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(2)ある朝-2

 しばらくすると、ベッドがきしむ音がして、両親が起き出してきたのが分かった。僕はかぶっていた布団から顔だけ出し、時間を確認して、よしよしまだまだ楽しめると思って、自分の空間に戻る。


 朝食を全部自分で済ませるようになってから、もうかなり時間がたっているから、両親にしても、僕に対していちいち確認したりしない。信頼されてたってわけだ。だから、母が用意するのは三人分の朝食だった。


 僕がベッドの中で一人きりの楽しみに耽っている間、母は階段を降りていき、もう居間にいた祖父に挨拶をしてキッチンに向かい、冷蔵庫を開けて卵や野菜を取り出し、フライパンと鍋を火にかける。そんな様子が、音として聞こえてくる。


 毎日のように繰り返されてきたことだった。僕はそこに加わらないようになっていた。特段のきっかけがあったわけでもないし、単に自分の楽しみに熱中できる時間を作りたいと思った結果、僕だけがその日常から外れてしまっただけのことだった。もっとも、母が朝食を作るのを、二人か三人で待ち構えるという構図から離れたかったという思いが原因とならなかったとは言えない。


 ベッドから出なければいけない時間のぎりぎりまで粘ってから、僕は布団をはねのけてタンスのある部屋に向かい、適当に上下の服を選んで(選択肢が多かったわけではないけれど)身に着ける。その日に何を選んだのかは覚えていないけれど、その頃のお気に入りで季節にも合っていた、灰色のノースリーブのパーカーとカーキ色のハーフパンツという格好だったと考えることにする――嫌な思い出にも結びつく服ではあるけれど。


 枕元の文庫本と、妄想を書き込みまくって四つ折りにしたプリントを教科書と一緒にランドセルに押し込んで、帽子を持って階段を降りていく。そして居間に入って、ソファーにどっかり腰を下ろす。テレビでは、僕が朝見ていたニュース番組がまだ続いている。


 隣のダイニングでは、両親と祖父が食卓を囲んでいた。両親が向かい合って座り、僕の席はもちろん空いている。その会話が聞こえる。


 一番多くしゃべっていたのは祖父だった。というか、祖父以外はほとんど何も話さずに朝食を食べているのが常だった。


 この日も、祖父は家の周りに出没する野良猫についての愚痴を語っていた。僕は特段に猫好きというわけではなかったけれど、この頃の祖父の様子、猫に対する愚痴というか恨み言を延々と聞かされるのは、僕を暗澹たる気持ちにさせた。時には、家の近くで見つけたから思い切り蹴り飛ばしてやったなどという話が飛び出していたし、それが僕をどれだけうんざりさせていたか、思い出すだけでもぞっとするほどだった。わけの分からない眉唾物としか思えないような器具を買ってまで(値段を調べて僕は唖然とした)猫を退散させようとしている祖父の様子は、僕の祖父に対する尊敬の念をどんどん失わせていった。


 両親は、祖父の言うことにときどき生返事で答えるくらいで、真剣に取り合おうとしている様子はなかった。父は新聞の影に隠れて話に答える気がないことを露骨に示していたし、母は最初は頷いたり返事をしたりしていたけれど、少し経てば、食器を洗ったりするのに忙しいというふりをする。祖父は、そんな自分だけがしゃべっているという状況なんて全く意に介さず、気の済むまで話し続ける。


 毎朝、こんな状態だった。僕は食卓には着かず、それを耳だけを向けて様子を気にする。


 こうするのは、いつも不愉快だった。けれど朝に一回ぐらい姿を見せておかないといけないだろうと思っていたから、中途半端でも、居間にいるようにしていた。


 そして、少し遅めの時間に(テレビで天気予報が終わってから少しした頃)、ソファーから足を投げ出すのをやめて、立ち上がる。帽子をかぶり、テーブルに着いている父と祖父、キッチンにいる母を横目に、僕は玄関に向かう。


 ――行ってきます。


 そう言っても、特に何も答えは返ってこない。耳の遠くなった祖父が、ちょうどテレビに文句を言っていた(何の意味があるのか!)からでもあっただろうけれど、いつもだいたいそんな感じだから、僕はもうとっくに返事がないことには慣れっこになっていて、そのまま家を出た。

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