第16話 それぞれの闘い
◆◆◆第16話 それぞれの闘い◆◆◆
俺は覚悟を決めて初めて日が当たる時間に城壁へと出ていた。
初めて見る明るい王都、王城は所々で煙が上がっていた。
火の手が上がり、爆発音が住民を騒がせ、警笛代わりか鐘の音がずっと鳴り響いていた。
そして王城から出てくる赤い火の玉。その燃え盛る弾が人に当たると、一気に爆発炎上し、火だるまになる様子が見え、あちこちで剣戟が聞こえだす。
覚悟は決まっていた。その覚悟を、改めて身に染み込ませる。
人を殺す覚悟だ。
今までは魔物を殺していただけなのだが、人を殺すのは初めてだった。
「始まったんだ……やれるさ……やってやろうじゃねえか」
俺はまだ無人の離宮へと降り立ち、城へと向かって歩き出した。
◇城内の一画で◇
「一体どうなってやがるんだ!味方はどこだ!」
正騎士団の男は城内で孤軍奮闘していた。
非番で城の側にある官舎の自室で筋トレをしていたのだが、木が燃える匂いを感じて外を見てみると、町の至る所が燃えていた。これは大変だと廊下へ出てみると、すでに誰もいない。
装備を固め、官舎の外へと出てみると、そこは戦場だった。
いきなり仲間だと思っていた騎士から剣を向けられた。咄嗟に避けて突き刺したが、何がなんだかわからねえ!
「おお!無事だったか」
同じフルプレートを着込んだ騎士が声を掛けて来た。
「おう、これは反乱か?!一体どうなってやがるん……んんッ!」
血が視界を埋めていた。
視界を確保する為にヘルムを後ろに倒していたのだが、それが仇となったのか、小さいナイフのような物で首を切られたか……無念……だ。
男は首から血を噴き出しながら崩れ落ちた。
そして立っている男は赤く血走り、ネコのように縦目に変わった眼でこう言った。
「侵略だよ。これからは俺らの国になるんだ」
◇レオナルト視点◇
城の横から入れるドアがあり、そこから入って見た。
そこには小さい血にまみれたナイフを持って、倒れた騎士の前に立つ男がいた。
「おい、大丈夫か?安全なところに避難するんだ!こっちにこい」
「岩弾」
ドンッ
「え?」
Lv3の土魔法を発動させた。
土を硬質化させた弾を射出できる。魔力の大きさによって弾の大きさや射程距離はどうにでもなる。
胸に大穴を開けたフルプレートの騎士が信じられないような顔で俺を見た。
だが、開けられた風穴の内部が、肉が盛り上がってくる。
「しつこい!」
ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン
土弾を連射しながら肉片を飛ばしていく。
10数発撃ったところで、再生はしなくなっていた。
「簡単じゃねえな」
それから次々に敵が出て来た。
普通の人間だったのか、風牙で一撃で倒れる者、火の魔法を撃って来るので、土壁を作り土弾で応戦する。
魔素の残量は気にしなくてもいいぐらいに溜められている。そして回復量もなぜか早い。
一度だけ使い過ぎて失神するような事があったが、あの時と同じにはならない。
しかし、思っていたよりも殲滅に時間がかかっていた。
1時間経っても2時間経っても出てくる敵に後れを取る事はないが、終わりの無いシューティングゲームを強制的にやらされ続けている気分だった。
そして遂に悪魔らしき者が出て来た。
「どう?仲間にならない?今ならまだ間に合うわよ」
そいつは裸の女だった。
リリーと言ったか、あれが人間の限界の綺麗さ妖艶さだとしたら、こいつは別世界のランクが違う美女だった。
「断る!」
「あら、そうなのね。信じられないような気持ち良さを味合わせてあげるのに」
そう言いながら、女の眼は吊り上がり、口は大きく広がり、爪は鋭く伸びてゆく。
瞬時に風牙を出して切り刻む!
だが、相手は黒い羽を出して羽で扇ぐと、一陣の風が吹き、風牙を対消滅させる。
「土弾っ」
初めから連射をするが、それほど広くない通路を飛び回り、土の弾を避けまくる女。
「風縛!」
俺はレベル6の風魔法を放った。
現在使える最高の風魔法レベルは、敵周囲の風を操作できる。通路を飛んでいるサキュバスにはこれが効いたのか、一瞬空気を遮断した空間で飛ぶことが出来ずに床へと落ちてしまう。
そこへ土弾を叩きこむと、細切れの肉片になり、どす黒い腐った肉へと変わっていった。
しぶとい……
思っていたよりも魔法が効きにくい。
悪魔が乗っ取った騎士に関しては一発で仕留めらるものの、今のような下級悪魔や、訳の分からない魔物はしぶとい。
それでもジワジワと押していく。そして二階へと登った時だった。
ドゴオオオオオオオオン!
凄まじい爆風と衝撃が城を襲う。
窓から外を見ると、城の一階部分の一部が派手に壊されていた。
そして……
ビユウッ
冷たい冷機が風に乗ってくると、反対側の一階部分から氷の太い槍状のモノが突き出ていた。
「まだ元気な味方もいるじゃねえか。俺も負けていられないぜ」
◇ジークフリート:視点◇
「おあおらおらあ!」
大人しく地下牢へと入っていたジークフリートは、頃合いだと感じ取り、一気に身体強化を爆破させて牢屋の鉄棒を枠ごと破壊して脱出していた。
そこで集まって来たて敵兵、いや、寝返った騎士の武器を奪い次々に殲滅を始める。
「さあ、兄弟はどの牢かな!」
幾つもある地下牢を考え、行く道に出て来た兵士を一気に近づき、腕をもぎ取り首をへし折る。もはや肉体がジークフリートの武器と化していた。
「お前も同じ血が流れているのなら、ここが勝負所だと感じるよな、レオ」
内心心残りだった末弟の心配をしながら長兄は孤軍奮闘するのであった。
◇ヴィルヘルム・ルートヴィヒ・エル=カーディア:視点◇
第五王子のヴィルヘルムは今だ地下牢へと閉じ込められていた。
「何だこの振動は!だから俺が言ってたんだ。あいつが!レオナルトがいるとこの国に禍に巻き込まれると!」
身体能力や魔法が使えない今、何もする事などできないのだが、少しでも王族として何か出来ないかと考えたが、すでに何も出来る術はなかった。
「いや……逆にレオナルトを全面に出せば良かったのか?そして禍に対抗する?レオナルトはその為に魔眼を受けて生まれたのか?……ええい!今頃それが分かっても遅いんだよ!誰かここを開けろ!」
鉄格子をガシャガシャと動かすがビクともしない鉄の棒に諦める事なく動かし続けていた。
だが、その上空にあるコンクリートの天井が一気に壊れ、崩落していく。
「ぐッ、この事に早く気が付いて……いれば……」
意識の薄れる中、ヴィルヘルムは素直にエーリヒとハインリヒの言う事を聞いておけばよかったと思っていた。
◇ハインリヒ:視点◇
第四皇子のハインリヒは、魔力の動きを読みながら動き出していた。
「さあ、マリアが離宮から離れていくか。そして二階に登るのは期待の弟レオだね。やっぱり動くよな。引きこもりで深夜しか動いていなかったが、素晴らしい成長だよ。コレが終わったらいっぱい飲みたいね」
ハインリヒは眼前に巨大な氷の槍を出してまとめて反逆者たちを殺していた。
「さあさあ集まって来いよ。まとめてやってやるぜ!水槍」
先ほどと同じように巨大な氷の槍を出現させ、迫って来た3人の騎士を始末していく。
「うん、新たな水魔法の使いみちもバッチリだね。さあもっと来いよ。マリアが逃げる時間をかせがないとな!Lv7竜巻!」
壁に空いた穴から竜巻を発生させ、辺りの敵を纏めて吹き飛ばしていく!
「さあ、闘いはこれからだぜ。レオ……死ぬなよ…………むッ」
ハインリヒは何かを感じたのか、先を求めて一心不乱に一階を走り出した……
◇セラフィーナ・ルクレツィア・エル=カーディア:視点◇
第二王女のセラフィーナはいまだ牢屋の中にいた。
「イヒヒヒ、もう駄目だわ!もう終わりよ」
24歳になっていたセラフィーナはすでに精神を病んでいた。
出戻り、悪い魔眼の噂、嫁ぎ先での思い違い。全て悪い方へと進んでしまった。
王家の中でも特に信心深く、慈善活動に力を注いでいた王女であり、その美貌も相まってマーディア王国の小さな宝石と呼ばれるまでになっていたが、それも今や昔。
やつれて痩せたセラフィーナは40歳過ぎの中年にしか見えなかった。
「神なんか信じなければよかった!結局こんな風になるんじゃないのよ!私の人生を返せ!死ね!死ね!みんな死んじまえ!!」
信仰を忘れ、全てを周りのせいにする。それがトリガーになったのか、元々暗かった地下牢が更に暗くなった。いや、空間ごと闇に堕ちた。
「その願いかなえてあげましょうか?」
そこにいたのは牛の角を持つ引き締まった身体の青年だった。
「誰よ!」
「これは失礼」
青年は、右脚を軽く後ろへと引き、右手を胸に、左腕をやや開きながら下へと胸て深くお辞儀をするボウ・アンド・スクレープと言う礼をもって挨拶をした。
「私はアスモデウス。ここから遠くソロモンから来た王ですよ」
「王!王ならここから私を出しなさい!」
「ええ、出せますとも。出す代わりにあなたは私の仲間になりますか?」
「なるわ!なるに決まってるでしょ!どこへでも私を連れ出しなさい!出戻りで家に戻って来た私をもらってくれるのならどこへでも行きましょう」
「なるほど、それが地獄でもですか?」
「くどい!この身、其方にくれてやるわ。この際、妾でも何でもいいわ。その代わり、私の欲望は大きいわよ」
「良いだろう。では来たれ我が門へ」
アスモデウスは鉄格子に近づくと、その鉄棒を一気に腐食させた。
「えっ?ま、魔法?」
驚くセラフィーナは、相手がソロモンが従えた72柱の悪魔、ソロモン72柱の1柱。地の
四界王【アマイモン】配下の悪魔の首座で、72の軍団を率いる大いなる王だとは思わず、心の中の欲望を叶えるために悪魔と契約をしてしまったのだった。
イケメンだった顔がセラフィーナに近づき、優しくキスをする。
そのイケメンだった顔の後ろには牛面と羊面が浮かび上がり、スマートだった足は醜いガチョウの足に、そしてお尻辺りからは、毒蛇の尻尾が生えて来た。
その代わりにセラフィーナは肉が全身に付き出し、肉体が、顔が元通りの顔、いや、逆に肉感的で妖艶な雰囲気に変わっていく。
「あはははっ!いい気分だわ!ああ最高!こんな目に合わせてくれた一番下の弟め!今までの苦しみをお前に味合わせてあげるわ!」
「さあ、セラフィーナ!行くのだ。奴を、レオナルトを殺せ!」
「あははははっ、言われなくとも。待ってなさいレオナルト。お姉さんが世間の厳しさを教えてあげるから」
その顔にはマーディア王国の小さな宝石と呼ばれていた雰囲気は一切感じられなかった。




