(6)一つの心にとっての全て(三日前)-7
――紅茶、つごうか?
――あ、うん。
――(ポットを持ち上げ、傾けながら)気に入ったなら、貸してあげるよ、それ。私も友利くんから借りてたんだし、お互い様だから。
――いいの?でも……
何度でも読みたくなるでしょ、と言うのを、僕はためらった。僕は同じ本を何度も読み返すのが常だったけれど、彼女はいつも、僕が目にする時には違う本を手にしていたからだ。だから、全く共感を得られない言葉になってしまうのではないかと僕は思った。
――あ……ありがとう。すぐ読んで、返すから。
――急がなくてもいいよ。私はもう読んじゃったから。
僕は慌てて答えた。
――でも、また読みたくなるかもしれないし……
――先に読んでよ。私は、友利くんが読み終わってからで、いいから。
こんな風にしきりに何かを勧めてくる彼女というのは、見たことがなかったし、想像もつかなかったと思う。今思い出しても、なぜ彼女が僕に対してこんな表情を見せてくれたのかと考えてしまう。
この日は他にも何冊かの彼女が持っている本を、少し読ませてもらった。僕と好みが似ている、つまり、古い、外国の本をよく読んでいるというのは知っていたけれど、その中身が僕の場合とはまるで違っていると、このときはっきりと知った。
今までは、たとえば一緒に歩く帰り道では、似ているところ、接点ばかりを目にしてきたわけだけれど、この日は、彼女が僕とどれだけ違っていたのかを知ることになった。きっとその中に、僕が知ることができるもの、好きになることができるもの、共有できるものがあるに違いなかったし、そこには宝物がいくつも紛れているに違いなかった。
僕と彼女の間にあった透明なガラスの壁、存在を知らなかったし、意識したこともなかったその一つが、取り払われたような気がした。
もう何冊か勧められたけれど、僕は一冊だけ、彼女が最初に勧めた一冊だけを借りることにした。辺根さんについでもらった二杯目の紅茶を飲んだ。そして、出された手前、全く手をつけないのはたぶん失礼だと思って、僕はクッキーを一枚食べた。
何をそんなに話すことがあったのか、一時間ほどを彼女の家で、部屋で過ごした。そしてまたランドセルを背負って、僕は彼女に玄関まで見送られながら、帰り道に戻った。
そして家までの道を歩いている間、余韻に浸るというのが僕のいつものならいだったと思うのだけれど、僕はまだ、こんな関係は許されるのだろうかといったことを考えて悶々としながら歩いていた。
夜、自分の部屋で彼女から借りた本を開いてみた。一話目を、妙に難しい言葉が使われているのに苦しみながら読んだ。その日はこの一話だけにしておいた。時間はまだあるのだから、一気に読んでしまうのはもったいないなどと思って、それを疑いもせずに。




