第2話 二人目の犠牲者
◆◆◆第2話 二人目の犠牲者◆◆◆
「どうするのです、陛下」
「うぅむ……」
とりあえず未だこの先の事を決め切れない陛下は、医師団に王名として緘口令を強いた。
だが、露見するのも時間の問題かと思われていた。
「すでに一人が亡くなっているのですぞ」
宰相であるフリードリヒも焦っていた。
王が分娩室に入った後でドアの所で立ち止まって見た光景だった。
一人はすでに倒れ、医師を含めた五名は少し距離を開け、恐れるように遠巻きに見ている光景を。
動揺はしつつも最後まで立派だったのか王妃であるマクダレーナ様であった。
『この子は私が産んだ我が子でございます。この我が子を殺すと言うのなら私も一緒に殺してください』
少しは動揺していたと思われる王妃も、次第に落ち着きを取り戻し、慈愛に満ちた顔で周りを囲む人々に言ったのだった。
フリードリヒも急いで国の歴史を調べ直していた。
今までの魔眼の持ち主がどうなったのかを。
だが、その者の人生は壮絶だった。
生まれて直ぐに殺されるのはまだいい方だった。
火あぶり、毒殺、四肢を縛られ魔物に供物として魔の森へと捨てられる。王子へと婚約まで漕ぎつけた者もいたが、側近に背後から槍で刺され、最後は打ち首になっていた。
そして生まれた後には必ずと言っていい程、国の内外に動乱、魔物の集団暴走、そして戦争があった。
それは魔眼の持ち主を即座に処置をしても必ず起こるのだった。
もはや、生まれながらに呪われているとしか思えない記述であった。
だが、さっき生まれたのは紛れもない王の子。次期王にもなりえる王子なのだ。
誰が簡単に殺せようか。
それは人の心を持った王でさえ簡単には命令を出す事が出来なかった。
そして聖母との異名を得ていたマクダレーナの言った言葉で全てが凍ったのだった。
だが、王の決断は意外に早かった。
「決めた……我が子は生かす。そしてこの事は領民には生まれながらの病気と言う事でお披露目無し。しないと流布せよ」
慣例では王子・王女が誕生すれば、小さいながらも王都ではお披露目とお祭りが開催されるのだが、それを中止せよと言うのだ。
ご懐妊していると言う事が知れ渡っているため、今さら何も無かった事には出来ないのだ。
「陛下、それは良いですが、生かすと言う事は何があるかも分かりませぬぞ」
「分かっておる。もし何かが起こればいつも通り儂が先陣を切る。命を落とせば次の王は残った子供らで決めよと一筆書く。幸いな事に子供らはみんな仲がいい。殺し合いなどは起こらぬだろう」
「ですが、王宮内には住めれませぬぞ。いつか、王宮で働く人から噂が漏れます」
「うむむ……では城の北に先々代が使っていた離宮があるだろう。馬の飼葉の保存庫になっている所だ」
「ああ、あの尖塔ですな。少し綺麗にすれば使えるでしょう。今すぐ手配を」
それだけ言うとフリードリヒは王の執務室から慌てて出て行った。
王は、この決まった事を妻へと伝え、安心させようかと未だ待機している分娩室横の待機所へ足を進めた。
そこは城の中央ではあるが、誰も来ない孤島のような場所になっていた。
無理も無い。民間レベルで魔眼の伝承は人々に伝えられているのだ。
分娩に関わった医療班は、この事を知っており、この場に近づく事を拒否している。それは王宮の医療を担っている医師であっても同じであった。
それにノイエンシュタイン第一宰相より、何人たりともこの場に近づく事なかれと言うお触れが出された事により、噂が尾ひれを伝い、死者も出ているとの事から、噂が噂を呼び、誰も近づかなくなっていた。
正直、王も怖いとは思っていた。
目に見える魔物であれば、若かりし頃より何十、何百、何千と討伐してきた実績もあり、どんな魔物であっても退く事は無いと誓えるが、実体の無いものは対処のしようがなかった。
だが、今から往くのは自分の妻の所だ。いつまでも怖がっている訳にはいかない。
締め付けられるような思いを胸に秘めて基本的に男の侵入が出来ない箇所へと侵入していった。
その時だった。突然金切り声のような甲高い声が廊下へと響く!
「誰か!誰かいないの!誰か来て!!」
その声は明らかに妻であるマクダレーナの声だった!
夫であるコンラートは走った!
全力で走る事など最近無かったが、それでも何が起こったのかとコンラートは走った!
角を曲がり、更に中心部へと突き進み、唖然としているメイドを通り抜け、ドアから中へと入った!
「どうした!?マクダレーナ!!」
妻は目を見開いて王を見ていた。
妻は無事。
だが、その妻が指差す前を見ると、大き目な赤いスカーフを巻いた一人の女性が上を向いて倒れていた。
その顔は見覚えのある顔、忘れもしない顔だった。
「お、お母様がっ!」
妻であるマクダレーナが呼ぶお母様とは……私の王であるコンラートの母であった。
そっと近寄り、首に手を当ててみると、まだ肌は温かいものの、血管が拍動していなかった。
「お前と赤子は大丈夫なのか?」
「はい……でもお母様が……」
生まれて数時間の我が子を見ると、生まれてすぐだというのに、その目を開け閉めして周りの動く者を見ていた。
普通ならばまだ目は閉じたままだと言うのに、これが魔眼のせいかのかと身震いした。
「あなた……」
マクダレーナの呼ぶ声で我に返る。
「うむ、誰か医師を呼べ!それと近くに別の部屋を用意するんだ。毛布も持ってこい!」
廊下へと向かって怒声を浴びせると、近くまで寄ってきていたメイドが慌てて走り去る足音が聞こえた。
「大丈夫だ、マクダレーナ。皇太后は70を過ぎてご高齢だった。滑って頭を打って亡くなったんだ。この子が悪い訳では無い。だがな……このままと言う訳にもいかん。出来るだけ人の集まらない所で静養させるんだ。今、その準備を始めている…………いいなマクダレーナ」
「あなた……ありがとうございます。私もこの子とその場で生活をさせていただきますので」
「そうか……そうだな。乳母が来るとも思えん。どうなっても我が子が、物心がつくまでだとは思うが、頼んだぞマクダレーナ」
「はい!この男の子は私めが立派に育ててみせます」
妻も生まれは貴族。
普通であればこの国に、この王城に害をなすであろう魔眼持ちの我が子は、殺される運命にある事ぐらいは理解しているだろう。
医療班の一人は死に、ここに孫を見に来たであろう母も亡くなった。
次々の犠牲者……いや、魔眼によると思われる犠牲者をこれ以上出さないためにも、隔離、いやほぼ軟禁された状態で過ごしてもらう他ない。
「そうか、聞くのを忘れていたが男だったのか。でかしたぞマクダレーナ。では、この子の名前は前もって決めていた通り、レオナルト……“レオナルト・アウレウス・エル=カーディア”とする。マクダレーナ、レオナルトを頼んだ」
そして王は生まれた男子を迎えるかのように、無意識にレオナルトの頭を撫でた。
それは本当に無意識だったのだろう。触った瞬間、ビクンッと一瞬手を止めたものの、再びゆっくりと頭を撫でていった。
その感触が良かったのか、レオナルトは笑った顔で王を赤と青い目で見上げるのだった。
「私はこの赤い目で見られると死ぬなんて迷信なんじゃないかと思うのです。でなければ私なんかはもう何度も死んでいますから……」
「うむ……そうだな」
そうは言うが、王は少し恐怖……いや、畏怖とでも言うのか、心の奥底を覗かれたような気がしていた。
直ぐに別の部屋が用意され、マクダレーナとレオナルトは綺麗にされた部屋で養生する事になった。
しかし次の日には、第一宰相と決めた王城の北にある、祖先が何かの理由で作り、その後、見張り台や倉庫、そして現在は馬などの飼葉などを一時的に保管している離宮を綺麗にし、そこへと誰にも知られる事なくひっそりと移動する事になった。
それは夜逃げでもするかのように暗闇に紛れての移動であった。
そして国には病気を持って生まれた第六皇子のレオナルトの誕生と、孫の誕生をもって病気で亡くなった先代王妃であるエミリア・エル=カーディアの国葬を執り行うと言う事が、王都以外の主要な都市へお触れを出したのだった。
次は18時に投稿です。




