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(1)月明かりの下の対峙

 月明かりに照らされて、その真っ白な姿が浮かび上がっている。半ばのけぞるようにして、脇を通された片腕に抱きかかえられ、顔にはそのさらりとした髪がかかり、閉じられた瞼、そのもつれ合った睫毛の一本一本まで見えるようだった。


 つやのある唇は半開きになって、きっと湿った吐息が、緩やかに漏れ出ていることだろう。首筋から鎖骨に始まって、膨らみのほんのわずか盛り上がる胸(その先端はぷっくりと控えめに膨れている)、少しだけ浮き出て見える肋骨、ゆるやかに、そしてささやかにくびれたお腹、腰骨、細い太股からふくらはぎ、小さな足へと至るラインが、はっきりと夕闇の中に見えている。


 彼女の身体の全て、黒い髪と白い肌で作られたその姿が、僕の眼前に晒されていた。


 彼女を片腕で抱きかかえていたのは、片目が大きな傷でつぶれている男、いや、男と言うには若すぎるというか幼すぎる、少年だった。背丈や年頃は、僕と同じくらいだろう。残った右目は、薄明かりの中で、爛々と輝いていた。


 時折吹く冷たい風が、その首に巻かれた長く大きなスカーフをたなびかせていた。その下の装束は、緩やかに全身を覆っていて、体の線などまるで見えない。袖口から見える手やスカーフの巻き付く首は細く、僕と同じように、大人をデフォルメしたような幼い姿だった。


 十月の初めにしては、空気が冷たかった。透き通った空気は、雲の輪郭も、月の輝きも、その姿を邪魔することなくくっきりと僕の目に届かせていた。


 風が吹くたびに、僕の肌が晒されている腕と太股には、冷気が柔らかく、蚊の針のように、緩やかにしみこんでいった。


 僕は顔に目元を隠すマスクを着け、体の幹を覆う赤い装束は足の付け根が切れ上がり、股間の膨らみは隠しようがなく、手袋は肘まで、ブーツは膝にまで達する。


 僕が背負わされている役目、『ヒーロー』としての姿。穏やかに冷たい風は、僕が身に着けるマントと、ささやかに股間を隠してくれるパレオもまたたなびかせた。僕の握った手が小さく震えているのは、その冷気のせいではなかった。


 まん丸い月は申し分なく輝き、その空に浮かぶ雲と一緒に、僕が見た全ての光景、そしてそれ以上の光景を、照らし出してくれていたことだろう。そのまぶしいほどの輝きの前に、星々は出番を失っている。


 僕はそんな月の下で、そいつと、彼女の姿を見据えた。彼女、辺根良子という名前を持つ少女――今は目を閉じて、きっとその意識は夢の中を漂っている――を片腕で抱きかかえ、残った右目で僕をにらみつけるポリフェムスの姿を。

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