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(5)小波に追い詰められて(四日前)-1

 学校に、朝礼というものがある。今こうして十数年の時を隔ててしまうと、それがどういうものだったのか、そもそも何のためにあったのか、そういう話は全くもやに包まれたようにはっきりしなくなってしまっている。しかし、この日のことだけは、この日に話されたことだけは、明瞭に覚えていた。


 月曜日恒例の全校の朝礼で体育館に集められ、偉い人の退屈な話を(いつまでたっても、偉い人の話は退屈だった。少なくとも、僕にとっては)聞かされるというのがいつものことだった。どういうことが話されたか、そんな内容なんて、いちいち覚えてやしない。しかしこの日の話だけは、はっきりと覚えている。


 なんでも、学校の近くで、最近、動物の死体が続けて見つかっていたらしい。もちろんただの死体ではなくて、『無残にも』(言い得て妙)殺されたもの。


 具体的なことは何も触れられなかったけれど、たぶん、喉を木の枝で刺し貫かれた犬であったり、線路で轢断させられた鳥であったり、撲殺された猫であったり、腹を引き裂かれた蜘蛛であったり(いや、これは小さすぎて話題にならないか)するのだろう。それを知っているのは、教師以外では僕だけだったに違いない。心当たり(これもうってつけの言葉)があったのも、僕だけだっただろう。


 話は要するに、そういうものが見つかっていることに続けて、不審な人について行ったりしないように、遅くなるまで遊ばないように、等々といった警告だった。お決まりの文句ではあったけれど、深刻さが、そのわざとらしい口調に表れていた。


 確かに、そういう動物の惨死が人間に取って代わるということはままある。と言うか、あったらしい。そうなるとそれは事件と呼ばれて、たとえばインターネット上に一ページ割いてそのことについて事細かく、あることないこと書かれたりする。


 わけの分からない経緯が捏造されて、全く無関係の人が犯人に仕立て上げられたり、別の事物と(たとえばある冤罪事件があるアニメ映画と)結びつけられたりする。そういう事件は、全く胃をむかつかせたり吐き気を催させたりするものでしかないくせに、何か人を惹きつける魅惑がある。


 僕自身も、ある時期、そういう事件についての記事を求めて、インターネット上をさまよったこともある。楽しくもなんともないし、感動するわけでもない、するわけがない。


 読み進めていくうちに胸が悪くなることもあった、と言うか、むしろいつもそうだった。『ナントカ母子殺害事件』なんて表題がつけられていたりすると、もうそれだけで的中するほかない悪い予感が現れて、読む前に内容が想像できてしまう。


 某S(その語源になった人らしい)の小説を無謀にも読んでみたときも、何でこんな物が書かれたのか、こんな物が読まれているのか(誰が読んでいるのかは知らないけれど)、唖然として、吐きそうになりながら必死の思いでページをめくっていった。いや、こんな僕の経験はどうでもいい。


 ともかく、その動物殺しの犯人が体育館に集められた中にいるのかもしれない、ということまではほのめかされたりはしなかった。外部犯。まあそう考えるだろう。そこで心配されていたのは、動物を殺しまくるようなイカれた奴が、この学校の子供に手を出すということなのだろうから。


 そうやって、この件は学校中に(今考えてみれば、周辺の学校も含めてだったのだろう)知れ渡ることになった。


 少しざわざわとしていた。興趣つきない話題ではあっただろう。しかし、僕の周り、たとえば僕の前後に並んでいる連中からすれば、少し違う意味を持っていたに違いなかった。


 僕自身が、何よりも、他とはもっとも違う反応をしていたと思う。全ての事の真相を知っていたのは僕だけだったのだから。


 二つのことのために、僕は青ざめた。一つは、僕がしてきたことが暴露されたために。これまで、そんな積み重ねてきた負債が、一気に、『否定』という形で、僕にのしかかってきたようだった。僕の『ヒーロー』稼業が誰にも理解されないというのは、はっきり分かっていたはずだった。それなのに、僕にはまだ覚悟が足りなかったらしい。


 僕は自問した。僕はいったい何をしてきたのか、と。


 そしてもう一つは、周囲のひそひそ話のせいで。聞こえたのだ、ここで話された動物の惨死と、ある猫の轢死が結びつけられたのが。


 視線というものを、はっきりと感じた気がした。あるいは、幽体離脱でもしながら、遠いところから僕を含む空間を見下ろし、周囲の人たちの視線が、僕に向けられているのをまざまざと見せられた気がした。

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