞ。カッコイイはずだ。
一度見た父親らしき顔はいかつい感じだったが……
そのうち鏡でも見せてくれるだろう。
まあ、石造りの部屋ならば、あるかどうかも分からんが。
後はひたすら腕を磨き、そのうち来ると思われる魔王への対抗手段を練るとしよう。
「出ろ、出ろ」
精一杯の努力をしながら。
あ、またこの男が来た。
少し優男風で、歳は二十歳くらい。
絶対こいつは脇役だ。
それほどカッコよくもなく、ブ男でもない。割と位の高そうな母親に食事を運んでくれる、便利な何でも屋。だが身なりは良い事を考えると、地位は低い訳じゃない事くらいは分かる。
「マクダレーナ様。アルブレヒト殿下の葬儀は明後日に決まりました」
「そう。本当に死んだのね、でも……私にはレオがいるから」
この男はここにいる母に何かがあれば知らせてくれる。
この前のエミリアと言う人に続いて今度はアルブレヒトか。
俺は分からんけど、ここは呪われてるんじゃないの?
「それともう一つ大事なお話が」
「何?」
「レオナルト様の魔眼についてなのですが、数々の伝承、言い伝えは嘘が多い可能性が出てきました」
「え!?」
出た!俺の“マガン”って何だよ。
伝承?言い伝え?
何々?ひょっとして俺って呪われてるのか?
せっかく転生したのに、生まれながらに負け組決定なの?
「どういう事?教えてくれる」
「はい、私は魔眼と言う伝承を不思議に感じ、昔からの国で起こった……いや、この国で生まれた魔眼の持ち主の事が書かれた本を調べました。
昔から書かれている記述では、その目で凝視されると死ぬ、周りが不幸になる、厄災が訪れると言う物が殆どでした」
「そうね、それは私も聞いているわ」
「はい、歴史にもそう書かれています。ただ、魔眼の持ち主が凝視しただけで死ぬ、死なないのはどうしてでしょうか?」
「それは……愛情かしら。親だからとか、兄弟だから大丈夫……だと?」
「今回ので言えばアルブレヒト殿下は実の兄弟です。歴史にも親、兄弟が死んだと言う記述もあります。そうです。死んだ者だけで言うと親兄弟他人、関係ないのです。今回も医師団、エミリア皇太后様、そしてアルブレヒト殿下。結果だけをみると同じなのです。ですが、マクダレーナ様は?陛下も、私の父であるフリードリヒも、医師団の残りもハッキリと魔眼を見ています。そして見ていないはずのアルブレヒト殿下はなぜ死んだのでしょうか?」
「私には……」
「アルブレヒト殿下は教会の彫刻に押しつぶされてしまいましたが、レオナルト殿下の御目は見ていないはず」
「そうね、メイドも遠巻きにしているだけだったからそれ以外の者は誰も見ていないはずよ」
「私は仮説を立てました、魔眼とは何なのかと。その目に宿った何かの切っ掛けにより魔法の一種で人を殺せるとします。歴史でも見られて死んだと言う記述が散見しています。今回の件でも合致するでしょう、一部は」
「そうね。アルはレオを見ていないのに何で死んだのかと言う事ね」
「そうです、目を見て死んだのなら、見ていない人を殺せるのはなぜなのかと。レオナルト様も知らない
はずの、アルブレヒト殿下が何で死んだのかと。歴史でも見ていない人を殺したとも記述があります。見て殺せるのに、わざわざ離れている人を殺すでしょうか?」
「確かに。めんどくさい事をしなくても出来るのに離れてから殺すのはなんででしょうね」
「はい、これが第一の謎です。周りにまき散らす呪いのようであればその効果は分からないですがね。はたして呪いがあの巨大な彫刻を落とせるかは不明です。そして次の疑問です」
「……はい、続けて」
「はい、私はこうして調べていますが、殿下の中でもこの件を不思議がる、納得できないお方がおられました。まず第一に亡くなったアルブレヒト殿下です。これは聞き込みをしている時に、アルブレヒト殿下からも聞かれたと言う事から判明しています。そしてもう一人、ハインリヒ殿下もお調べ中です」
「ハインツは!ハインツは無事なの!?」
「その事なのですが、昨日夕方密かに手紙を頂きました。すれ違いざまにポケットに手紙をねじ込まれ、『誰も居ないところで読め』と一言だけ言われ直ぐに離れて行きました。そこにはこう書かれていました。この尖塔の近くを歩いていると、騎士団練習場から矢を打ち込まれたと」
「えっ?」
「ハインリヒ殿下はすぐに練習場を訪れました。弓の練習をしていたのは確かですが、誰が撃ったかは分からなかったそうです。そしてその事を手紙に書き、マクダレーナ様以外には誰にも話すなと」
「そう、これは暗殺なのね」
「でしょうね。魔眼と言う不可思議な事を隠れ蓑に調査をされるとマズイ事でもあるのでしょう」
「あなたは?エーリヒはどうなの?」
「どうやら私はまだ目を付けられてないのか、それともこれからなのかは分かりませんが」
「直ぐに調査を止めなさい」
「そうですね。表立ってはマズイと言う事は認識しました。ですが、もう少し裏でコソコソ調べます。ハインリヒ殿下は魔法が使えますが、私にはないですからね。そうそう、レオナルト様が風魔法が授かったみたいなので、おめでとうと伝えてくれと」
「ああエーリヒには分かるのね。まだ数日なのに風を使えるのよ」
ギクッ!
目が合ったけど、知らんふりしとこう……
「多分、今話をしている事も認識しているみたいですね。先ほどからずっとこちらを見ていましたから」
「そうね、頭が良い子のように思えるわ。殆ど泣かないし、よく飲んで、良く眠るし、暇なときは風を起こして遊んでるみたいだから」
「それは頼もしいですね。では最後に一つ」
「なに?」
「魔眼持ちが生まれた後、15年から20年の間に何か大きな災いが起こっています」
「え?」
「それも必ずです。魔物集団暴走か、凄まじい疫病か、それとも戦争かです。マクダレーナ様も心に止めておいてください」
「え、ええありがとう」
そのエーリヒと言った男はそれだけ言うと、前に使ったトレイと、洗濯物などを持って帰っていった。
12時、15時、18時、21時に投稿致します。




