(4)壁の中という逃げ場(五日前)-1
ウーティスと長い時間話した。たぶん前の日の馬鹿げた出来事が、僕に何かしら新しい慰めを求めさせ、その対象がそいつだったということなのだろうと分析することはできる。単に話し相手がそいつしかいなかったからでもあるだろうし、ゲームにも飽きつつあった。あるいは、前の日を思い出させてしまうから、ゲームに向かうのをためらうようになってしまっていたのかもしれない。
――いったい、いつまで続くんだよ、これ。
皿に盛られたクッキーを、小さな口でかりかり言わせて少しずつ食べていたウーティスに、僕は話しかけた。ウーティスは床に置かれた皿を抱えるようにくっついていて、僕はその様子をあぐらをかいて見下ろしていた。
目を向けはしなかったけれど、テレビは大きめの音量でつけっぱなしにしていた。普段ならほとんど見ないし、今も別に見ようとしてつけたわけではない。足音や何やらから、祖父も父も母も全員下にいるのは分かっていたけれど、念のため、テレビに僕たちの会話を偽装させていたというわけだ。
口をもぐもぐさせながら、ウーティスが僕の顔を見た。相変わらずの、きょとんとした様子。感情のない様子。そりゃそうだろう、僕たち人間とは、顔の構造がまるで違うから、そもそも感情を表情で表現するという機能自体を持っていないに違いない。
つやつやした大きな目と、額の角が目立つ。磨かれた象牙のようにそれはなめらかな質感で、白い。
――これって?
あっけらかんとウーティスはそう言って、またクッキーにとりかかった。本当に何でも食べるし、何を食べてもいいらしかった。ついでに言えば、よく食べる割には何も出したりしない。僕にとっては楽というか都合が良かったけれど、そんな生活の中では、得体の知れなさはむしろますます強く残った。
――いろいろだよ、その……戦うのとか、ロートス集めとか。
――そうだね、まあいつまでもってわけじゃないよ。
――そりゃそうだろうけど……
――いや、本当にね。シズカがたくさん戦って集めてくれたおかげで、もう、イタケへの門を開くのに必要な量のロートスは集まってるんだ。
ウーティスはあっさりと言ってのけた。そのせいで、言われたこと、言われたことが表現する事態がよく飲み込めず、結局僕の方も、感情のこもらない調子で答えるしかなかった。
――なんだよ、それ……黙ってたの?
――言うタイミングがなかっただけさ。それに、集まったからってそれで終わりってわけにはいかないしね。確かにロートスがいっぱい、十分集まるのは僕にとってもうれしいことだけど。
なぜそうなのかは聞かなかった。
――まだ怪物は出るかもしれないし、それに、他にやらなきゃいけないことがある。
――あいつと戦うってこと?
――ああ、そうさ。ポリフェムスをどうにかしないと、何も終わらない。前のときはロートスをとられてしまったけど、ほとんどは僕たちが集めているんだから、向こうには手持ちが少なくて、もう必死なはずさ。だからわざわざ出てきたりして、シズカをおびき出したんだと思うよ。
――あいつが探してたのは、君なんじゃないの。
――だから、出て行かなかったさ。ああもちろん、シズカには悪いと思ったけどね。
嘘くさかったけど、何も言わなかった。ウーティスは続けた。
――でも結局あいつの狙いは僕、じゃなくて、僕の持ってるロートスなんだから、最後には手を出さないで消えてくれたでしょ。そういう奴だからね、あいつは。
――よく知ってるんだね。
――そりゃあ、絶対に戦わなくちゃいけない相手だからね、よく知ってるさ。僕たちの世界のイタケじゃ、有名だし。何しろ、悪魔みたいなやつなんだから。
――その割には、潔かったけど。
――そりゃ単に気障なだけだよ。君も見ただろ?あいつは、化け物を操りもして、どんなことでも平然とやってのけるような奴なんだから。でも確かに強いから、ああやって、余裕のあるふりをするんだろうね。いくらロートスを失って、力がなくなっても。
――力を失っていても、まだ強いわけ?
――ああ、そうさ。君が戦ったあの虫の化け物の力だって、とんでもないものだったんだ。君は見事に倒してくれたけどね。とにかく、またあいつが来るに違いないんだ。あいつとの戦いが迫ってる。それに勝てば、全部おしまいさ。
――向こうも必死なんでしょ。それに、僕が勝てるの?
――勝てるさ。そのための力を君は持ってる。君は、『ヒーロー』なんだから。どんな敵にだって勝てるさ。ポリフェムスを倒して、あいつが持ってる最後のロートスを手に入れて、僕は門を開いて、あいつを連れ帰る。それでおしまい。
――そう簡単には、いかないんじゃないの。
――だろうね。でも戦ってもらわなくちゃいけない。僕には、そんな力はないんだから。君を『ヒーロー』にしてあげることはできても、僕自身は戦えないんだから。
無責任な話だな、と言う代わりに、僕はため息交じりの生返事で答えた。




