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(2)すがる記憶(七日前)-7

 解放というか釈放というか、とにかく自由になると、辺根さんを待たずに、そして追いついたりしないように、大急ぎで学校を出た。僕はできる限り急いだ。できる限りの速足で歩いた。何も待ち遠しいものがあったわけではないのに。


 そのために、辺根さんとの時間を犠牲にするほどの価値があるものが待ち受けていたなどというわけでもないのに、僕は彼女を置き去りにして、大急ぎで帰り道を歩いた。約束をしていたわけではなかったし、彼女は普段僕を待ったりせずに帰っていたから、置き去りという表現はあまり適切ではないかもしれないけれど、状況を描写するにはちょうどいい。


 僕が教室を出るとき、彼女は席に座ったままだった。彼女のその席の後ろを、ほとんど駆け出しそうな勢いで僕は通り抜けた。彼女の様子を見ることもなかったほどの勢い。


 僕は、僕を待ち受けているものについて考えた。憐憫の情を催すものであり、あってほしくないものであり、目を背けたいものであったけれど。考えずにはいられなかった。楽しみでもなんでもなく、価値もない、胃を痛くさせたり血を凍らせてしまうようなものだったとしても、考えずにはいられなかった。


 そんなことを考えっぱなしだった帰り道は、とてつもなく長く感じられた。帰り道の景色、その移り変わりの密度は変わらなかったはずなのに、時間だけが長く、重く、僕の背中にのしかかっている気がした。あと半分、あと四分の一、あと少し、あと少し、といくら考えても、時間感覚はむしろ、その空間感覚に反比例して長くなっているようだった。


 果たして、無限にも思える時間(実際には普段通りなら三十分弱、速足だったからもう少し短かったかもしれない)の末にたどり着いた僕の家の前で、僕は、まるで様子を変えていなかった、あの猫に出迎えられた。しかし血の色だけは、朝の記憶よりもどす黒く見えた。それは単に時間が経っていたせいだったのだろうか。


 とにかく、僕は薄汚れた毛皮(路面に張り付いた毛皮と化していなかったのは、幸いと言えたのだろうか)と、こちらを見ているように見開かれた目におびえながら大きく回り込んで、玄関のドアを開けた。震える手で靴を脱いで、スリッパをはかずに駆け出しそうになって初めて、忘れていた「ただいま」の声を恐る恐る発した。


 ――おう、お帰り。


 和室ではなく居間の方から、祖父の声が聞こえた。いつも通りの調子。僕が身構えていたのとは、全く対照的なほどに。


 横歩きで、居間に体を半分だけ突っ込んで、中の様子を見てみた。ソファーにどっかり座って、祖父はテレビに向かっていた。なぜあえてそこにいたのかは分からなかったけれど、何事もなかったように、何一つ変わらない日常の中にいるように、そこに座っていた。


 祖父が口を開いて、何か言った。テレビにひとしきり文句を言った。その後、最も聞きたくなかった一言が、祖父の口をついて出た。


 それに続けて、何度も聞かされた文句が垂れ流された。塀の上を歩いて行く姿。車の上を通って、そこに足跡をつける。犬走りを駆け回り、夜に鳴き声を上げ、朝、砂利の上に糞尿の跡を残していく。蹴り飛ばした。


 『俺には関係ない』。

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