第9話 幽閉か隔離か
◆◆◆第9話 幽閉か隔離か◆◆◆
この冬はネズミが多く、経験値ウハウハで壁走りの練習をしながらネズミを狩りまくったせいで、風魔法がここまでLv4まで進化、水はLv2のまま、魔眼もLv2で足踏み状態だった。
今年は蛇も居たので、ほんの僅かだが経験値が多かったとはいえ、やはりネズミと蛇、そしてコオロギのようなデカい虫、あとゴキブリの奴だけでは経験値は稼げないのだろう。
仕方がないとは思うが、敵を騙すには身内からと言う言葉があるように、俺のマミーにはまだ全てを見せてはいない。
主人公たるもの、誰も知らない必殺技がないとダメだからだ。
しかしこの必殺技は音が出る。光りが漏れるだけあって、なんとも主人公の必殺技に相応しいのだが、マミーの知らないところで鍛えるのは至難の業どころか無理なのであった。
だがしかし、神様はその内チャンスを与えてくれると信じている。常に俺の背後に黒い靄のような得体のしれないモノが漂っている気もするが、ここは知らないフリをして『いつの間に仕掛けやがった!』とビックリする方が主人公らしいと思うのだ。
それが神か悪魔だとしても。
「やられました!今度はエリーザベト殿下です!」
それは俺が2歳になったばかりで、久しぶりに午後の紅茶と一緒にクッキーを食べているところへ何でも屋の兄ちゃんが報告に来た。
「そうなのねエリーザベトが……」
「はい……原因不明の病で……」
原因不明ってか。何とも怪しいな。
「具体的にどんな感じだったんだ?」
「え?それは……ちょっと」
俺の発言に視線を外す何でも屋。
「ちょっとじゃねえ。何でも屋答えろ。それとも知らないのか?」
「なんでも……いいえ、知っていますけど。殿下には少し早いかと」
「早い遅いは俺が決める。良いから答えろ」
「はい、殿下は日に日に痩せていき、まるで生気を抜かれたかのように、南のサハル王国にあると言うミイラのように枯れていったそうです」
「か、枯れて…………はぁ」
隣で聞いていたマミーが力尽きたかのように倒れる!
寸前で身体強化を発動させた俺が、お姫様抱っこのように受け止めた。
「ふう」
ちと実の母からすればキチいな。
俺はその場にゆっくりと横たえて何でも屋に答える。
「お前、それはサキュバスの仕業だろうが。いや、姉相手に出てくるのはインキュバスか。最近機嫌が良くなかったか?恋人がどうのこうの、良い人が出来たなんて話がなかったか調べろ」
「調べは付いています。少し前から良い人がいるかのような言動があったらしいですが……そのインキュバスとは?」
「げっ、お前悪魔も知らないのか?神様がおれば悪魔もいるだろうが」
「はい、悪魔の存在は知っていますが、固有名詞があるのは知らなかったです」
「あるんだよ。上級から下級の悪魔にも。インキュバスは下級悪魔だな。うん。教会で清めてもらった聖水をグラスの中に入れて枕元に置くんだ。それと確か奴は火に弱いはずだ。火の魔石を部屋に置いとけ。死にたくなかったらな」
「はっ、ハイ!殿下……あのーその情報は何処からでしょうか?」
「本だな。どの本かは忘れた」
「……そんなぁ。思い出してくださいよ」
「毎日何冊の本を読んでると思っているんだ。一々覚えているかよ」
嘘だ。調子がいいと3冊は読むようになっていたが、転生前と違ってこの身体は、記憶力が断トツに良いのだ。ほぼ全てどの本に何が書かれていたかは覚えている。そして悪魔の本なんて物はその中には無いのだ。自分で持って来た本くらいは覚えておけ。
後ろを見ると、姉のマリアがマミーに毛布を掛けてあげるところだった。
とぼとぼと帰るエーリヒを見てマリアが俺の手を握る。
「さあ、レオくんはお昼寝の時間ですよ。はい、ねんねしましょうね」
「はーい、ねえたん」
マリア姉にベッドへ寝かされると、マリアも一緒に横になった。
むちゅう と吸い付かれるようにキスをされると、ヨダレを拭きながらむふふかわいいんだからとポツリと漏らす。
ベッドに腰掛けた状態になると胸を軽くトントンしながら鼻歌を歌いだした。
自分もまだ子供のくせに、俺をあやしているらしい。
俺が寝たフリをすると、鼻歌を歌いながらベッドを離れ、そのまま小さな食卓テーブルへと向かった。
鼻歌は子守唄から明るい曲に変わり、何やらクッキーをボリボリと食べる音が。
「レディーだからお菓子は別腹なのよね~」
頼むから太らないでくれよと願う俺だった。
◇エーリヒ視点◇
「何?!それは真か!」
先ほど聞いたレオナルト殿下の話を直ぐ陛下へと伝えた。
それを聞いた陛下は大変驚いた様子であった。
「はい、エリーザベト殿下の死んだ様子を聞くと、『悪魔の、インキュバスの仕業だろうが』と分かっている様子でした」
「して、その知識をいったいどこで覚えたのだ」
「本を読んでと言われていましたが、そのような本を渡した覚えはありません。自分が選んで持って行った本です。忘れようがありません。それに王城の書庫には悪魔の本などないのですから。アレは神様からの加護ではないかと思えるのです。2歳の子供がどうして卒倒した王妃様を抱きとめる事が出来ましょうか。物心がつく前から暑い日は風の魔法を使える赤ちゃんがいてもいいのでしょうか?最近は週一のお風呂の水を溜める水の魔石をいらないと言われています。これは何故でしょうか?これは身体強化、風、水、これは魔導士として進化し続けている証拠だと思うのです!」
「ううむ……あの我が子が魔導士だとはな。ハインツは風と土の魔導士であったが、今度は風と水……そして魔眼か」
「保護すべきでは?」
王は考えているように見えた。魔眼の持ち主とはいえ、貴重な魔導士を離宮に隔離し続けて良いのかと。
エーリヒはその様子を見てこれは将来貴重な戦力になると思っていた。
何しろ今後15~20年の期間で何か大きな厄災がこの国に降り注ぐのだ。それは十数例もの過去の例から見当は付いていた。
ひょっとして魔眼と言うのは神が遣わした使徒なのではとも思っていた。
それが命を簡単に奪う事が出来ると言う事で、周りが騒ぎ出し、それが迫害に変わっていったと、エーリヒは少し考えるようになっていた。
じゃないと、あの2歳になったばかりの子供が、こんな的確に指示が出来るであろうか。
知る由も無い悪魔の名前から退治方法までなぜ知っているのかと言う疑問が覆らないのである。
しかし、王の判断は違った。
「いや、幽閉はこのまま続行だ」
「どうして!」
「たとえ、魔導士の素質があろうとも、レオナルトはまだ子供だ。一つの大きな存在になろうとも、大勢の民衆を相手には出来ない。本当に力を付けるまではあの場所で守ってあげた方がいいのだ。それは悪魔からも、忌まわしき悪の手からも守る事に繋がるのだ。マクダレーナには悪いが、もう少し成長するまでは近くで見守って欲しいのだ……」
両手の指を組んだまま、王は苦悩の表情で答えていた。
エーリッヒもその答えを聞いて、それもそうかと納得した。
「分かりました。では、引き続き私は役目を務めます」
「頼むぞ」
それからと言うもの、悪意のある者から陛下を、兄弟を、仲間を守る為、子供とは思わない事にしたレオナルト殿下に指示を求め、何事も無く年月が過ぎて行った。
ひょっとして悪魔も、魔眼も大人しくなったのかと思い始めていた3年が過ぎ去ろうとしていた時、マクダレーナ様が倒れたと言う事をレオから聞いたのだった……
明日からは1日1話の投稿です。
ストックが無くなるまでは、毎日7時に投稿致しますのでよろしくお願いします。




