(4)ヒーローの日常-2
しかしそんなウーティスの、何というか、場慣れした様子が、何か不穏なものを僕に感じさせた。話によれば僕の『前任者』がいたようだったから、そこでそんな過ごし方を知ったのかもしれない。ウーティスの愛らしいとまあまあ言えそうな姿の、その後ろ側にはちらちらと狡猾なそいつの目がのぞいて、光っているような気がした。
第一、そうやっておとなしくしているのはウーティスにとって都合のいいときだけであって、必要があれば、僕を夜中にたたき起こしてロートス探し、あるいは化け物退治に連れ出すことすらあった。だから、ウーティスの態度はあくまでしなを作るようなものであって、僕を懐柔するためでしかなかったのだと思う。
――夕べはずっと探してたんだけど、ふあぁ、見つからなくてね。この近くにあるっていうのは、感じてるんだけどね。
――夜中に出歩くのさぁ、やめてほしいんだけど。
――そうのんきにも構えてられないから。まあ、シズカには悪いと思ってるよ。
思っていないくせに、とは答えずに、僕はベッドの中でロボットを駒のように動かすゲームに向かっていた。まともに集中できなかったのは言うまでもない。
いくらウーティスと話したって、別に何も進展したりはしなかった。話すべきことは、会って最初の晩に、全部聞いてしまっていたからだ。この日には、もうとっくに、そのくらいは理解していた。
少なくとも、あれ以上の情報を僕に与えようという気はないということが、僕には分かっていた。何か聞いたところで、『知らない』『さあ』『どうでもいいでしょ』『必要になったら教えるよ』『君に何か関係があるの?』『それがどうかした?』などなど、おざなりな答えで済まされてしまうのだから。
僕は布団をかぶってゲームに向かい、ウーティスはまだ菓子の袋をごそごそやっていた。手間がかかるようでかからない僕の同居人は、やがてその袋をすっかり空っぽにしてしまって、自分でゴミ箱に突っ込むことまでしてくれる。そしてベッドの奥の影、つまりドアを開けられたりしても見えない位置で見事にまん丸になるのが、朝の習慣だった。
そういう居場所、つまりウーティス自身だけでなく、僕にとっても都合のいい場所を居場所として見つけるのは、別に僕を気遣ったわけではなく、ウーティスにとって生活をするのに、そこに溶け込むためにそうしているというだけのことだった。それくらいには自意識を持っていて、自覚的で、僕を利用するのに狡知に長けたやつだったということ。
そいつの目的と目的のために必要な労苦からすれば、その程度の妥協というか媚びというか、そんな負担はたいしたことがなかったのだろう。
僕が学校に連れて行かなかったのは、僕がウーティスにそうさせたからではなく、ウーティスの方からそう言い出したからだった。
最初の晩、ウーティスは僕に窓を開けさせて出歩いていた。その前に、つまり僕が部屋の明かりを消す前に、そう宣言したのだった。つまり、『心配しないでよ。学校? に、ついて行ったりはしないからさ。昼間は適当に出歩いてるよ。人目につかないようにね』と。
僕が初めてはっきりとウーティスの狡知の影を見た気がしたのは、このときだった。
はっきりと、一瞬だけだったけれど、僕はぞっとした。香りで獲物を誘う食虫植物のように甘い顔をしていたのだ、と思えるのは、こうしてずっと後になって、遙かに遠くから記憶を眺めるようになってからなのだけれど。
もっとも、この狡猾な同居人の存在を常に不愉快に思っていたくらいには、その頃の僕も冷静ではあった。
僕がランドセルを背負う時間になると、ウーティスは窓から僕の部屋を飛び出していく。もちろんまず最初に僕が窓から外を見回して、誰も見ていないのを確かめてから。そして、匂いをかぎ分けるんだか存在を感じるんだか、どうやってそんなことが分かるのかは分からないけれど、とにかく、ロートスを探しているらしい。
そして僕は、いつもの通り集団登校からは置き去りにされ、鹿屋さんと会い、学校に向かう。いつも通りだった――用心深く持ってきたプールバッグの他は。それについて誰にどう水を向けられても、絶対に無視しようと決めていた。
ウーティスは、間を読むことを心得ていた。心得ていたくせに、いや、心得ていたからこそ、僕にしか見えないようなところに、僕にしか分からないようなタイミングで現れたものだった。




