第14話 異変
◆◆◆第14話 異変◆◆◆
その日の王都は長い冬が終わりを告げ、少しずつ春の芽吹きが見えだしていた。
あたたかな風が流れ、草花は春の芽吹きを始める。
毎年訪れる春の季節で、冒険者のミハエルはこの季節が好きだった。
冒険者ギルドを訪れたミハエルは、友達で親友のシュバルツと朝の混雑した依頼コーナーを覗いた。
「なあシュバルツ、ここ数日依頼が減ったよな」
「ああ、ここ王都だろ。騎士団が頑張ってるんじゃね?」
「いや、騎士団が出張ってくるのは大物か、デカい集落があった時だって聞いたぜ」
「そうだっけ?ま、適当に間引いてくればいいんじゃね?行けば何かしら魔物がいるだろ」
「まあそうだけど……最近魔物も少なくなったんだがな……」
「冬だから魔物も出たがらないんだよ。さあ、乗り合い馬車に行くぞ」
楽観的に考えるシュバルツと違い、ミハエルは昔から慎重な性格だった。
それでも魔物を狩りに行かねば食べる物も食べられず、宿代などの生活するのも苦しくなるのは目に見えて明らかだった。
ギルドから魔の森に向かう北門までは次々に出発する格安の乗合馬車に乗って向かう。
ミハエルはいつも乗りながら見ている王城を横目に馬車に揺られていた。
そういえば第六王子だっけ。
俺よりも3歳年下だったよな。まだ生きてるのかな。
噂では不吉の生まれにて死者が城内で数人出ているとの噂が広まり、数人の王族が亡くなったと聞いていた。そして王妃も亡くなり、その不吉な噂も聞こえなくなっていた。
呪い?
そんな物に掛かった冒険者なんて聞いた事ねえよな。
どうせ、誰かが出したデマだろ。
なぜか、会ったこともない第六殿下のことを思い出した。
だが、すぐに王城横の北門に近づき、乗合馬車に乗っている冒険者もそれぞれが降りる準備をし始め、ミハエルも殿下の事を忘れて降りる準備を始めた。
デカい城壁を見上げる。
魔の森に一番近い城門は、分厚い城壁や、聳え立つ高さの壁、そして分厚い鉄製の扉と格子状の柵で守られていた。
もちろん城壁の上にはバリスタと言うデカい弓があるらしいが、下から見えるのは、緑地に青いドラゴンの絵が描かれたエル=カーディア国の国旗が棚引く様子だけで、肝心の武器は見えなかった。
「さあいくぞ!」
「はいよ!」
ミハエルは他の冒険者と共に北門を出て森へと進んでいった。
「なあ、今日何か行事か祭りでもあるのか?」
少し疑問に思った事をシュバルツに聞いてみた。
「どうして?何かへんだったのか?」
「ああ、城門を守る兵がいつもと違う顔ぶれだった。それに守備兵が軽装備じゃなくてフルプレートになってたんだ」
「お前、よく気が付くな。午後から森に討伐にでも出るんじゃないのか?」
「そうだな……そうかもな」
森の中は静かだった。
いや、静か過ぎた。
通常10数分で出会うゴブリンでさえ見つからない。角ウサギや、走り鳥、ボアなどの大物すら見られなかったのだ。
「おいおい、今日は魔物も休みか?」
「……何かが変だよな。でも、魔物だけじゃねえ、シュバルツ気が付いているか?」
「何だ?」
「森に入ってから気が付いたが、鳥の囀りさえ聞こえない」
シュバルツが顔を向けてマジかと驚いた表情をする。
俺は、その様子に向けて指を唇に当てて静かにとジェスチャーする。
無音。ここまで無音な森があっただろうか。
「おい、風も止まってるぜ。これは……ヤバイ前触れじゃないのか?」
「ああ、何かありそうだな。今日は帰って様子を見ようか」
森へ入って1時間半程度であったが、もちろん成果は0。
神経だけすり減らす結果となったが、何か重大な事が起こってからでは遅い。
俺らは今来た道を逆に戻り始めていた。
「なんでだよ!」
それは同業者の冒険者の怒鳴り声だった。
森を抜けてみれば、俺らと同じように異変を察知し、王都内へ戻ろうとしたパーティーが北門の外で喚いていた。
「どうしたんですか?」
「どうしたも、こうしたもねえ、この門は修理中だから、ここで夕方まで待つか、他の門を当たれって事らしい」
ギルドではベテランになるパーティーに聞くと、そう言う事らしい。
「他を当たってもいいが、他所がどうなってるかが分からん。何か空がざわついているきがするしな。俺らはここで待つ、お前らは他の門から入れれば入って、中から城を出来るだけ調べてもらえるか?」
ベテランが喋り出すと周りのパーティーが一斉に聞きだした。
「俺は東へいくぜ」「じゃあ俺らも」「俺らは西に行こうぜ」
周りのパーティーは一斉に移動を開始しだした。
「後から来たパーティーにも伝えといてやる。お前らも頼むぜ、何かが起こってるはずなんだ」
上空を見ると、城壁の上からフルプレートの騎士が脅しを掛けるかのようにハルバートを見せびらかす。
「なあミハエル、俺らもどこかに行こうぜ……どこにする?」
「最悪の事を少し考えよう……東に行けば山脈と城壁しかない。西に行けば森は続くが、果てしない大地も続いてるんだ。西に向かいながら様子を見よう」
「おまっ、それって他のまち――」
「シー!黙っていくぞ。騎士と言い、魔物と言い、今日は何かがおかしいんだ」
ミハエルとシュバルツは、黙って城壁沿いに西へ向けて歩き出した……
◇冒険者ギルド:エル=カーディア国、王都店◇
「一体どうなってるんだ!商売あがったりじゃねえか!」
一人の冒険者が大声で怒鳴っていた。
カウンターで対応する受付も、すぐに調べます、としか言いようがなく、調べを出したばかりの為に何も答えようがなかった。
「どうした。何の騒ぎだ」
冒険者の騒ぎを聞きつけたのか、階段から一人の大柄な男が降りて来た。
「ギルマス!大変です。東西南北の城門が閉じられているらしいです。騎士によると修理中だと言っているみたいですが、修理をしている様子はなく、王都の正騎士団に問い合わせ中です」
「外に出ている冒険者は?」
「いつもと変わりません。今訴えているのは寝坊した冒険者ですから」
「大勢いるな……よし!ギルド職員は非常事態体制を取れ!全員武器防具を取れ!ギルドは一時閉鎖!情報収集を行え!南と西の交易都市に伝令を飛ばせ!一刻を争うぞ!」
「はい!で、マスターは」
「王都騎士団へ行く……今の騎士団長は王子のジークフリート殿下が務めている。何が起こっているか直ぐに分かるだろう」
ギルマスのダニエルは、元騎士団のコネを使い情報を得ようとしていた。
何か胸騒ぎがする。
こんな事は見た事も聞いた事も無かった。通常門の修理を行うのなら、事前に情報が張り出されるはずだ。しかも何も聞かされず全ての門が閉鎖される、これは籠城、または閉鎖をしようと言うのか?
それだけの強大な敵が近づいていると?
そう思案しながらダニエルは、ギルドの外へと出た。
その時だった。一人の男が大声を出しながら走り抜けて来た。
「反乱だ!クーデターが起こったぞ!国旗が燃やされている!」
「何!!」
これは外敵ではない、王都の内部からだと思い留まった。
ダニエルの不安は最悪の結果になりそうだった……
◇その頃離宮では◇
レオナルトは不安を覚えていた。
昼飯がいつもと比べて遅れているからではない、マリア姉が朝から外出は禁止と言われて入り浸ってるからでもない、窓から見える森が異常なほど静かであり、空が不気味なほど澄み渡っているのだった。
毎日欠かさず行っている訓練を地上部分で行い、軽く汗を掻いてマリアの相手をしているところだった。
もうすぐ春を迎え、2ヵ月ほどで15歳になろうと言う時期だった。
だが、朝からのこの胸騒ぎはなんだと言うのだ。
まだもう少し早いだろ。まさか。
そう思っていた時だった。
「風が止んだ……魔素が……動いている」
「え?レオくん……騎士団にでも聞いてこようか?」
バン!
突然鉄製の扉が開く音がした。
そしてゴソゴソと誰かがモノを運ぶような音が聞こえる。
レオは急いで階段を降りる。
降りたところにはエーリヒが1階部分から薪を運び、内側へと閉じる扉の前に薪を並べていた。
「どうしたエーリヒ」
エーリヒは俺を振り返る事無く慌てた様子で薪を並べてドアを開かないようにしているようだった。
「ドアを!ドアを閉じます!誰も入ってこられないように!」
「おい、何が起こっているんだ」
エーリヒはハッキリと俺の顔を見てこういったのだった。
「殿下……王都が……落ちます」




