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(2)ある朝-3

 通学路を歩いていくと、ずっと前の方に、僕と同じランドセルと帽子姿の集団が見えた。先頭の子が黄色い旗を持っている。集団登校とかいうやつで、僕も本当はそこに加わっていなければならなかった。


 いつからだったか、僕はわざと集合時間から遅れて行くようにしていた。そうすれば、一人で歩いて行くことができるので。


 最初は偶然だった。寝坊して遅れてしまったのだけれど、そのときに、遅れて行きさえすれば、(薄情にも)置いていかれて一人で歩くことができると知った。それ以来、僕はいつもわざと遅い時間に家を出るようにして、学校までを一人で歩いた。


 その方が、僕にとっては快適だった。昔から集団を作って何かをやるということが、苦手だったからだ。たいして話すことも、気が合うこともない相手と一緒に歩き続けるなんて、よくそれまで続けたと思うくらいだった。


 そしてもうこの頃にはすっかり一人で歩くのが、ごく普通のことになっていた。向こう(待つ側)も、とっくにこの状態が定着してしまっていた。僕には都合が良かったってわけだ。


 朝の通学路を一人で歩くのは、そんな単に好みの問題以上に僕にとって重要なことだった。僕は、学校までの道を、大きく回り道をして歩く。そうしなければならなかったし、そうしたかった。


 住宅街というか団地の端っこで取り残されたように建っている神社の階段の前に、一人の女性が立っていた。


 近くの高校の制服姿で、眼鏡をかけた、長い髪を頭の後ろで束ねた女性。僕はその姿を認めると、いつものように駆け出した。そうせずにはいられないくらいに、僕の胸はいつも高鳴っていた。


 ――鹿屋(しかや)さん!


 僕は手を振りながら近づいていき、彼女は控えめに手を振って答える。息を弾ませながら、彼女の名前を呼んだ。


 ――おはようございます!

 ――おはよう、友利くん。


 僕よりもずっと背の高い彼女は、いつものように微笑んで、僕の挨拶に応えた。ほんのりと、雲か雪のようにぼんやりとしていて、優しく。


 ここに来るために、この笑顔を見るために、何より、彼女と一緒に歩くために、いつも僕は一人で、他の人たちから外れた道にいたのだった。


 彼女は歩き出し、僕もそれに続く。そうやって、一緒に歩いた。いつものように。


 ――あの……読んでます。貸してもらった本。

 ――そう。どうだった?

 ――すごくおもしろいです。なんて言うか、文章が優しくて、おもしろい授業を受けてるみたいで。昔の人のものの考え方って、おもしろいですよね、難しいですけど……とにかく、頑張って読んでます。学校の授業とは大違いですよ。あっちは、つまらないんで。

 ――そこまで言わなくても。でも、気に入ってもらえて、良かった。


 僕たちが一緒に歩けたのは、当然、僕と彼女の通学路というかそれぞれの学校への道筋が重なっている間だけだった。時間にすれば、十分もなかっただろうと思う。僕にはたったそれだけの時間が、本当に、とても大切な時間だった。


 この日のように話し続けることもあれば、ほとんど何も話さずに終わってしまうこともあった。それでも、どんな形でも、こうして彼女と歩くことだけで、僕の心は雲間から日が差すように明るくなった。朝の憂鬱を、晴らしてくれるような気がした。


 彼女、鹿屋奈緒さん(しかや・なお、不思議な口触りだ)と、探しても見つけられそうもない接点によって出会ったという不思議な出来事については、また語る機会があるだろうからここでは触れないでおく。


 ともかく、こういう関係になることができたのは、僕にとってはとてもうれしかったし、その一方では、なかなかできそうにないことだとは思う。

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