(9)別れの瞬間に行き着くとき(その日)-1
何もかもがいつも通りだった。朝目を覚ます時間も、朝食も、ベッドの中の過ごし方も、ゲームの進み具合も、天気の良さも、陰鬱な学校への道も、学校での扱われ方も、昼休みを一人で過ごすのも、帰りの会での教師の話も、一人で歩く帰り道も、この後そして日曜日に過ごす辺根さんとの時間への期待も。
それはいつも通りの日に見えた。ただ通り過ぎるだけの、どうと言うこともない日だったに違いないと僕は思っていた。
あるいは、そんなことを思いすらしないほどにただ過ぎ去るだけの日だったのだ、僕にとっては。ただ過ぎ去っていく、むしろ次の待ち望む瞬間のために、早く過ぎていってほしい時間。
ただ一点だけを除いて、と付け加えておくべきかもしれない。いくら日曜日が待ち遠しかったとしても、日曜日ほど特別ではなかったとしても、辺根さんと過ごせる時間は、僕にとっては大切だったし、何よりも貴重だった。だから、学校から帰って、あの秘密の、僕たちだけの秘密の待ち合わせ場所に向かって荷物を家に全て置いてまた出かけたとき(そういう形で会うことを僕は勝手に選んでいた。馬鹿なことに、と言うべきかもしれない)、僕の胸は高鳴っていて、ほんの少しの会話を交わすだけに決まっているにもかかわらず、それ以上の彩りをその時間に添えるべく考えた提案(正確には提案しようとしていたこと、思い)を抱いて、彼女の姿を見られるのが待ち遠しくて仕方がなかった。
そんな僕の思いを裏切ったというかぶち壊したのは、やはりというか何というか、ウーティスだった。そいつは、待ち合わせ場所に向かう僕の前に突然躍り出た。僕はまたかと思い、もう周りを見回すこともしなかった。
しかしウーティスの表情を見て、何か様子がいつもと違っていることに僕は気づいた。それは、言ってみれば真剣で険しい表情だったのだけれど、どこか嘲笑のようなものが含まれているような気がして、それだけで僕をぞっとさせるものがあった。
ここ最近ウーティスに対して抱いていた、嫌悪感を薄める親しみのようなものはあっという間に霧散してしまい、僕は息をのんだ。初めてそいつを目の当たりにしたときと同じように。
――待ってたよ、シズカ。
何度も聞いた台詞だった。しかし、何かこれまでとは違う響き、初めて聞くような響きがあった。深刻さであったかもしれないし、もっと得体の知れない(あるいはどす黒い)感情のせいであったのかもしれない。
それが原因になって、僕は何も答えられなかった。お決まりの悪態も、疑問による応答も。
――今すぐ来て。
――何があったんだよ。
――怪物さ、それも、とびっきり危ないやつ。さあ、今すぐ来て!
――ちょ、ちょっと待ってよ!
僕の返事を聞こうともせずに駆け出そうとしていたウーティスを呼び止め、僕は言った。いらだった様子をその顔から隠しもせずにウーティスが振り向いた。その険しい相貌に内心たじろぎながら、僕は、間抜けにもほどがある声音(内容も含めて)を発した。
――き、着替え、持ってないんだよ、今。だから、変身できないよ。
ウーティスはきょとんと僕を見つめて二度三度瞬きをした後、やれやれといった様子で(全くその言葉の通りだったのだ!)ため息をつき、あっさりと言った。
――それなら心配ないよ。とにかくついてきて。早く!
そいつは、もう僕の答えを待つこともなく走り出していた。僕はどうしようもなく、結局はウーティスを追いかけて走るしかなかった。




