(2)すがる記憶(七日前)-8
僕は猛然と居間から飛び出して、階段を駆け上がった。自分の部屋に入ってランドセルと帽子をベッドにたたきつけると、両親の寝室(兼、母の部屋)に入った。そこに置かれているパソコンの電源を入れて、起動するまでの時間、デスクを爪でこつこつ叩き続けて待ち構えた。
ようやく壁紙が現れると、僕は丸いアイコンをクリックし、キーボードを打った。『動物 死体 処理』、『道路 猫 死体 連絡』、『死体 後始末 路上 動物』……どういう風に探してみても、画面から帰ってくる答えは同じようなものだった。
結局、市の名前を加えて検索して電話番号を見つけ出すと、電話の子機を手にとって、僕は震える手で、しかし一切の躊躇なしに、その番号を押した。そして、僕の手中の一件は、まさしく事務的な手続きによって、拍子抜けするほどあっさりと、手早く片付けられたのだった。
日が暮れる頃には、もう道路にはどす黒い染みが残っているだけになっていた。『まだここに染みがある』。某夫人の振る舞いにも一理ある。
夕焼けが、鮮やかな橙色で空を染め始めた下で、何かの影のようなその染みを呆然と見つめていると、祖父が僕に何か声をかけたのを覚えている。が、何を言われたのかは覚えていない。少なくとも僕にとっては、覚えている価値のない言葉だったに違いない。
夕食の支度をしている時、父が帰ってきた。湯がいて暖めるだけで形になる総菜を皿に取り分けている間、まだ居間にいた祖父が、僕がしたことを父に語っていた。
父は食堂から僕に声をかけて、僕のしたことを褒めた。普段の生活ではめったにそんなことをしない父が、今日に限って、このときに限って僕を褒めた。そんなに褒めるくらいなら、てめえで(自分で)すれば良かったじゃないかと、ぎりぎりと音が鳴りそうなほど歯を食いしばりながら思った。僕は父の褒め言葉に無言で通した。
父は僕に対して『偉い』と言った。何がどう偉いのか説明してみろと思った。
これほどうれしくもない褒め言葉は、聞いたことがなかった。思うに、僕が褒められているのは、その役割においてだけなのであって、しかもその役割というのは、どうやらトイレで水を流すレバーに奇妙なほど似ているのだろう。
同じことがもう一度起きたっておかしくないし、そのとき、僕はまた同じことをするだろう。しかしそれは、褒められるためにするのでは決してなかった。
たいしたことの起こらなかった日だと思って、ただひたすらそう思って、ベッドに入った。大人はみんな同じだと、子供じみた考えが頭の中を満たしていた。




