(3)不快な失望(六日前)-4
どれだけの時間祖父が怒鳴り続けてからかも分からないけれど、やっと父が慌てて降りてきた。僕は階段口から影に入って身を隠し、事の経過をその影から見守った、いや、聞き守った。
父が割って入ると、父が隣人に言った弁解めいた(と祖父には聞こえたのだろう)謝罪の言葉が気にくわなかったらしく、今度は怒声が父に向けられた。もはやその後の祖父の言葉は言葉と表現するのも嫌になるくらいわけが分からない支離滅裂なものになってしまい、たぶん誰かの何かを非難しようとしているらしいのだけれど、誰の何をどう非難しているのか、理解のしようもなくなってしまった。
隣人に対する怒声は、息子に対する罵詈雑言に形を変え、それに対して父はその父に対して、平静を装っていたけれど、言葉の節々には、うんざりした感じと怒りが感じ取れた。抜け目なく窓とカーテンを閉めたりしながら、最初は祖父の言葉を受け流すような態度でいた父も、だんだんといらだちがつのっていったらしく、言葉の調子は二次関数の曲線のように徐々に激しくなっていき、すぐに口論のような状態になった。
これほど馬鹿げた状況はなかった。立場とかモラルとか、そういういろいろな意味からして、この場の状況は、僕が直面してはいけないものになってしまっていた。
僕の感覚からすれば『俗悪』な二人の、このまま放っておけばののしり合いになってしまうのではないかという最悪と言うほかない口論に背を向けて、今度は足音を忍ばせて階段を上がり、こっそりと自分の部屋に戻った。
ベッドの影からウーティスが顔を出し、『何かあったの?』とのんきに尋ねてきた。そんな様子が、『俗悪』な二人とは対照的とも言っていいほどにあっさりとしたその態度が、この場では何かひどく慰めになってくれたように感じられた。『何でもないよ』と、優しい調子で答える気にさせるほどに。
腹に何を抱えているのか知れないやつだったけれど、少なくとも、あの二人ほどの俗悪さは持っていない、あの二人よりも遙かに狡猾に違いないということが、わずかなりともそいつに対して敬意を抱かせる方向に作用していたのだと思う。だから、普段なら絶対に交わさないような、積極的な意味を持った言葉を、ウーティスに向かって投げてみたりした。『怪物の気配は?』『ロートスの感じは?』『次はどんなのと戦うことになる?』等々。
ウーティスもそんな僕の様子には多少なりとも驚いたのか、少しきょとんとして、目を細めて僕を見つめたりした。部屋に確保しておいた菓子を一緒に食べながらぼそぼそと話すというのが、奇妙なほど楽しく感じられたりした。
階下から聞こえる切れ切れの怒声を完全に無視させてくれるくらいには、僕はウーティスとの会話に熱中していた。
僕が父も祖父も尊敬していないということは、もうどこかで言ったと思う。それを真に決定的にしたのが、この日の三度に及ぶ張り上げられた怒声と、大の大人(片方は老人と言っていい)同士の口論だった。




