11話 新しいルーティン
◆◆◆第11話 新しいルーティン◆◆◆
尖塔にある窓の高さが約30m。
窓から城壁までが約5m。そして城壁の高さが約10m。
降りるのは簡単だが、逆に登るのはちと難しいか?
上がれなくて、尖塔の周りをウロウロしていたら、監視が厳しくなるんだろうな。
雨が降りしきる中、俺は窓からの脱出を試みようとしていた。
高まって来た身体能力はすでに前世での大人の身体能力を遥かに上回っていたのだ。出来ない事は無いと言う自負があった。
だが、20m以上ものジャンプができるのか?
そこが問題だった。
もう少し足腰を鍛えてからにしようか。
諦めにも似た気持ちに染まりそうになった時だった、城壁の外を何者かが動いていた。
ゴブリンだ!
魔眼を持つからか、夜目が効くようだ。
緑の皮膚を持ち、ほぼ裸の状態。腰に巻いたボロ布だけしか身に付けていない。
それよりも印象的なのは、大きく開かれる大きな口。遠目に見ても分かるほどのギザギザの歯が並んでいた。
「魔の森には魔物が沢山いる。あそこは危険が沢山だけど得られる物も多いのよ……か」
母が言っていた言葉を思い出す。
降りられないのならここから倒すだけだ。
「全力風刃!」
一気に高めた魔力を手の平に込め、腕を真っすぐ上から下へと振り下ろす。
ブンッ
と言う風を切る音と共に降りしきる雨を切り裂くように不可思議な刃が真っすぐ獲物へ向かって飛んでいく。
圧縮された空気が鋭利な刃となり、何かを探していたゴブリンの前かがみになった胸から首へと切り裂いた!
ブシャ―と血潮が吹き飛び、ヨロヨロとよろめき倒れるゴブリン。
「直線距離でどれくらいか?短距離走の50mよりも少し遠い60mってところか。次は森の境界線にいるあのゴブリンだ……全力風刃!」
シュパッと飛んでいく空気の刃。
シャッと言う切り裂く音が聞こえた気がしたが、城壁より300mは離れていると思われる距離は流石に遠かったのか、薄皮一枚切ることもなく、衝撃だけを与え、驚いたゴブリンはすぐに森の中へと逃げて行った。
「さすがに遠かったか。今のところ友好距離は100m以内って感じだな。チマチマやるしかねえな」
この日から俺の夜の新しい日課が始まった。
母親に窓を閉められ、寝る事を勧められ、ランプを付けて本でも読むしかなかった夜の新しいルーティンが決まった瞬間だった。
3日後……
尖塔の根本から石やコンクリでの補強が終わった。
もっと早くガガガと終わるものだと考えていた。
重機も何も無い事を思い出した。全て人力か……
それから4日……
エーリヒが昼食を持って来た時、補強した部分が固まったようだと教えてくれた。
だが、内部が固まっていない可能性もあるので、力を抑えるようにと言われた。
誰か速乾性のコンクリを開発してくれ……
更に5日……
そろそろ良いかと尖塔内部をズダダダダと壁走りをしてみた。
補強にヒビが入った。
苛立ちをぶつけるように一晩中全力でゴブリンを狩りまくった。真夜中の惨劇に騒いでいたゴブリンどもを20匹は倒してやった。
魔力を使い過ぎたのか、気を失うように眠りについた。
更に二日後……
ついでだからと追加の補強工事が始まった。
予定図を見せてもらうと極太の灯台のようになっていた。
もうどうにでもしてくれ……
それから30日……
土魔法がLv2に上がった!
チマチマと土くれの塊を作り続けたおかげだ。今度は土壁が作れるようになった。
それよりも補強の壁をどうにかしてほしい……
次の日……
〇魔法がLv2に上がった!こいつは光と音が出るので、深夜しか使えないと思っていたが、尖塔の内部なら問題ない。通気口から内部に入って来たネズミに水の水流魔法で地面ごと濡らし、〇〇を使うと面白いように倒れた。そこを暖炉用の薪で撲殺する。
破壊神みたいな気分だった。
夏になった……
ようやく壁走りが大丈夫になった。
風だ、風魔法を使いLv3の風弾で急激な方向転換を狙ったが、全開風弾でも威力が弱い。
これはレベルアップしないとだめか。
真夏……
やはりこの辺りの魔物は夏に良く狩れる。
倒したゴブリンの死肉を狙いデカい狼もよく狩れるし、デカいゴブリン、ホブゴブリンも出てくるようになった。
この辺りだけ魔物の骨が散乱しているが、と騎士団に言われたエーリヒが聞きに来た。
さあ?魔物同士の喧嘩じゃないの?と答えておいた。
秋の訪れ……
梨のような果汁たっぷりの果物を齧りながらの狩りが日課になって来た。
遂に魔眼Lvが3になった。
秋の夜長に明け方まで狩りを続けていた成果が出たのだろう。
黒い霧の様なモノがネズミに飛ぶと、一瞬で死んでいく。
まだ小動物限定だが、これってラノベで言うところの即死魔法と言う事か?
晩秋……
読書が捗る。あらかた魔法の本を読んだので、古文書と言う物を取り寄せた。
読めないとは聞いていたが、フルそうな古書を震える手でめくると、それは見慣れた文字、そう日本語で書かれていた。
これはどういう事なんだ。
冬の訪れ……
寒くなってきたので、目立たない黒いローブをエーリヒに頼んだ。
暖炉で温かいはずですが?と怪しんでいる。
俺は寒いのが嫌いなんだよと答えたが、最近寒さを余り感じなくなってきた。
これは身体強化のおかげか?
真冬……
遂に自信が付いた俺は、窓から少し離れた城壁へと飛んだ!
城壁は見張り台も兼ねていて、幅は3m近くある。そこへ着地した。
そこから城壁の外へと更に飛び降りる。
大地に降り立つ!
巨大ロボットアニメの第一話のようだ。
さあ、これから俺の特訓の第二幕が始まる……




