(7)不安の影(二日前)-1
この日僕たちは、一緒に帰り道を歩いていた。ここでいう僕たちとは、僕と、残念ながら、ウーティスだった。
ウーティスは、学校を出てしばらくしてから、僕の前に躍り出て、僕の帰り道に合流してきたのだった。僕はそいつの姿を見た瞬間に心臓が止まりそうなほど驚いたけれど、ウーティスは平然と『誰も見てやしないよ、僕には分かってるんだから』なんて言ってのけた。確かに周囲には誰の目も見えなかったけれど、僕にとっては、ウーティスのあまりにも落ち着いた様子は、腹立たしさの種にしかならなかった。
さらに不愉快だったのは、帰り道を歩く間、ウーティスはずっとしゃべり続けていた割に、たいした話を何もしなかったことだ。ロートスを探し回ったけど見つからなかったとか、そのおかげで今も眠いとか、でも戦うのはもうすぐだろうから心の準備をしておいてだとか、持って回ったようなこと、一度聞いたようなこと、まわりくどいことばかりだった。
ただそこにいるだけで、少なくともこのときは、ウーティスの存在が不愉快で仕方がなかった。焦りの原因にすらなった。
僕は踏切にさしかかって、渡ろうと思ったときにちょうどカンカン鳴り始めたために、下りてくる遮断機の足下で立ち止まった。そんな僕に、ウーティスは心底不思議そうに(こういうウーティスの態度が、僕は大嫌いだった。こんなときには、つまりいちいち説明したりしなければならないときには、特に)、
――どうしてそっちに行くんだい?帰り道はこっちでしょ?
――待ち合わせしてるんだよ。先に帰ってよ。その人に見られたらまずいだろ?
――ふうん……分かったよ。じゃあね。
意外なほどあっさりとウーティスは引き下がり、駆け出していった。道路を渡り、左右を茂みに囲まれた道に向かい、古い家の前を通り過ぎ、やがて藪の中に消えていった。
灰色の影がぴょんぴょん跳ねてそんな道のりをたどっていく様子を、しばらく見つめていた。周囲を見ても、確かに誰も見ていない。僕だけがその存在を知っている姿。
そんなことがあり得るのだろうか、と僕は思った。ウーティスは、僕に『前任者』がいるということを言った。せいぜいほのめかすという程度だったけれど、確かに言ったのだ。だから、あいつのことを知っているのが、あいつの言葉を借りればこの世界、『イリオス』とか呼ばれている世界に、僕以外に一人はいるらしい。いた、と言うべきなのかもしれない。正確に言えば、僕の他に一人しかいないらしい。
そんなことが、本当にあり得るのだろうか? あいつは平然といつも出歩いている。『ロートス』を探すとか言って。確かにあんなものが見つかればただでは済まないだろうから、何も起こっていないというのは見つかっていないということを意味しているのだろう。
しかし本当にそうなのだろうか? あんな奔放に駆け回り、僕に話しかけ、夜には出歩いているようなあいつが、僕以外の誰にも新たに見つけられていないなんていうことが、あり得るのだろうか。
当然の疑問というか、抱かずにはいられないはずの思いだっただろう。それをこんなときに不意に思い出すというのは、我ながらうかつというか、あまりにもぼんやりとしすぎだろうと思った。
僕は電車が轟音を立てて通り過ぎると、踏切を渡った。なぜか、間近に聞く電車の音は、僕を少しだけぞっとさせた。




