(3)不快な失望(六日前)-3
信じられないというか、信じたくないことに、この騒ぎは一度だけでなく、その日に三回も起こった。
二回目は昼前に、今度は勝手口を出たところで裏の家に対する怒鳴り声が発せられるところから始まり、すぐに気づいた(起きていればそりゃすぐに気づくだろう)母がなだめて、存外あっさりと終わってくれた。僕はその後こっそりと、母に、それが今日二回目なのだと伝えた。母は驚いた様子を見せ、ため息をついて僕に答えた。
三回目は夕方だった。朝と同じような状況で、居間の窓から外に向かってまた怒声が発せられた。父は自分の部屋にいて(結構な音量で音楽が漏れ聞こえていた)、母は買い物に出かけていたので、たぶんすぐに気づくことができたのは僕だけだったろう。
僕も自分の部屋にいて、朝と同じようにベッドの中でゲームをしていたけれど、このときにはイヤホンをつけていなかった。二度も続いたことで、悪い予感がしていたし、そして警戒してもいたから、というのがその理由。
近所(距離感を表すのに便利な言葉だ)に響き渡る怒声を前にして、僕はただ胃を痛くし、肝を冷やしていた。予想していた通りのことが起きてしまったというのは、たぶん予想外のことが起きたというよりも、何というか、たちが悪い感覚を呼び起こすものだと思う。崩れ落ちるのがわかりきっているぼろい橋に足を踏み入れ、実際思い描いた通りにその橋から落下するというのは、とてつもなく間抜けだ。
その日三度目の祖父の怒鳴り散らす声を前にした僕はそんな気分で、ウーティスの他に誰も聞いていないのをいいことに、はっきりと声に出して、『ああ、くそったれ!』と吐き捨てた。事態が深刻な方向に進んでいるのは明らかだった。
僕はどたどたと騒がしく(朝と同じようにわざとそうしたのだけれど、この場では結局意味がなかった)階段を駆け下り、居間に向かった。
祖父がわめいている内容は、朝とほとんど同じだった。朝のことを、本当にさっぱりと忘れていたのかもしれない。同じような声を聞かされ光景を見させられている僕の方が、何かおかしくなってしまったのではないかという感覚に襲われる始末だった。
僕は階段を降りたところで朝と同じように立ち止まり、そのまま呆然と立ち尽くしていた。既視感を存分に味わいながら祖父の声をただ聞き、窓越しに見える隣の家の人と何度か目が合い、心臓がどろどろ溶け出しているような感覚が、僕の胸を襲っていていた。
僕にはどうすればいいのか分からなかったし、実際何もしなかった。僕の控えめな性格のせいであり、都合の悪いことに対していつもあまりにも消極的でしかなかった僕という人間の正体を、まさに暴き立てられているような気がした。




