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(9)別れの瞬間に行き着くとき(その日)-5

 体が、そうするべきだと、そうすればいいと教えてくれた。初めてその『必殺技』を使ったときからそうだった。たぶん実際には、体と言うよりも僕に与えられた力、下腹部で光を放つという形で目に見えているその力、その力が作った僕が身にまとう装束が、教えていた。そうすれば、とてつもない力を、信じられないような力を発揮できるのだと。そのために、この言葉もまた必要だったらしい――理由は理解できないにしても。


 ――カリュブ、ディシーラ……


 僕は目を開けた。こちらに前のめりに突っ込んでくる怪物の姿が見えた。僕は手の間に現れた光球を投げつける余裕などないと分かっていたから、怪物に向かって、光球をそのままたたきつけた。最後の叫び声と一緒に。


 ――ストォーム!


 光球は、大きく口を開け、僕にまさに噛みつこうとしていた怪物の顔面にぶち当たった。


 光が轟音とともにはじけ、怪物は大きくのけぞった。そのままもんどりを打って仰向けに倒れると、下敷きになった木がへし折れ、葉の積もった斜面をゆっくりと滑り落ちていった。


 一方では僕の方も光のはじけた衝撃によってぶっ飛ばされ、宙を舞った。そのまま空気を蹴って体勢を整えると、眼下に鱗に覆われた腹を見せて横たわる怪物の姿が、夕日の色を帯び始めた日の光に照らされて、見えた。


 都合良く、そこは山と山が面した谷間になっていて、間に、細くてほとんど車なんて通らない道路が一本、遙か下の方にあった。遠くに目を移せば、大きな幹線道路が走っていて、さっきの細い道が毛細血管とすればこちらは動脈といったところ。


 ナトリウムランプの明かりが、ぼんやりと輝いている。まだ空は明るいから、大して自己主張してはいない。そちらでは数え切れないほどの車が行き交っている。


 こんなことをのんびり観察しているほどの猶予とか余裕があったわけではない。全ては一瞬の間に僕の目に入った。それらをここに述べ連ねてみると、長ったらしくて仕方がないというのは不思議なことだ。


 確かに、山の斜面に鬱蒼と生い茂った木々をへし折り、倒れている怪物の姿は、視線をつかんで放さないものではあっただろう。しかし僕はそいつを見下ろしながら、一瞬、周りに視線をさまよわせた。全てはひどく遠いところにあった。


 距離以上に、何か僕と、僕の周りに見える光景とを隔てるものがある気がした。遠くに見えた僕の知っている世界と、今僕がいる場所というか状況とは、あまりにも違っていた。事物のありようも、そこに身を置く者の考え方も、それが従っている法則(僕は平均的に素朴な実在論者だった)も、何もかもが。


 怪物は、再び立ち上がろうとしていた。二度目の『必殺技』を食らっても、まだ平気でいるらしい。僕はもう動揺も何もせずに、次の行動に移ろうとしていた。次の行動を起こさなければならないと、考えるまでもなく僕には分かっていた。


 ウーティスの言った通り、力はまだ有り余るほど全身にみなぎっていた。それは相手のこともそうだった。いったいどうすればこいつを打ち倒せるのか、そういう不安が頭をよぎった。


 とんでもない強敵だというのは、もはや、あるいは最初からわかりきっていた。それがどんどん実感になって、僕の心に影を落とし始めていた。


 ふと、ウーティスはどこにいるのか、という思いが頭をよぎった。眼下に広がる木々の間に、その姿が垣間見えた気がした。何かの役に立つと、少なくともそのときに思ったわけでもないし、あえて探そうとしたわけでもなかったし、そんなことに意味もなかっただろう。


 結局のところ怪物に対峙しているのは僕だけだった。怪物が敵意を向けてきているのは、(今からしてみれば不思議に思うべきことに。しかし僕はそれほど冷静でも利口でもなければ、最低限の記憶力すら持ち合わせていなかった)、明らかに僕に対してだったのだから。


 僕は(勇敢にも、あるいは無謀にも)直接ぶん殴ってやろうと思い立った。後ろに一つ宙返りをして、空気を蹴り、怪物に向かって飛び込んでいった。


 まだ地面に倒れていた怪物の鱗に覆われた腹に、僕の右拳がぶち当たる。もっと深々と突き刺さる様を頭の中で想像していたけれど、その想像を遙かに超えて怪物の鱗、あるいは表皮は強固だった。怪物が叫び声を上げた。僕が空気を蹴ってつけた勢いは、怪物が地面にめり込む形になって吸収されていった。怪物はのたうち回り、馬鹿でかいクレーターのような窪みができた。

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