(5)ヒーローの挫折-2
しかし、そんな風に済ませられない致命的な出来事が、そのすぐ後に待っていた。翌日、僕はいつも通りの時間に起きて、鳴る前の目覚ましを止めた。そして、窓が網戸ごと開いているのに気がついた。
そういうこと自体は初めてではなかったから、なぜそんなことになっているのかは分かった。だから僕が動じなかったかと言えば全く逆で、ああちくしょう、今朝はこうなるのかと、ため息交じりに思った。
ウーティスが、僕がベッドから起き上がるのを待ち構えていた。なぜ僕をたたき起こさなかったのかは分からない。少なくとも、僕に気を遣ったというわけではないというのは間違いないから、たぶんタイミングがちょうど良かったというだけのことなのだろう。
そんなウーティスが、いつもの朝の挨拶に続けて、こんなことを言い出した。
――今すぐ外に出る用意をして。ロートスを見つけたんだ、もう化け物に取り込まれてる。急がなきゃ!
ささやき声で、しかし口調は荒く。僕のパジャマの裾を引っ張りまでして、僕をせかした。
寝ぼけまなこの中にいるウーティスは、これまでに見たことがないほど必死の形相だった――たいして表情の形に変わる余地があったわけでもないけれど。その暴れようは、すぐにも隣の部屋で寝ている両親に気づかれるんじゃないかと思わされて背筋がぞっとするほどで、僕は文字通り布団をはね飛ばしてベッドから飛び降り、寝ぼけて状況を完全には理解していないまま、要するに訳の分からないまま大急ぎで着替えて、前の日の晩に用意してあったランドセルを背負い、プールバッグを持った。
そこまで至っても何も考えられないほどぼーっとしていて、しかしその一方ではただひたすら焦っていた。そんな、息を潜めたほとんど無意識の大騒ぎの末に、僕は家を飛び出した。
ウーティスと一緒に家を出たのは、初めてだった。いつもなら僕が気にしているところを、僕の代わりにか用心深く、
――大丈夫、誰も見てないって!
こんな言葉を投げつけられたところで、僕にとってはどうでもよかった。というか、何も感じなかった。感じられないくらいぼーっとしていたし、目は覚めつつあったけれど、目が覚めたところで、もうこういう生活にうんざりするくらいに慣れきってしまっていたからだろう。いくら朝飛び出すハメになるのが初めてだったとしても。
その後で何が起こったのか、あえて詳しく述べる必要はないと思うので、簡単に済ませる。僕はウーティスの後をついて行き、その先で化け物に遭遇し、服を脱ぐ間もなく『変身』することになって、僕は化け物を追いかけ回した。
それは、よく覚えているのだけれど、灰色のサバトラの猫から変化した化け物だった。たいして大きくはなっていなくて、僕に襲いかかってくることもなかった。おかげで僕は木々の間を(そこばかりを走り回っていた気がする。このときも、その前も、その後も)かけずり回らされたのだから、素直に向かってきてくれた方が楽ができたに違いない。
あの『必殺技』にしても、見た目の派手さの割には広い範囲を吹き飛ばしてくれたりはせず、きっちり狙わないと当たってくれないし、いくら空を飛べても、木々の下で走り回る大きくもない化け物を探したり追いかけるのに役に立ってはくれない。
だから、僕は自分の体だけを使って山の中を走り回った。あのスーツも僕の心臓や肺までは強健にしてはくれないらしくて、ぜいぜい言いながら、汗だくになり、道なき道というか、道なんてありもしない山の中を、何を追いかけているんだか分からないくらい頭をくらくらさせながら走り回った僕の姿は、客観的に見れば、たぶんとんでもなく間抜けに見えただろうと思う。
とにかくそうやって、馬鹿げた追いかけっこの末にその化け物を捕まえて叩き殺し(その感触の不快さと後味の悪さについてはもう思い出したくもないので述べない)、ウーティスが満足そうにして、しかし同時にやれやれという感じに目を閉じて角を光らせて肩をすくめた時には、学校では始業のチャイムが鳴っている頃だった。




