(9)別れの瞬間に行き着くとき(その日)-2
僕に、このときに追いかけないということを選べただろうか、と思う。振り返ってみて考えてしまうのは、こういう一つ一つの選択において、僕はいつも、惰性に任せてその場の状況に沿わされるようなものばかりを選び取っていたのではないかということだ。この一ヶ月かそこらの間に、そういう失敗を僕はいくつ重ねたのか、数えるのも嫌になる。何よりも、その選択が一つでも違っていれば、つまりほんの一時でも僕が賢明だった瞬間があれば、この後に僕を待ち受けていた運命も全く違うものになっていたというのは確かだということが、いつまでも僕の心を苛んだ。そしてこれから述べることになるのは、そういう後悔が頂点に達する瞬間なのである。
見覚えのある道を、ずいぶんと長い時間走らされた。学校の帰り道を半分ほどたどり、あるところからそれを外れ、幹線道路が伸びている方に向かう。中学校(後に僕が通うことになった)の前の坂道を下り、道を曲がって陸橋の下を通り、こんもりした名前も知らない山に向かっていく。名前は知らなくても、飽きるほど目にしてきた山。
そしてガードレールを乗り越えてその山裾を駆け上がらされたときには、はっきりと一つのことを思い出していた。この山は、僕が初めてウーティスに出会った、あの光を目撃することになった山に違いなく、そして僕が今向かわされているのは、まさにその場所なのだった。
あきれるほどすばしっこく、全くペースを変えずに走り続けたウーティスについて行くだけでも、僕は必死だった。だから、自分が来たことのある場所に向かっていて、通ったことのある道(あるいは道なき道)を走っていると気がついたのは、その場所にたどり着いた、まさにその瞬間になってからだった。そこでようやくウーティスは立ち止まった。
――さっきのことだけど。
ウーティスがようやく僕の方に振り返って、そう言った。僕はぜいぜい息をあえがせ、全身汗まみれで、思考がようやく、僕の置かれている状況、ウーティスの様子、言葉に追いついてきたところだった。
――着替えなんて本当は必要ないんだよ。あの力で、作ることだってできるからね。
――なんで今まで、(息継ぎ)言ってくれなかったんだよ、(息継ぎ)そんな大事なこと!
――必要なかったから。それに、物体を作り出すなんて、けっこう力を使っちゃうからね。もったいないでしょ。戦うことに集中してもらわないと。
僕は何か言いかけたけれど、ウーティスが僕を遮って言った。
――そんなことより怪物が出たんだ。いつも通り、やっつけちまいなよ。こっちさ。
ウーティスが、山の中を駆け出した。ますます、あの場所、あの発端となった場所、僕が光を目撃し、ウーティスに出会った場所へと近づいていった。
鬱蒼とした木々の間を抜けて、深々と落ち葉の積もった山の中を歩くのは困難この上なかった。そんな僕とは対照的に、どうしてそんなことができるのか分からないほど、ウーティスはずんぐりした足で地面を蹴り、すばしっこく森の中を駆けていった。
――ちょ、ちょっと待ってよ!
僕が叫んだとき、太い木の根につまずき、僕は転んで土と落ち葉の上に顔を突っ込んでしまった。泣きわめいてしまいそうになりながらようやく顔を上げたときには、ウーティスの姿がどこにも見えなくなってしまっていた。
僕は呆然として辺りを見回し、ウーティスを探した。その名前を叫ぼうとして、それが馬鹿げた行為だということに思い当たり、何も言えなくなった。そしてなすすべなく、もう一度周囲を見回そうとしたときのことだった。
叫び声が聞こえた。絹を引き裂くような(そんなものは聞いたことがないけれど)金切り声。悲鳴だったのかもしれない。
聞こえた瞬間、僕は全身を引きつらせて驚いた。唯一の道連れを、別に見知らぬ土地ではないにせよ不案内なところで失っていた心細さのせいか、必要以上に僕は驚いてしまっていた。
しかしその驚き越しに耳の感覚が落ち着いてみると、その叫び声はいつまでも収まらず、だんだんと野太くなっていき、ついには怪獣の遠吠えのようなものへと変わっていった。耳をつんざかんばかりに大きくなったその声は、もう地鳴り(これも聞いたことはない)とほとんど区別がつかなくなってきていた。
そんな地鳴りに続いて、僕のごく近くで、葉が落ちる音、枝がへし折れる音、木々がなぎ倒される音が加わっていった。




