第3話 三者の疑問
◆◆◆第3話 三者の疑問◆◆◆
皇太后の葬儀は、1週間後だった。
王都にある魔法騎士団顧問、ヴァルター・エーデルマンがエミリア皇太后の遺体を凍らせ、葬儀に合わせてくれていた。
「すまんなエーデルマン」
国教である星光教の尖塔である白翼の尖塔、通称ホワイトウイングで葬儀の準備をしているコンラート王は、遺体を凍らせて保存させたヴァルター・エーデルマンに礼を言っていた。
「いや、礼には及びません陛下。私も先代王妃には色々とお礼を言わないといけない立場ですので。一人の友人として最後のお手伝いを出来るのは光栄な事です」
何しろ水魔法レベル7、土魔法レベル8を誇る魔導士だ。
攻守揃って使える魔法騎士団の元団長にして、最も信用のおける元部下の一人でもあった。
「久しぶりに引っ張り出されて疲れているかと思ったが、まだまだ健在だな。一つ防壁でも作ってみるか?」
「ご勘弁を。まだ小童には負ける気はありませんが、陛下の無茶振りは少々私にはキツイですね」
「あははは、冗談だ。エーデルマン、長生きしてくれよ」
「それが出来ればいいのですが、少々生き物を殺し過ぎましたが故に寿命で死ぬ事は無いと思っております。神が死に場所を見つけてくれるまでの辛抱ですね」
「うむ、そうだな。で、我が子の中にそれらしい素質のある子は?」
もうすぐ葬儀が始まろうとしている教会の中は、親族や高官、他領主や貴族などが集まっていた。
亡くなった母であるエミリアの長男である私を先頭に、王宮の中での地位の高さを誇る子供達が勢ぞろい……先日生まれたレオナルトと生みの親であるマクダレーナを覗く一同が勢ぞろいしている。そんな私の後ろに護衛として座っていたエーデルマンに聞いてみた。
「第二皇子のアルブレヒト殿下はすでに水の魔法を発現させており、第四皇子であるハインリヒ殿下は風魔法を授かっています。その他の殿下も殆どで身体機能の魔法を。ですが、一番気になるのは、第二王女であるマリア殿下でしょう」
「マリアはまだ何も授かってはいないと言う話だったはずだが……」
生まれながらに何も持っておらず、その優しさと愛嬌、そしてその美貌は母であるマクダレーナにそっくりであった。
「今は、でしょうな。毎日のように教会でお祈りをしているとの事ですよ、護衛を連れて。そう言う者に神の加護が下りると私は信じていますので」
「信じるか…………では、アレの事は信じるのか?」
「アレと申しますと、王子のアレですか?」
「そうだ、そのアレだ」
王宮では一度漏れた噂を消す事など不可能に近い。
二人目の死者。それは私の母である前皇后だ。その日まで元気だった事を見ているメイドなども多く、突然の死、そして生まれた子供と一緒に北の離宮に籠ったまま出てこないのを見ると、初めに流れた魔眼、目が赤かったと言う噂は消しようがなかった。
「どうでしょう。迷信も信じれば本当になるとも言いますしね。私は見ていないのですが、誰ぞの子が独断で動いている。とも聞きますがね」
それは私も聞いていた。
次男のアルブレヒト、四男のハインリヒ、五男のヴィルヘルム、そして第一宰相の子供であり、宰相見習いのエーリヒ・ノイエンシュタインは魔眼と言う厄災そのものを疑っていると言う事らしい。
「ん?マリアも疑っているんじゃないのか?お前も聞いているんだろ?」
元騎士団のトップと言う事もあり、独自の情報網は持っているんだろう。その中から素質がある者の名前にも出て来たマリア。だが、儂の情報網にはマリアの名前は無かった。どうせ騎士団の暗部が情報元だろう。エーデルマンも情報元は同じはずだ。
「それは私も思いましたが、どうやらマリア殿下は、アレを疑っているのではなく、外で遊べないで可哀そうだから、遊べるようになりますようにと祈っているらしいですよ」
「ふふふ、マリアはまだ五歳だからな。せっかく出来た初めての弟だ。遊びたいんだろう」
旧知の仲であるコンラート・エル=カーディア王と魔法騎士団の元騎士団長はそんな世間話をしていた。
◇アルブレヒト・ヴァレンティヌス・エル=カーディア:視点◇
次の王に一番近いとも噂されているアルブレヒトは兄弟姉妹の中で左から二番目に並んでいた。
そして隣に座っているジークフリート兄に思っていた事をズバリ聞いていた。
「ジーク兄、おかしいと思わないか?俺もずっと城にいたが、魔素が動いた形跡はなかったんだぞ」
「アル、そう慌てるなよ。魔素以外で発動する魔法もあるだろ。俺みたいに身体強化を常に動かしていれば、その魔素は派手に動かなくなるだろ。色んな例外ってもんがあるんだ。そこを考えろよ」
「……ああ、分かった。少し調べてみる」
結局、ジーク兄は魔法に関する事が分からないので、介入する気が無いんだ。
俺の右では、茶色の長い髪を指先でいじる弟の姿があった。
こいつにも聞いてみるか……
「なあオットー、お前はアレの事をどう思うんだ?」
俺は3つ下で正騎士団で指揮を任されるようになったと言う弟へ聞いてみた。
「俺の考えか、アル兄。悪き者は討伐し、それ相当の罰を受けるのが筋。それを決めるのは俺じゃなくて、司法部の判断だろ。この役割を乱さないのが貴族として、そして俺らのような王族としての役割だと思うぜ」
茶色の長い髪を指先でクルクルと弄び、母譲りの綺麗な顔で笑みを零す。
最近色気付きやがって、城内のメイドに手を出していると聞くが、自分の祖母の死をなんとも思っていないのか。
「そうか。それも一理あるな……」
俺は二人の答えが何の解決策も無かった事に失望し、そして俺が何かをしなければと言う使命を感じていた。
◇ハインリヒ・テオドール・エル=カーディア:視点◇
17歳の第四皇子であるハインリヒは左に座っている第一王女であるエリーザベト・クラリス・エル=カーディアへ話しかけていた。
「ねえエリー姉、今回の件ってアレが原因だと思う?」
「ハインツは何か疑っているの?」
20歳になるエリザベートは母譲りの美貌と適齢期となるメリハリのある身体を俺に向け、表情も変えずに言ってきた。
「疑っていると言うか、生まれたばかりの赤ちゃんが、そんな力を操れるものかと言う疑念だね」
「でも通常の魔法ではないのよ。ブレイカーと言うよりも呪いに近いと聞くわ。自然に漏れだす物と考えてもおかしくなくて?」
「それも一理あるね」
「いや、今は動く時ではないと思うな」
俺らの話を遮ったのは、弟の第五皇子であるヴィルヘルム・ルートヴィヒ・エル=カーディアだった。
「動く時ではない?なぜそう言い切れるんだヴィル」
「だって原因がアレだろ?ここは慎重に動きべきだと思うよ。下手すると国が亡ぶ」
「やだ、怖いわ」
「そうか。慎重にしたからこれが正解なのか」
隔離ともいえる離宮への軟禁。
これが最適案だと。
だが、それだけでは死人が出た事の理由が分からない。
被害が拡大しないようにとは言うが、原因を究明しなければ、これから未来に再び現れた時、また混乱を招く恐れがあると言う事を分かっているのか?
「怖い物には蓋をするのよ。弟には悪いけど、しばらく母にはお世話をしていただいて、後で救出すればいいわ。コレが最適案よ」
「完全同意はしないけど、被害拡大を防ぐためには仕方がない事だね」
二人は慎重論を俺に向けてきた。
その右端を見ると、第二王女のセラフィーナと、第三王女のマリアは揃って手を組んで祈っていた。
さあ、そろそろ司教の祈りが終わる。
次は表に棺を移動させて墓地まで揃って移動だ。
頭を切り替えてこの難問を紐解いてゆこう。
ハインリヒは頭上を仰ぎ見た。そこは太陽の光を七色翼を出した神様がステンドグラスで表現されてあり、その先にある羽の形を形どったモチーフに飛んでいくような姿が写っていた。
出入口の天井を見ると、そこには天翔ける橋が両壁から中央で繋がっており、その端にも大小の彫刻が刻まれており、白翼の尖塔と呼ばれる塔の象徴を眺め、ぼんやりとしたのち、運び出される棺へと意識を集中するのであった。
◇エーリヒ・ノイエンシュタイン宰相見習い:視点◇
エミリア様の棺を正騎士団が抱えて移動しだした。
昔の記録を色々あさって読んでみたが、どうも変な魔法だった。今はその情報を纏めてみよう。
魔眼として書かれていたのは1000年にも満たない過去。それまでは呪われた赤い目と言う記述であった。
その呪われた魔眼と言うのは生まれに関係なくと言うよりも、貧しい貧困層に生まれるのが殆どであった。
ここで言う魔眼は皆、生まれた時から目が赤い。後天的に発現する様な物では無いと言う事だ。
そして生まれてから、身の周りに不幸が訪れる。だが、ここで確かなのは睨まれたからと言って対象本人が赤ちゃん、または幼少の時に死んだ者は殆どいないと言う事だ。
ここでレオナルト殿下の事も入るのだが、母親本人が対象と見つめ合って死んだと言う記述はない。対象は相手を選べると言うことか?
ここで殿下の事をおさらいしてみよう。
初めは医師団の中の産婆の一人であった。赤い目を見て魔眼だと言いながら卒倒した。後ろ向きに倒れたと言う証言もあったが、死因は心臓麻痺、もしくは頭を強く打った事による死亡だった。
二人目の犠牲者は先代王妃のエミリア様だった。
王妃に食事を持って行く時にお聞きしたが、やはり死ぬ直前は、殿下を見て「魔眼!」と驚いて後ろに卒倒したと言っていた。死因も心臓麻痺か頭を強く打った事による死亡。
魔眼は心臓麻痺で殺すのならわざわざ姿を見せて、魔眼だと認識させなくてもいいだろう。転ばせて頭を打って殺したとなれば二度手間だ。脳ミソを打つだけで人間は死ぬのだ。
だとすれば、この二人は魔眼と無関係?
驚いて心臓麻痺を起こしただけだとも言える。
エーリヒは生まれながらの頭のキレで難解な問題を解きだす。
だが、次の瞬間、パラパラと砂粒の様な物が上から降って来た。
そして大勢の『キャー!』という声!
上を見ると巨大なガーゴイルの彫刻が降ってくるところであった!
ドガッ!ズン!ゴロゴロゴロ……
砂煙と重たい物が落ちる音。そして葬儀に参列している女性の悲鳴が鳴りやまない中、砂塵がゆっくりと晴れて行った。
その時俺が見た景色は、崩れたガーゴイルの下敷きになった誰かの足だった。
まるで生きたガーゴイルがその鷹のような足で獲物を握っているかのように……
「アルうううううう!アルブレヒト!何でお前が死ななきゃしけねえんだよ――!」
突然物語が回転しだしたかのように、第一王子の悲痛な叫びが教会内にいつまでも響いていた…………
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